2
「勇者です」
と、俺は言った。
中空に目を凝らし、見えないはずの女神さまを、精悍な眼差しで見つめた。
おかしな話だけど、その時既に、俺はその気になっていた。
女神さまにそう言われただけなのに、勇者としての自覚が芽生えていたのだ。
――ふふふ。頼もしいですね。
女神さまが微笑んだ気がした。
――それでは、これはささやかなプレゼントです。
声と同時に、目の前に剣と小さな布袋が現れた。
――さあ、行くのです。勇者よ。
それきり、声はしなくなった。
俺は剣と袋を持ち上げた。
剣は銅で出来ていた。
簡素だが、とても重くて頑丈そうだった。
袋には銀貨が数枚、入っていた。
正直、もう少しサービスしてよと思ったが、まあ仕方ない。
少し頼りない装備だけど、とりあえず出発しよう。
「とは言っても、これからどうしたものか」
誰に言うでもなく呟いた。
「あなたが勇者ね!」
すると、背後から声がした。
振り向くと、手のひらほどの大きさの人間がいた。
背中にトンボみたいな羽が生えていて、キラキラした粉を振りまきながら飛んでいる。
妖精だ。
「あ、あの、君は?」
俺が問うと、彼女は笑顔で言った。
「私は女神さまから遣わされた妖精のリン! あなたを案内するように言われてるの!」
胸を張り、何故か自慢げだ。
「そ、そうなんだ。そいつは助かる」
俺は答えた。
「あなた、お名前は?」
「俺は田中」
「タナカ? 変な名前」
妖精――リンはケラケラと笑った。
うるさい、と俺は返した。
「前の俺の世界じゃめちゃくちゃスタンダードだったんだっての」
「ま、名前なんてなんでもいいよ。それよりあなた、本物の勇者様なんでしょ?」
リンは急に真面目な顔つきになり、確認するように聞いてきた。
俺は――
A 勇者だよ。 と、真面目に返した。
B 魔王だよ。 と、冗談を言った。
Aを選んだ方は 4へ
Bを選んだ方は 5へ