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人身売買

2018年 ウェストランドシティ

 バーナードは刑務所長ライリーと電話していた。「約束通りモラティンシンジケート所属の情報屋には証人保護を適用してやったよ。」「助かったよライリー。これで織田がアイルランド人を調べてくれるだろう。」「ああ。ところでバーナード・・・」「何だよ?何か問題発生か?いい加減にし・・・」「こんなことになってすまない。アロウ財団に頼むべきだったよ。」「ふん、いまさら遅いぜ。もう俺らはがっつり政府の凶悪犯お掃除作戦に関わっちまった。こうなったら最後の脱獄犯一人を殺してあんたらと手を切るだけさ。」「ああ、そうだな。」そうして電話は切れた。

 「ふう・・・」伸びきった髭をこするバーナード。ライリーから脱獄犯の粛清という明らかに違法な任務を受けたことを後悔していた。ライリーは最初バーナードの弱味を見せつけて脅した。バーナードは保身のために依頼を受けた。そしてそのせいで・・・仲間が死んだ。そのことで依頼から手を引こうとしたが遅かった。政府の連中はバーナードシールドコープを潰してほしくなければ依頼を達成しろと脅してきた。完全に抜けれない沼にはまってしまっていた。抜け出すには、凶悪なアイルランド系ギャングのボスコーネリーを殺すしかない。


二日前 場所不明

 白衣を着た男がアイルランドギャングコーネリーと話していた。「コルレッリがやられたか・・・大変な損失だな。」と白衣の男。だがコーネリーは冷たく言う。「そうかな?奴は俺の脱獄を手助けする代わりに麻薬密売への参入を許可しただけの存在だ。だが奴が死に、俺は自分の領域にイタリア人が侵入することを防げたぞ。」「ああ。だが奴が我々の協力者に渡す被検体の調達を手伝ってくれる予定だった筈だぞ。」「本当は奴の助けなんていらねえ。俺らだけでいい被検体は用意しておくよ。」「ああ。少し急いでくれよ。我々のスポンサーは新薬の開発をかなりせかしてきてるんだからな。」「チッ、分かってるよ。急ぐぜ。」


7日後 ウェストランドシティ 

 バーナードは電話を取る。相手はハワイアンジェファソンシティの仁義派ヤクザの織田だ。「織田だ。メキシコ人の友人から連絡があった。ムショから出て証人保護下に入ったようだ。助かったよ。」「いや、礼にはおよばん。じゃあ・・・」「ああ、少し待ってくれ。お望みの情報を得たぞ。アイルランドギャングについて調べてみた。どうやら出所した野郎はシマがあるリムソンシティにはいねえようだな。多分奴を蹴落としたボーエンシンジケートの連中が睨んでるからな。恐らく別の場所から遠隔で指示を出してるんだろうな。だが動きはあった。奴のシマ中で新しい難民保護施設が出来た。アイルランド難民のみならずあらゆる国の難民を受け入れている。」「設置者は?」「ドナルド・バークス。ボーエンシンジケートから脱退した大物ギャングだ。足を洗っていると思ったが、どうやら今はコーネリーの下で働いているみたいだな。」「ああ、助かった。とりあえずリムソンシティに行けばいいんだな?」「そうだな。だが気を付けろよ。難民施設には頻繁に人の出入りがある。例えば俺らともめている毛頭派の連中もそこに出入りしている。人身売買のための女子どもや債務者を乗せたバンを搬入している。」「なんだかきな臭いな。」「だろう?コーネリーの主要ビジネスは人身売買だ。だが施設を作り、他のギャングとも取引してるとなると奴はかなり大規模な顧客を抱えている可能性があるな。」「なるほどな。情報ありがとう。」「ああ。コーネリーは毛頭派と組んでるから我々の敵だ。あんたが奴を殺せば私も毛頭派を叩きやすくなるからな。」「ふん、そういうことかよ。まあいい。俺は最後の仕事をこなすよ。」


