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潜入

2018年 ウェストランドシティ バングストン地区

 バーナードは社長室に呼び集めた部下と共に部屋のテレビを見ていた。


 首都警察から出てきた首都警察総監ウェバリーを記者団が取り囲む。「総監!ホベット教団のカフェ襲撃事件は!?」「ホベットが脱獄したとの噂がありますが!?」「爆破テロとも関係があるんですか?」

 「はあ・・・全く・・」とため息をついてからウェバリーは立ち止まって言う。「ホベット教団には複数残党がおり、関係組織を結成しています。関係組織の捜索を行うように指示いたしました。」「それでホベットの脱獄の噂については・・・」「司法省刑務部に問い合わせましたが、ホベットは脱獄していません。」「それと・・・」「爆破事件については現在捜査中なので何も申し上げられませんが、恐らくホベット教団との関連はないものだと思われます。」そう言って彼女は歩き出す。そのまま車に乗り込む。「待って下さい!総監・・・」「警察庁で今回の事件についての非常に重要な会議がありますので、また後程。」

 車は発進した。


 テレビを消したバーナードは言う。「実は・・・お前たちは俺と共に政府の尻ぬぐいをしなきゃならねえ。」そう言ってバーナードは自ら選び抜いた四人の精鋭を眺める。


ボリス:元々ラキア人傭兵だった亡命ラキア人。ライフルの扱いを得意とする。

リーストン:バーナードがアメリカ軍に所属していた頃の部下。あらゆる武道を極めており、体術ならばトップレベル。

エレーナ:元公安軍警察の婦警。公安軍実動部隊の戦略部門にいた経験があり、戦闘作戦を立てることを得意とする。

チョン:元中国陸軍所属の大尉。機械の扱いを得意とし、ヘリコプターなどの操縦もできる。


「ボリスとリーストンは事情を知っている。俺らで説明するぞ。」「はい。」とまずボリス。「今のニュースと関連があることです。」「ああ。そうだ。結論から言うとだな・・・」とリーストン。「ホベットは脱獄している。」「なんですって!?」とエレーナが声を上げる。「その・・・どういうことだよ!?」とチョンも困惑する。「困惑するのも無理はない。だがもっと驚くぞ・・・」と言ってバーナードは資料を配り始める。そこには複数枚の紙があり、顔写真とその写真の人物に関するデータが乗せられている。「これってまさか・・・」と息をのむチョン。「ああ・・・司法省の連中が隠しているが、こいつら全員がハラス強制収容所から逃げ出した。」「まあ・・・何てこと・・・」「絶句するのも無理はない。ハラスの刑務所長が俺の友人でな、そいつから依頼が来た。そのとき俺も驚いたよ。政府機関がこんなヤバい情報を隠ぺいしようとしているとはにわかには信じられなかった。」「で、依頼内容は?」とエレーナ。「こいつら全員の殺害だ。うちベンジャミンはホベット教団と一緒にいたが偶然バーナード社長と会って殺害された。ファーブは実は自爆テロの犯人だ。恐らく二人ともホベットに洗脳されている。」とリーストン。「殺害!?違法行為よね!?」「ああ。無論そうだ。俺だってこんな汚ねえ仕事受ける気はなかったんだ。だがな・・・俺は刑務所長の奴に弱味握られてんだ。」「弱味?」「ああ。詳しくは言えねえ。とにかく・・・協力してくれ。給料ははずむ。」それを聞いたエレーナとチョンは顔を見合わせる。「分かりました。協力いたしますわ。」「ああ。協力します。」「ああ・・助かったよ。」「ちなみにだがこの凶悪脱獄犯暗殺計画の真相はバーナード社長だけに知らされるはずだったんだが・・・先日脱獄の際に雇われた傭兵団に潜入した時点で俺とリーストンがファーブを目撃して真相を知っちまった。社長は刑務所長ライリーにかけあって社員四人を上限に真相を伝える許可をもらったそうだ。この作戦は俺らだけの秘密だ。」とボリス。


昨日 ジェファソンシティ 行政特別区 警察庁

 ウェバリーは全ての報告を終えた後、「恐らく事件に関係ないと思われますがお伝えしたい情報がございますので・・・」と言って司法省の役人たちを見る。「何だね?」と司法省公安部長が言う。「実は・・・カフェにてベンジャミンが刺殺した遺体の中に気になる人物がいました。」「気になる人物?」「ええ。公安のほうで監視対象になっていたと思いますが・・・ブラウリー・ヘイズです。」「何だって!?あの軍事会社『アロウ』前副社長のか!?」「ええ。彼です。」「そういえば・・・」と刑務部長が口を開く。「うちの者が調べたときに『アロウ』内のメガウルフ傭兵団が脱獄のために雇われたらしいことが分かっているな。『アロウ』の現副社長によると『アロウ』の組織図は複雑らしい。いくつもの指揮系統が存在していて誰が依頼を受けたか彼女自身も分からんらしいな。」「もしかして依頼を受けた奴は・・・」と公安部長。

