スネイクハント
2018年 ハワイアンジェファソンシティ 行政特別区 ハワイアンジェファソンシティ警察本部
「諸君!遂に明日がパーティーの日だ!襲撃者は必ず現れる!奴らを抑え込む準備は出来ているな!?」と連邦警察の特別警視が叫ぶ。その声に対して険しい顔で頷くのは連邦警察の捜査官、そしてハワイアンジェファソンシティの警官達だ。
同時刻 ハワイアンジェファソンシティ 中央区
ポルノ王ジョルジョーニは会場となる会館に足を踏み入れた。
「ご足労様です!」と会館の職員が挨拶する。「そちらこそありがとう。警察の目は厳しかったでしょう?」すると少し困り顔で職員は苦笑する。「ああ、まあ・・・その・・・会場周辺に監視用のパトカーが停まる予定です。」「そうか。ハワイアンジェファソンシティ警察か?」「ええ。そうです。数台止める予定だという事で・・・そのこちらとしても協力しないと・・・」「ああ、事情は分かりますよ。しかし警察の連中も暇ですよ。確かにパーティー参加者の中には警察の監視対象になっている者もいる。だけどな、このパーティーは社交パーティーでこそあれマフィアやギャングの取引の場としては設定されていない。」「ええ。分かりますよ。心中お察しします。」「ああ、ありがとう。このパーティーは風俗店経営者が集い、互いの悩みやビジネスの手法を共有する場所だ。むろんマフィアやギャングは招待しない。警察連中が問題にしているのはマフィアやギャングの支援を受けている経営者のことだろう?」「まあ・・・分かりませんが恐らくそうでしょう。」「彼らの中にはチンピラ連中に脅されて仕方なくみかじめ料を払っていたいたり警察連中が役に立たなくて毒をもって毒を制している者が大勢いる。そのような者を締め付ける捜査方針には反対ですよ。だけどまあ、警察の監視など怖くない。やましいことがないのだから監視させておけばいいですね。」「ご配慮感謝します。ではまず食事会の会場からご確認を・・・」
2時間後 ハワイアンジェファソンシティ郊外
「遂にパーティーの日が来てしまうぞ。」と焦る声で言うライリーの声を聴きながらバーナードはイライラしたように答える。「そんなことは分かっている!だが黒幕のホベットは殺したんだぞ!大体スネイクマンがこの街にいるかもわからない。ホベットの死に絶望して計画を諦めたのかも・・・」「だが情報提供者の証言から推測するに恐らくスネイクマンはまだ街にいるぞ。」「そうかな?だが連邦警察と地元警察も動いているんだろう?感づかれたんじゃないか?」「警察には隠密捜査を指示したと司法省に役人連中は言っているぞ。」「そうかもな。だけど相手はただの狂信者連中じゃない。組織化されたテロ組織だ。捜査動向が筒抜けかもしれないだろう?」するとライリーはイライラした声で答える。「不毛な議論はいい!どちらにせよ今回パーティー会場で何もなかったという報告を連邦警察から受ければいいだけさ。あんたがスネイクマンを殺したかスネイクマンが襲撃を諦めたか。それ以外の状況にならないようにしてくれよ。スネイクマンを発見して・・・」「ああ、もう分かったよ!スネイクマンが現れる前提で動く。スネイクマンは必ず殺す。これでいいな?」「よし、大丈夫だ。では準備にかかってくれ。」
1時間前 ハワイアンジェファソンシティ バルウッド地区
バルウッドは貧民街の中にあり、多くの人種コミュニティとそこに暮らすギャングがいる危険地域だ。
その地域のある一角にある倉庫。アフリカ系アメリカ人のギャング「ダークウッドクラブ」と「レッドシャワーズ」の連中が警備しているようだ。彼らはどちらもアフリカ系アメリカ人の連合体の一つ「ウェストサイドコミッション」に所属している。
だが中にいるのは黒人だけではない。白人、ヒスパニック、黄色人・・・多様な人種の人々が集会を開いていた。