四日後 リムソンシティ 

 バスターミナルを降りたバーナードは顔をしかめる。「流石アメリカ一の犯罪都市だな。」ターミナル前には乞食が列を作り、泣き叫ぶ。中には薬物でハイになっている者もいるようだ。ある者はナイフを取り出して通行人からむりやり金をせびろうとし、見張っていた警官に取り押さえられた。

 「全く・・・で、探偵がよこした調査員にはどこで会えるんでしょう?」とリーストン。「ああ。彼の居場所は・・・こりゃ驚いた。あのバーガーショップの中だ。」「本当に!」とエレーナが指さす先にはまるで廃墟のような建物があった。ひび割れた壁、薄汚れた窓、壊れかけて火花を散らしているネオンサイン。そして玄関前に放置された悪臭を放つゴミ袋。


 油でべとべとのまずいバーガーに顔をしかめながらバーナードは自称「高名なるダイムラー先生の右腕の潜入調査官」のやせこけて縁がゆがんだ金属メガネをかけるさえない男の話を聞く。


私が調査しましたところ、奴らの施設内部の構造はこのようになっております。完全なる難民ビジネスであることが一目でわかるでしょう。まず玄関を入ったところにはフロントがあります。ここは何ら違和感がありません。ソファと観葉植物がいくつか並び、カウンターがある。だがその横には・・・ほらごらんなさい!これが曲者でしてねえ・・・ここにある唯一のドアがフロントから奥に入るドアですが・・・関係者以外立ち入り禁止と書かれている。ここに入ると一本の廊下が伸びる。両側には様々なフロアに通じるエレベーターや別の廊下、階段がある。まあ結論から言ってしまいますがどのフロアに行っても皆3畳ほどの狭い部屋がホテルのようにずらりと並ぶ廊下に出ますよ。そう、フロント以外は皆「難民アパート」です。三畳ほどの部屋には二段ベッドが二つ置かれています。そのベッド一つ一つ分が難民一人の生活スペースです。彼らは実質的に監禁状態にあります。それからこの廊下の突き当りですね・・・ここに監視室があります。五名ほどの監視員が監視カメラのチェックを行っています。さてと・・・こちらは地下の図面です。地上の入り口には正面玄関以外入り口はありませんが地下には多くの出入り口があります。まずこの正面玄関とは反対側にある入り口。ここは実質的な「裏口」であり、裏庭の噴水の隣から食料やベッドシーツなどを運ぶトラックが出入りしています。トラックはこの中央の大きなスペースに入り、そこからエレベーターを使って各フロアに物資が運ばれる・・・というわけです。それからこの横の出入り口。ここは恐らくですが奴らに人体を提供している取引先の車が入る場所です。地上からどのようにして入るかは分かりませんが、恐らく近くの工事現場です。アイルランドギャングが土地を買い占めて建築資材を運んだものの工事はされていないようですからね。そこにトラックやバンが出入りしているのがしょっちゅう見受けられますよ。で、取引先の連中も先ほどの中央のスペースに停まる。人体は別のエレベーターを使って各フロアに運ばれ、収容されるようですね。そしてダイムラー先生が最も不審に思われているのが人体運び込みと反対の入り口です。こちらの地上の入り口は全く見当もつきません。私が調べたところ、囚人護送車に似たトラックが出入りしているようです。どうやらうまくだまして収容した難民を外部に運ぶトラックのようですが・・・まあいいでしょう。あなた方の目的の所長室の場所を教えましょう。所長室は・・・ここです。見えますか?そう・・・所長室は中央の物資及び人体の運び込みスペースから少し玄関よりの場所にあります。隣接する部屋やスペースはなく、地下から侵入するなら中央スペースから伸びる一本の連絡通路を通じてしかこの部屋に侵入できない。連絡通路側入り口以外の四方は皆コンクリートで埋められています。もうひとつの侵入口として緊急用のヘリコプターが置いてある屋上から直通のエレベーターが通じていますがこれは利用できないでしょう。まずエレベーターの入り口が屋上と所長室にしかない上に屋上に通じるエレベーターは所長室以外にはない。屋上からヘリコプターで侵入しようとしても難しい。防衛システムが備え付けられています。レーザー砲四台の攻撃を食らいます。それでもどうにか降りれたとしましょう。ですがその時には屋上四隅から五名ずつの重武装の警備員が出てきている筈です。彼らはライフルを所持しています。おまけにエレベーターを使用するには所長の指紋と顔、音声の全ての認証が必要です。


