5
「魔王だよ」
と、俺は冗談を言った。
「ま、魔王――?」
すると、リンは一瞬、たじろいだ。
なんだ?
ビビってるのか?
その様子を見て、俺はムクムクとイタズラ心が湧き出てくるのを感じた。
「くくく。貴様、さっきから気安く話しかけていやがるが、覚悟は出来てるんだろうな」
俺はにやりと嗤った。
出来るだけ、凶悪な顔つきで。
「ま、魔王……さま?」
リンはたじろいだ。
顔が青ざめている。
そしてみるみる内に、額からは大量の汗が流れ始めた。
しまった。
ちょっとやりすぎたか。
そのように感じて、俺はふっと笑った。
「いや、冗談だよ。俺は魔王なんかじゃ」
と、そこまで言いかけたとき。
俺は思わず口を閉じた。
いや、ちょっと待て。
今さっき、リンはなんて言った?
――魔王、さま?
そう。
彼女は確かに、魔王"さま"と言った。
もしもリンが本当に女神さまからの使者ならば。
魔王に"様"なんて敬称をつけるはずがない。
「ま、魔王さまじゃ……ないの?」
リンが聞いてくる。
「……いや」
俺は少し考えてから、続けた。
「魔王だ。この俺様は、この世界を支配する魔王だ。だから分かる。貴様は女神の使者なんかではない。魔物だ。愚かで弱々しい、木っ端だ」
リンの顔が、どんどんと変わっていく。
可愛らしかった顔つきが、醜く歪んでいく。
身体も紫に変色し、耳は尖り、毒毒しい形状の尻尾まで生えてきた。
「失せろ。この雑魚が」
俺は震える心を押し殺して凄んだ。
「ひ、ひぃ」
正体を現したモンスターは、情けない声でそのように悲鳴をあげて、逃げていった。
「はあ、ヤバかった」
すっかりそいつがいなくなると、俺はその場にへたり込んだ。
やべー。
ここ、本当に魔物とかいるらしいぞ。
さっきのやつは知能が低かったからよかったが。
もっとずる賢くて凶悪なやつが出て来たら。
そう思うと恐ろしくて身震いがした。
これから先、マジでやっていけんのか。
しかもここは何も無い荒野。
どこに行くべきかも分からない。
そして俺は――
A その場でしばらく様子を見ることにした。
B 適当に太陽が浮かんでる方角へ向かうことにした。
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