「明日の夜いよいよ聖戦が成し遂げられる!ホテル襲撃と偉大な教祖の死というつらい事実を我々は乗り越え、正義のために聖戦を起こそうではないか!」そう語るのは何と凶悪脱獄犯のグレゴリウス。通称「スネイクマン」と呼ばれる男だ。ホテルが多く立ち並ぶ、落ち着いていながらもにぎやかなマッカートニー地区にいたはずだが、おそらくバーナード達によるホテル襲撃事件を受けて場所を変え、ギャングを雇ったと思われる。
一時間後 ハワイアンジェファソンシティ 中央区
「よし、ありがとう。」タクシー運転手に金を払うと目の前の建物を眺めるバーナード。
その建物は小さなプレハブ小屋が四つ立っているが様子が異様だ。まず各プレハブ小屋の前に防弾チョッキを着た警備員が2名ずつライフルを持って立っているのだ。さらにはプレハブ小屋の窓にはカーテンが張ってある。また、敷地内には多くの黒塗りバンが停まっている。
ここはハワイアンジェファソンシ中小警備会社「ヤマナカ警備」だ。この会社は表向き日系人の実業家山中聡が社長を務めるやり手の警備会社だ。だがこの会社の資本金は元ヤクザ組織「武藤派」幹部の織田憲武から出ている上に株の半分も彼が保有している。そして実質的にこの会社を取り仕切っているのも織田であった。
このヤクザ会社は街の有力者達と繋がりがあり、裏でも表でも暗躍している会社だ。大規模なイベントがあると駆り出されることが多い。
そんなわけで明日行われる風俗店経営者のパーティーの警備のうち、巡回警備を彼らが担う。織田のヤクザ時代の友人で、今回のパーティーの主催者でもあるマフィアの手下のポルノ映画会社社長ジョルジョーニからの依頼だ。
バーナードが近づいた途端警備員がライフルを向けてきた。「お前誰だ!?」「ああ、すまない。あらかじめ社長の山中氏に電話していたバーナードという者だ。」「バーナードか・・・少し待ってくれ。」と一人の警備員が言い、通信機に向かって「今第2事務所の前にバーナードという男が来ていますが・・・」と言うと電話の向こうからしわがれた声が聞こえた。「第一事務所に通せ。」
警備員がバーナードに近づいて腰のピストルを抜き取ると「武器厳禁だ。」と言いながら隣のプレハブ小屋の方に歩き出した。「こっちだ。中で社長が待っている。」
第一事務所という名称のプレハブ小屋の中にはスーツを着た二人の男と外にいたような二人の警備員がいた。「どんな用だ?」とスキンヘッドでサングラスをかけたスーツ男が聞く。彼は社長の山中であるが、社長用の革張り椅子には座っておらず、その席の右斜め後ろに立つ。代わりに社長用椅子にはスーツを着た老人が座っている。禿げあがった頭にやせこけた頬であるが額から口元まで横断するような傷と赤黒いサングラスが元ヤクザの貫禄を作っていた。こいつが織田だ。
「実は協力して貰いたいことがある。」と言いながら向かい側のソファに座ろうとするバーナードであったが、すぐに警備員にピストルを向けられた。「客人であってもボスの許可があるまでは座るな!」と怒鳴る警備員であったが織田が制止して「構わん。座れ。」と言う。
一礼してバーナードはソファに座ると社長用机の上に封筒を放りなげる。「6000ドル持ってきた。明日のパーティーの警備のうち五人分を秘密裡に我々にして欲しい。」「何だと!?」と山中が言い、「てめえ・・・なめてんのか!?」と怒鳴った。だがバーナードは平然とした顔で続ける。「安心して欲しい。これはパーティー関係者を狙ったものではない。逆にパーティーを守るためだ。」だが山中はバーナードを睨む。「嘘が下手くそだな!おいお前ら、こいつをつまみ出せ。」だがその時黙っていた織田が山中を止める。「待て。こいつの話をもっと聞いてみよう。」「本気ですか!?ボス!?」「馬鹿野郎!俺が話を聞くと言ってんだ!黙ってろお前は。」「はい、承知しました・・・」山中は不服そうに頷きながらも織田に任せるようだ。バーナードは「ありがとう。ところで君達には殺人という権利は認められていないんだよな?」と言う。織田は「面白いことをいうな。