「なかなか困難な侵入になりそうだな。エレーナ、かなり綿密な作戦が必要になるぞ。」だがエレーナは笑顔だ。「ええ。ですがもう考えました。」


三日後

 「すまんな。おまえらをこれから売りに行くんだ。」と後ろに乗っている難民に気づかれないようにこっそりとつぶやくバンの運転手。彼はニューカブキチョーに拠点を構える毛頭派の服部一味の者だ。ハワイアンジェファソンシティ経由で空輸により連れてこられた難民達を取引先に運搬する係だ。

 彼は難民施設「バークス財団 救護院」の隣の工事現場に近づく。「誰だ?」と工事現場の警備員のアイルランド人が聞く。「ああ。新人か。俺の名前は矢田部だ。あんたの前任者から名前くらい聞いてるだろ?一応身分証だ。」「ああ。こっちに寄越せ・・・ふむふむ・・・いいぞ。」警備員は工事現場入り口の扉を開けた。難民たちがすこしざわめく。すると運転手は本性を表す。「黙りやがれ!てめえらはこれからバークス達に売られるんだ。騒ぐのは質のいい商品とは言えんからな。」そう言ってアクセルを踏み込む運転手。だがその直後前に銃を持った一団が目の前に現れてゆく手を阻む。7つの銃口を突きつけれれて舌打ちをする矢田部。七人のうち一人が言う。「黙って降りろ。」「ああ・・くそ!何だ貴様らは!」と言いながらも矢田部は車外に下りた。バンの側面で待っていた先ほどの警備員が荒々しく矢田部を引っ張り、腰から拳銃を抜き取る。彼はバンの側面に矢田部を押し付けると服からズボン、靴の中まで探ってハンドガン三丁を見つけて没収する。「なんのつもりだ!?」すると警備員は薄笑いを浮かべて言う。「我々の昔の仲間が気持ち悪いビジネスをしてると聞いたんで邪魔しにきたのさ。」そのとき、別のアイルランド人がバンのドアから中に向かって言う。「よし、あんたらは出ていけ。移民局の連中が外にいるからな。大人しく奴らの元に行けよ。抵抗する奴は容赦なくこの銃を持った奴らに殺させるからな」その言葉で難民たちは手を挙げながら降り、誰ひとり抵抗することなく出て行く。そのアイルランド人が奥に向かって叫ぶ。「いいぞ!乗っていい!」すると何とバーナード一行が現れ、乗り込む。全員よれよれの服を着ていて髪の毛がだらしなく乱れている。難民のように見える。

「よし、お前はこの四人の『難民』をバンで届けろ。」と警備員が矢田部にピストルを突き付けながら言う。「くそ!分かったよ。」矢田部は運転席に座り、無言で発進し始める。

 「エレーナ、まさかボーエンシンジケートに協力を仰ぐとはな。」と笑いながらリーストン。「ああ。驚いたぜ。」とバーナードも呼応する。「ところでチョク、万事順調か?」「ええ。レーザー砲が暴発する準備は出来ていますよ。」「ようし、俺が今から無線でボーエンシンジケートの奴らにゴーサインを出す。それを受けたら・・・実行だ。」「はい、分かりました。」「ようし・・・おい、あんたら聞こえているか。正面玄関から突撃していいぞ!思う存分暴れろ!」「では・・・」とチョクが言い、手元にあるタブレットを操作する。