 ウェバリーは少し困惑する。脱獄に『アロウ』が関与していたなどと言う情報は首都警察には知らされていなかった。だがそんな彼女に対して刑務部長は素っ気なく言う。「すまんなウェバリー。本当は首都警察を巻き込むつもりはなかったんだ。これ以上脱獄事件について広がるとまずい。ここで知りえたことはたとえ副総監にであってももらしちゃいけないぞ。」「・・・はい・・・」ウェバリーは放心状態で頷くしかなかった。


四日後 インディペンデントシティ 中央西区 

 「マウロ―・エンターテイメント」と書かれた大きな企業ビル。映画やテレビドラマを制作している会社であるが、人気は全くない。

 というのも女性大量誘拐・監禁・強姦事件で有名なホベット教団との繋がりが明らかになったからだ。何と会社の経営陣全員を含めた社員の7割がホベット教団に所属していたのだ。さらには会社総出でホベット教団を賞賛するプロモーション映画を作って子会社の映画館で上映していた。また社長のフィリップ・マウロ―を含む数人の会社役員が教団に多額の寄付をしていた。

 教祖ホベットの指示により教団員複数人が罪のない若い女性を誘拐・監禁し、「子孫繁栄のため」と言う狂気めいた理由で男性教団員によって強姦されたおぞましい事件。ホベット教団の闇が明るみに出た。

 だがこの事件が発覚した際「マウロ―・エンターテイメント」は罪を問われなかった。なぜなら彼は事件には直接関与していないホベット教団系の下部組織に関わっていたからだ。警察当局としてはブラック企業であると分かっていても法的根拠がないため罪を問えないというわけだ。また会社が赤字になることもなかった。教団下部組織は自主的に解体し、「寄付」と言う名目でマウロ―・エンターテイメント側に組織資金を全て移したのだ。奴らは表向きは解体した組織をマウロ―・エンターテイメントの中で持続させていたのだ。

 その結果として社長のフィリップは今も社長室に陣取っているわけだ。「ホベット様が次の計画を実行されるときはいつになりそうです?」と彼は来客用のソファに座る男に問う。男は静かに言う。「9日後だ。9日後にはホベット様の下僕がパーティーを襲う。」「パーティーですか?」「ああ。ピンク店経営者のセレブたちのパーティでな、キャバクラ・ホストクラブ・ストリップクラブ・ゲイバーなどありとあらゆるピンク店の経営者が集まるパーティーだ。その会場に戦士たちが突入する。」「ほうほう・・・いい聖戦になりそうだな。突入を指揮するのは誰だ?」「それはホベット様に近しい私でも分からんよ。ホベット様の忠実な部下で、ハンサム嫌いらしい。ホストクラブの経営者達は彼または彼女の毒牙にかかるだろうな。」「フハハハハハ・・・・」


 男が部屋を出ていった後フィリップは小さく舌打ちをする。「あの野郎・・・デカい面して社長室に居座りやがって・・・奴が元師団長だってことは分かるが・・・この会社内では副社長にすぎん!」と叫ぶ。恐らくフィリップは拠点を会社内に移した教団のリーダーを副社長に任命したようだ。

 「ふん・・・馬鹿な親父の遺言なんか守るかよ!奴らとの腐れ縁もこれで終わりだぜ!」と言って電話をかけるようだ。

 「ああ・・・フィリップだ。あんたの睨んだ通りだよ。情報がある。あ?そうそう、教団の企む気持ち悪いテロに関する情報だ。いいか、メモ準備しとけよ。準備できたか?よし・・・あらゆる業種の風俗店経営者が集まるパーティーを探してくれ。珍しい集まりだから簡単に探し出せるはずだろう?そこをホベットの手下たちが襲う。首謀者はハンサム嫌いだとよ!嫉妬がこじれたブス野郎に違いない。ああ。そうだ・・・おっと待てよ!取引の条件を忘れるなよ。俺がダークウェブを通じて違法ポルノ映画を販売しているという疑惑をメイワール郡保安官事務所から抹消しろよ。必ずな。」