そうだ、俺らは警備会社であって暗殺会社ではない。正当防衛の殺人は法律上認められているが・・・」と言う。「そうでしょう。しかし我々はあなた方の警備対象を襲おうとする連中に対して正当防衛とは少し違う殺人をするように命じられている。」と言う。流石の織田も驚いたようだ。「何!?パーティーを襲撃するような連中がいるのか!?なぜジョルジョーニはその情報を・・・」「彼は知らない。警察連中が隠ぺいしているからな。」と言う。すると山中が叫ぶ。「クソ!もしかして奴らはジョルジョーニのライバルから賄賂をもらっていて・・・」だがバーナードが慌てる山中を遮って言う。「そうではない。警察はあんたらを使って襲撃者をおびき寄せて秘密裡に逮捕する予定だ。で、俺らはその襲撃者が逮捕される前に殺さなければならんのさ。」織田がかすかに動揺したように言う。「ってことは・・・お前らはナニモンだ?」すると少し考えてバーナードは言う。「アメリカ軍のパートナーだ。バーナードシールドコープと検索してみろよ。まあ今回は司法省の仕事だ。司法省の連中から秘密裡に消してほしいと言われている野郎がたまたまパーティーを襲撃した。」
パソコンを開き、バーナードシールドコープを検索した織田が声を上げる。「本当みたいだな。お前は民間軍事会社バーナードシールドコープの社長だ。ウェブサイトに顔写真も載っている。」「だろ?」「ああ。政府の仕事なら仕方ないな。俺らの装備が置いてある倉庫を連絡しておく。場所は後で地図をあんた宛に送信しておくさ。」「ああ。協力ありがとう。」
翌日夜 ハワイアンジェファソンシティ 中央区
「遂にこの日が来たな。」とバンの中でスネイクマンは呟き、目の前の会館を見つめる。
各々の用心棒に守られて高級なスーツをまとった男女が入っていく。中には自分の管理下にある店の風俗嬢やホストなどを引き連れる風俗店経営者もいる。
あそこの美しいホストクラブ経営者の顔をぐちゃぐちゃにしてやる・・・そいつにべったりしている別の風俗店の女どもは教団信者どもにくれてやろう!子孫繁栄と少子化対策のために必要な資源だ。
6時間前 ハワイアンジェファソンシティ リトルデモイセン
「ここだな。」とつぶやいてバーナードはレンタカーを停めるようエレーナに命じた。
目の前には「オオクボ運輸」の倉庫があった。「こりゃたまげたな・・・オオクボ運輸とはね!」とボリス。オオクボ運輸はハワイを拠点とする日系企業であり、アメリカ共和国内での流通業界に大きな貢献をしている大企業だ。
「創設者の大久保はヤクザからの融資を資本金としてオオクボ運輸を創設したと言われているぞ。」と言いながらバーナードは倉庫の入り口に近づいた。「やあ、予約していたバーナードだ!」と入り口の内部に呼びかける。中から「合言葉は!?」と問いかける声。さすがだ。装備を保管してあるだけあって警備は厳重なようだ。
「テンノウセイジのフッコ!」とバーナード。すると扉が開き、重装備の警備員達がバーナード達を取り囲む。「装備は用意できているぞ。こっちだ。」と一人の日系人の初老の男が言い、警備員ごとバーナード達を引き連れて倉庫の奥に向かう。
「こっちに装備があるぜ!」「ああ。ありがたいな。」と言いながら奥に進むバーナード一行。しかしおもいがけない光景が待っている。
「銃を出せよ。」機関銃を突き付けるヤクザ達。初老の男が奥に呼びかける。「織田様、奴らを連れて参りました。」すると奥から杖を突きながら織田が現れる。「すまんね。」「この・・クソ野郎!何が狙いだ?」とリーストン。「俺の商売相手は政府と協力していたが裏切られてな。奴は所属するプリズンギャングのモラティン・シンジケートの情報を政府に売り、政府は奴の保護をしてかつ奴の商売を黙認する予定だった。だが奴は今司法省の連中に裏切られた。奴らはそいつのラキア人密売組織との商売のリスクが高いと踏んで証人保護を取り消して刑務所にぶち込むつもりだ。よく分からんが検察も抱き上げられていてな。このままじゃあ私の友人は死ぬことになる。」と織田。「それで俺を人質に取って司法省を脅そうって魂胆か?やめた方がいいぞ。」「すまんね。あんたから得た情報をもとに政府との協力関係を構築する予定さ。あんたには政府の連中がやりたいことを詳しく話して貰うぞ。」