 それと同時、地上では奇妙な光が難民施設の屋上に走っていた。防空のレーザー砲が向きを変え、中央の緊急用ヘリコプターに標準を合わせ、破壊したのだ。そのあとレーザー砲は向かい合わせに撃ちあい、互いを破壊した。


 「何だ!?」受付の職員が叫ぶと同時に部屋に煙幕が張られる。暗視ゴーグルをつけた一団が「関係者以外立ち入り禁止」のドアを破壊した。そして数十人程が施設内に侵入した。


 助手席に回るバーナードは矢田部の脇腹にサバイバルナイフを突きつけて脅しながら車を地下に侵入させた。「くそ!ボーエンシンジケートの連中か?あんたら後悔するぜ。」「忠告どうも。さあ、商品を届けに来たと言えよ。」「ああ・・・分かったよ。」施設の地下に入ったバンは係員の前で停まる。係員の女はピストルを持った構成員を二名連れている。「さてと・・・服部一派かしら?」矢田部が答える。「ああ、そうだ。商品を届けに来た・・・・と言いたいところだがこの偽難民共に脅されて俺はここにいる。」

 「クソ!このヤクザもどきのせいで計画が狂った!」と叫ぶとバーナードは突き付けていたナイフをそのまま矢田部に突き刺して素早くライフルを取り出し、二人のピストル持ち構成員を始末する。

 エレーナ、リーストン、チョクも下り、ライフルで周りの警備員を無力化する。

 そのとき、警報が複数鳴り響く。「防空システムダウン、防空システムダウン、上空から敵襲の可能性あり!警戒せよ、警戒せよ!」「緊急事態、緊急事態!正面玄関から侵入あり!」「正面玄関にて煙を感知しました!」

 「くそ・・・この馬鹿!」係員の女はナイフで刺されて倒れた矢田部の頭を冷酷にもピストルで撃ちぬいて逃げ始めた。そして壁の緊急ボタンを押す。さらに警報が騒がしくなる。


 「くそ!どういう状況なんだ!屋上の侵入者どもを驚かせてやろう!」所長室にいるバークスは立ち上がり、改造された大きなライフルを持つとエレベーターを起動する。イライラと戸口を振り返りながら待つバークス。そしてやっと来るエレベーター。「ふう・・・」バークスは一息つくとエレベーターに乗り込む。

 「くそ!逃げやがったか!」直後に飛び込んだバーナードは何とエレベーターの扉を破壊して、バークスが乗るエレベーターの下にぶら下がる。


 「ようし!」エレベーターから下りたバークスはライフルを高く掲げ・・・言葉を失う。防空システムは確かに全て破壊されている。だが侵入者はおらず・・・逃走用のヘリコプターは破壊されている。

 「その気持ち悪い武器を下ろせ!」後ろから大声がした。「くそ!」溜息をついたバークスはライフルを投げ出す。「さてと・・・俺はあんたのようなクズが嫌いだが、そんな下らん理由であんたの拠点をめちゃくちゃにしたわけじゃない。利害が一致したボーエンシンジケートの奴らは違うようだがな。」「・・・じゃあ何の用だ?」「あんたの新しいボス、コーネリーの居場所を知りたいんだが?」「何だと?コーネリーって誰だ?まさかあの投獄されていたいかれ野郎か?」「そうか、言わないんだな。じゃあ・・・・」「ああ、分かったよ!コーネリーなら・・・インディペンデントシティだ。建設中の巨大ナイトクラブ『バドスクラブ』の中だ。これでいいか?」「ああ、いいとも。すまないがエレベーターを壊してしまった。あんたは無事に仲間が下ろすよ。ボーエンシンジケートの奴らが殺したがっているから俺が守ってやる。」「そうか・・・それは頼もしいな。」と言ってバークスがライフルを拾ったと同時、バーナードはバークスの首筋を撃ち抜いて殺した。


 


 

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