翌日

 バーナードは電話を取った。「ああ、俺だ。」「おお、ライリーか。何か情報があったのか?」「ああ。ホベット教団の動きに関する情報だ。興味深いぞ。」「ったく・・・緊急事態なんだ、もったいぶらずにさっさと話せ!」「はいはい分かったよ・・・ホベット教団関係者に連邦警察の情報提供者がいる。そいつからの情報によるとな、8日後に開催される『ハワイシャンパンフェスティバル』を教団関係者が襲う。」「なるほど・・・地元警察を使って逮捕しろよ!教団構成員全員の始末は俺の仕事に入ってないぞ。俺のターゲットはあくまでホベッ・・・」「落ち着けよ。最後まで聞いてくれ。連邦警察やハワイアンジェファソンシティ市警にまで圧力をかけるとさすがに何か感ずかれちまうから無論連邦警察と地元当局には自由の捜査をさせるつもりだ。だがこの襲撃グループのリーダーだけどよ、襲撃の首謀者はあんたの標的の一人だぜ。」「おいまさかホベット自ら・・・」「いや。実はそうじゃないんだよ。これは情報屋の話から司法省が推測したことだが・・・恐らく襲撃の首謀者はスネイクマンだ。司法省から警察当局にはパーティーを利用して襲撃者を捕まえるように助言してある。だからパーティーは開催されるはずだ。」


3日後 ハワイアンジェファソンシティ 郊外

 飛行機が空港に着陸する。

 変装したバーナードは窓の外を見る。そこにはハワイアンジェファソンシティの街並みが見える。


 五人はバーナードとリーストンが使用するホテルの部屋内で会議を行った。「まず大前提として襲撃事件が起こる前に隠密にスネイクマンを暗殺する必要がある。世間にバレたらまずいからな。」「だが当局は知っているのでしょう?」「無論だ。だが奴らはいい判断をした。」「というと?」「主催者にパーティー中止の要請を出していない。奴らも我々と同じく襲撃チームをおびき寄せる作戦だ。」「はやく動かないとまずいな。」「その通りだボリス!一刻も早くスネイクマンをみつけなきゃならない。が、居場所は分かる。」「どこです?」「ホベット教団の息がかかったホテルがある。公安軍警察の連中から取得した秘密情報だが、ハワイにはホベット教団のフロント企業が運営するホテルが複数個あるらしい。」「ですがホテルは・・・」「貸し切りになっているはずだ。調べたところ二つ貸し切りホテルがあった。そこをしらみつぶしに探していくしかないな。」「はあ・・・今まで従事したどの任務よりも不透明性がたかいですな。」「そうだな。だが俺たちは計画にのっかっちまった、やるしかないんだ。」


同時刻  ハラス

 ライリーのデスクの上の電話が鳴る。「はい、もしもし・・・」「ああ。私だ。」「刑務部長!どうされましたか?」「実は少々厄介なことになったんだよ。」嫌な予感がしながらもライリーは話の続きを促した。「どうされましたか?」「どうやら連邦警察が公安軍警察と協力することになったみたいだ。」「・・・ほう。確かに巻き込まれる機関が多ければ多いほどリスクは高まりますが・・・」「いや、そうじゃない。」「はい?」「実はな・・・公安軍警察の幹部が処罰を受けることになった。情報漏洩の疑いだ。」「まさか・・・捜査情報がバレた?」「いいや。我々にとってもっと深刻な問題が生じたんだ。」「何です?」「処罰を受けた幹部がホベット教団に関する機密情報を軍事会社社長のバーナードに共有したと言っている。」「何ですって!?」ライリーは頭を抱えた。計画が根本から破綻しようとしていた。


翌日 ハワイアンジェファソンシティ マッカートニー地区

 男はホテルから窓の外を眺める。

 マッカートニー地区はいいところだ。観光客用のホテルが密集しており、市街地や商業地区に直通する道路が伸びている。ホテルから見て道路の反対側はすぐ海だ。「美しいぜ・・・憎らしい程な・・・」静かな狂気を秘めたこの男の肌には無数の蛇の入れ墨。

 この男は通称「スネイクマン」と呼ばれているテロリストだ。顔立ちが整った富豪を狙い、自作の「硫酸爆弾」でこれら富豪を殺害してきた。

 だがこの男も元々は美貌の富豪として知られていた男なのだ。世界的に有名なバンド「グリーンロックス」のボーカルを務める美青年グレゴリアス・ディーン。彼の歌声は世界中にいる熱狂的なファンを虜にし、グリーンロックスに多大なる利益をもたらした。

 そんな幸せの絶頂にいた彼の人生があるとき突然転落する。あるライブの楽屋に殴りこんで来た二人の覆面男に硫酸を浴びせられた。硫酸は彼の顔を溶かし、美しい声を出す声帯をも傷つけた。グリーンロックスのアルバムを作成しているレコード会社とライバル関係にある会社に出資しているマフィア組織による犯行であった。