バーナードは仲間たちと顔を見合わせ、「日本人どもの言う通りにするしかないな・・・」と言う。全員武器を取り出し・・・乱射し始めた。
「くそ!先生はこっちへ!」慌てたヤクザ数名が織田を取り囲みながら逃げる。
目の前に迫ったヤクザ二名を同時に顎パンチで気絶させたバーナードは銃で綺麗に出入口のヤクザを撃ち抜き、織田達を追う。
織田が車に乗ろうとしていた。「くそ!」バーナードは車のタイヤを撃ち抜くと銃を正確に撃って織田の用心棒たちを気絶させる。
「俺は元軍人だぞ!」降りてきた織田に銃を突き付けるバーナード。「くそ・・・申し訳ない。山中の案だったんだ。」と言う織田の首筋に銃口を強く押し当てるバーナード。「黙って装備を貸せ!次こんな真似したら司法省にお前たちを潰させるぞ!」「わ、分かったよ。」「それとな・・・」と言ってバーナードは怯える織田の耳に口を近づけて静かに語りかける。「あんたは馬鹿な真似をしたがこの地域の他の日系人よりまともだという噂を聞いた。あんたが所属していた『武藤派』だが他の日系組織を排除しようとしているらしいな。奴らが『ジンギ』を忘れ麻薬売買や人身売買に手を染めているのが許せないんだろう?」「あ。ああ・・・そうだが?」「俺はジンギを忘れないあんたがたが気に入ってる。友人の情報提供者がひどい目に遭わないように司法省にかけあってもいいぞ。」「何だって!待て・・・狙いはなんだ?」と警戒するように織田が言う。「いくつかの組織を調べて欲しい。まだ司法省の暗殺リストに入ってる奴がいるからな。」
6時間後
「よし。俺は会場の裏周辺を回る。ボリスは入り口側の巡回、チョクは入り口付近で立ち止まって警備しているふりをしながら連絡を取りながら会場の監視カメラをハッキングして映像を見張ってくれ。エレーナとリーストンは会場内部の見回りだ。チョクからの連絡を受けて随時俺たちが動き出すからな。よし、行動開始だ。通信機のスイッチはオンにしておけよ。」
一斉に「ヤマナカ警備」の車から降りたバーナード達は早速行動を開始する。
ヤマナカ警備とは別の警備会社の者が裏口を警備している。会館の運営会社と契約している警備員だ。
中から喧噪が聞こえる中、フェンスにしか接していない裏口は静かだ。
その時、足音が聞こえる。警備員は時計を見た。交代までは一時間もある。拳銃をこっそりと抜いて後ろで握った警備員は「こちらは裏口ですよ。正面玄関からお入りください!」と言う。しかしそれでも足音は静かに近づいてくる。警備員は確信した。不審者だ。拳銃を取り出し、構える。「あなたは誰ですか?」しかし複数の走ってくる足音が聞こえると仮面をした集団が現れた。ジェファソンシティのカフェに出没した連中と同じ格好だ。彼らは無言で警備員の周りに集まると、ハンドガンを取り出して一斉に警備員に撃つ。警備員の体は穴だらけになり、血が飛び散る。
「よし、入ろうぜ!」仮面集団の後ろから進み出てきたスネイクマンは裏口の扉をけ破った。
「出やがった!」チョクは裏口のカメラに映った集団を視認すると「皆、裏口の警備員が教団連中に殺されている!教団連中は裏口から入ったぞ!」と通信機で伝える。
エレーナはロビーを巡回していた。
ロビーもパーティーのために使われており、ソファに座って酒を飲んで雑談したり参加者が提供した風俗嬢やホストなどとしゃべる参加者の様子も見られた。
エレーナは通信から聞こえてきたチョクのメッセージを聞くと慌てて普段は受付カウンターとして使われている場所の後ろに入り、裏廊下に通じる扉を開けた。騒ぎが起こる前に無力化しなければ!
