13話
9月8日、文学フリマ大阪12に出店します。
サークル名…未完系。
ブース…うー23
どうしようもなく苦しい時。
私はTVや夫に子どもを任せ、毛糸とかぎ針を持って洗面所に閉じこもる。 ーー そこが一番、広さも明るさも丁度いいーー
編みかけの毛糸を、編み図を見ながら一、二、三と目を数え、一、二、三と編んでいく。編むのに飽きたら引っ張って解く。また編み図をめくり、目についたものを編む。解く。
一、二、三と数えているうちに、苦しさの原因から一歩、二歩、三歩と離れられる気がする。ぴーっと糸を引っ張って解いているうちに、毛糸と一緒にわだかまりもほどけていくような気がする。十分に距離を取り、わだかまりを解いて、そしてまた「おかあさん」として旅の続きを始めるのだ。
それでうまくいくときもある。うまくいかないときもある。
どうしようもなく、何をやってもうまくいかず、あっちをやっては打ちのめされ、こっちに手を出し後悔する。もがけばもがくほど沈んでいき、疲れて動けなくなる。
そんなときでもマダム・レースは私の中で、一人優雅に紅茶を飲み、いつもの微笑みを浮かべている。
もがくのを止めて大の字になって、私はゆっくりゆっくり水面へと向かう。
光が見えた気がして、焦って体を起こそうとしてまた沈み、少し戻ってからまたゆっくりゆっくり水面を目指す。
何度やれば学ぶのか。
まあ、それでも。
こういことも、丸ごと含めて人生で、丸ごと含めて私なんだろう。
いつか、苦しい今日の日のことを、マダム・レースに話そう。
玄関まで忘れず片づけた我が家で。
パイナップル編みのテーブルクロスかけた小さなテーブル。
温めたマグカップにたっぷりのミルクティー。
お茶請けはもちろん、マダム・レースのお手製ケーキ。
マグカップを両手で包んで持ちながら、「あの時は本当に大変でした」と話せるように生きよう。
マダム・レースはきっと微笑みながら、私を待っていてくれるだろう。
ーー 「マダム・レースと疲れたおかあさん」 完 ーー
マダム・レースと疲れたおかあさん、これにて完結となります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
私は物語に出てくる「おかあさん」よりだいぶ適当な人間なので、マダム・レースと共に頑張る「おかあさん」は偉いなあと思っています。
私の中にマダム・レースはいませんが、代わりにたくさんの物語があります。
その物語に励まされながら、毎日なんとか頑張っています。
今後も物語を世に出したり一人で楽しんだりしながら、「あの時はしんどかったよね」と話せる日を目指して生きたいと思っています。
マダム・レースは終わりましたが実はあと二人、世に出るのを待っているマダムが私の物語におりますので、いつかまた、お会いできれば幸いです。
ありがとうございました。