二階でもカクテルパーティーが行われていた。参加者と彼ら・彼女らが連れてきた従業員達が入り乱れ、かなり騒がしい。
「失礼、失礼します!」ぎゅうぎゅう詰めの群衆の間を縫って部屋の出口にたどり着いたリーストンは慌てて周囲を見渡す。
廊下の奥、薄暗い場所にエレベーターを見つけてボタンを押す。
バーナードは裏口に転がる警備員の死体を見て「ちくしょう!ひでえな・・・」とつぶやいて裏口から中に入った。
「くそ!」とつぶやきながらも腰をかがめてアサルトライフルを握るバーナード。教団連中は今まさにロビーに通じる扉に近づいていく。
「くそ!今やるか!」バーナードはそう呟くと影から飛び出してアサルトライフルを撃つ。「何だ!」教団連中は動揺して振り向く。そして扉が開き、そこからエレーナが入って来た。正面にいたスネイクマンと正面衝突する。
ボリスは応援のため外側から回り込んで裏口に向かっていた。
しかし裏口に着いたボリスは「くそ!」と舌打ちをする。アフリカ系ギャング達が裏口のフェンスを道具を用いて切っていた。そしてその向こう側に集結する黒いバン。おそらく女性誘拐用なのだろう。
ギャング達はただならぬ様子で近づいてくるボリスに気づき、各々手に持っていたライフルやハンドガン、ショットガンなどを一斉に放つ。ボリスは身をひるがえすが隠れる場所がない。弾丸に身を晒していた。
リーストンはエレベータに乗ろうとして絶句した。五人の教団員がいる。「くそ!」ピストルで一気に五人を殺したリーストンは血まみれのエレベーターに乗って下に向かう。
「うっ!」スネイクマンに殴られたエレーナはうずくまったものの、一気に立ち上がるとスネイクマンを殴り返し、さらに腹にパンチをねじこんだ。だが殴り合いには持ち込めなそうだ。教団員が割って入り、エレーナを突き飛ばしたのだ。
エレーナは扉に当たり、一瞬ロビーに出たものの視線が合ったウェイターに「ハーイ!」とあいさつするなり扉を閉め、反動で二人の教団員の頭に乗る。教団員二人は気絶した。
と同時にエレベーターからおりたリーストンが参戦し、近くの教団員の腹にパンチをねじ込む。
バーナードも懸命に戦うが、その目がある光景を捉える。大きなバッグを背負ったスネイクマンが扉を開けてしまう。ロビーに出て凶行に及ぶつもりだ。しかしスネイクマンは後ろ向きに倒れた。「クソ野郎!」と叫んでスネイクマンの胸をライフルで撃ったのはチョクだ。倒れ込んで「ちくしょう・・・」とつぶやくスネイクマンを見下ろしたチョクはその頭を撃ち抜いて任務を達成した。
会場後ろの空き地に機動隊のバンが侵入してきた。
「くそ!お前ら、サツ共を殺せ!」とギャング達が叫び、空き地では警察との銃撃戦が展開される。
そして間を縫って飛び出てきたギャングメンバーが血まみれで横たわるボリスを会場の裏側に引きずり込む。ボリスはもう死んでいた。
正面玄関のところにいきなりバスが急停車する。中からライフルを持った教団員たちが降り立ち、入り口前の警備員を殺害し、ロビーに突入した。
会場は大混乱だ。教団員たちは男性を殺し、女性をスタンガンで気絶させる。血しぶきと悲鳴が多く上がる。警備員たちは連絡を取り合い、安全な二階にいた者が警察に通報した。
「ふう・・・どうにか制圧出来たな・・・」バーナードは血まみれの服を見下ろしながら溜息をついて周りに転がる死体と同じく血しぶきで染まる服を着た仲間を見た。「正面で騒ぎが起こったみたいだけど警察が対処するだろう。俺たちは撤退だ。」仲間たちは疲れ切った様子で頷く。
裏口に出たバーナードは舌打ちする。「早く出ないとまずいな・・・」警察が空き地で跪くギャングメンバーたちを警棒で殴りつけて護送用バスに押し込んでいた。そして正面の方からもパトカーの音。
「早く出ないと・・・」と言って走り出したリーストンが何かにつまずいて倒れた。
「大丈夫?」と言いながらリーストンの手を引いて起こしたエレーナの顔が固まる。「うそでしょ・・・」ボリスの死体だ。
「くそ!」バーナードが崩れ落ちかけたがチョクが支えながら言う。「今は急がないと・・・」
二日後 ハワイアンジェファソンシティ 郊外
ハワイアンジェファソンシティから帰る旅行客達の顔は楽し気だ。ハワイは観光スポットが沢山ある。最高の旅だった。そう思っている人々が多い。空港内で土産を買う者もいる。
その中で四人の暗い顔をした一行は少し目立つ。彼らにとって最悪のハワイ旅行となった。大勢の人を殺し、仲間が一人殺された。
四人とも無言だ。
「あいつらだぞ!」ベンチに座っていた二人の空港警察のうち一人が一行を指さし、もう一人が「まじかよ・・・」と言って片手で拳銃を抜きながら立ち上がる。「一応応援を呼んでくれ。」「ああ。」と言って電話無線機に話しかける警察官。「連邦警察から捜索依頼があった参考人を発見した。応援を寄越してくれ。」
溜息をついてベンチに座った一行。疲れ切っていた。
その一行に近づく二人の警官。後ろからも数名の警官が近づいてくる。
「あなた方、少し来ていただけますか?」ベンチの正面に立った空港警察官が言う。