 この事件によりグレゴリウスは歌手活動を引退せざるを得なくなり、富と名声、そして多くの女性を虜にしてきた美貌を失った。

 病院に救急搬送されたグレゴリウスは入院中に逃げ出し、世間では行方不明事件と言われた。

 その行方は予想外な形で分かることになる。彼が引き起こした一回目のテロ事件だ。とある俳優が主催したパーティーに潜り込み、美青年として知られていたその俳優の顔に硫酸爆弾を投げつけて死亡させた事件。警察は爛れた犯人の顔からそれが治療中に逃げだしたグレゴリウスであることを特定したが彼は逃げ出し、次の犯行の用意をしていた・・・

 そして脱獄して再び人生を謳歌しているハンサムな富豪に自分と同じような不幸を味あわせることができる・・・・

 スネイクマンの体は興奮に震えていた。


二時間後 ハワイアンジェファソンシティ 郊外

 「なんだって!?俺が捜査対象だと!?」ライリーからの電話を受けたバーナードは驚愕する。「どういうことだ!!」「ああ・・・・あんた、ホベット教団所有のホテル関連で公安軍警察の知り合いから情報を仕入れたらしいじゃないか。」「ああ。無論あんたらの計画は話していないさ。軍との共同作戦で必要だから情報提供してくれ、と頼んだんだよ。」「その情報提供者が無駄な自白をしたらしいぞ。」「まさか・・・」「ふん。そのまさかだ。連邦警察は公安軍警察との連携を決定した。恐らくその直後にあんたの友人があんたに情報を流したことを自白したんだろうな。その幹部は処罰を受けている。」「ちくしょう!どうすればいいんだよ!」「あんたはもっと慎重に行動すべきだったな・・・」「ふざけるな!」バーナードは机を叩く。「俺はあんたらの依頼を受けて動いてるんだ!お前さん達司法省の金食い虫に重い尻をあげてもらうしか・・・」「すまんが・・・手遅れだ。連邦警察も公安軍警察もあんたに事情聴取する気満々だ。どうにか隠密にスネイクマンを殺して俺のところに来い。そうしたらかくまってやる!」「ふざけるな!いいか・・・司法省が何の手もうたないなら俺は連邦警察に出頭してあんたらの計画を全部話してやる。連中は上層機関にあたる司法省を下から操れると大喜びして司法取引に応じてくれるだろうさ。俺の軍隊時代の悪行ももみ消させる。あんたの現在の悪行だけは別だがな・・・」沈黙。そしてライリーのうめき声。「くそ!分かったよ。連邦警察と公安軍警察を納得させる方法を考える。だからあんたは・・・スネイクマン殺しに集中しろ。」


5時間後 ハワイアンジェファソンシティ マッカートニー地区

 「二手に分かれよう。」バーナードはそう提案し、バーナード・ボリスとリーストン・エレーナ・チョンの二チームに分かれてレンタカーに乗車した。


30分後

 バーナードは「着いたか?こっちはついたぞ。」と無線で連絡する。「こちらもつきました。ホテル『ホベット・ビーチ』への潜入を開始します。」とリーストン。「了解。俺とボリスもホテル『オーシャン・パレス』への侵入を開始する。」

 「どうやって侵入するんです?」とボリス。「ああ。突入作戦の計画はエレーナが考えてくれた。そのプランで行く。リーストンたちもそのプランにしたがっている。」と言ってバーナードはエレーナ考案のプランを説明する。


まずこのタブレットを改造したマシンだ。カッコいい形だろう?こいつはチョン考案のハッキング用の機械さ。こいつを使ってまずはホテルの警備システムを乗っ取る。どうやるかって?俺も詳しい原理は分からんがな。ここに周辺のホテルにある複数のネットワークが表示されているだろう?こいつからこれ・・・そう、侵入するホテルのネットワークを選ぶぜ。これでここを押すと・・・完了っと!ウイルスが送信されたようだ。これでネットワークを自由に操れる。監視カメラのアプリケーションを開いてみろ。そうだ。ほうら・・・ホテル内の全ての監視カメラを見てみろよ。スネイクマンらしき奴は・・・映ってないみたいだな。さてと、お次はだな・・・裏口の監視カメラを確認してみろ。なるほどな・・・警備員が二名いるよな?こいつらを追っ払うには・・・・


 「あんたの腕の見せ所さ。」そう言ってバーナードは隣のホテルの路地裏を走り抜けた。まっ直ぐ行くと広場に出る。「こっそりあの噴水の影から二人の警備兵を狙うんだ。スナイパーライフル風に改造したテーザーさ。撃ってみろよ。」「承知しました。」ボリスは隠れていた木陰から走り出てすばやく噴水の後ろに隠れた。


 「うん?」裏口の警備員は目の前の公園の中で何かがすばやく動いたように感じ、眉をひそめる。「どうした?相棒。」「いや、今何か・・・うっ!」警備員はいきなり倒れた。首筋にやけどの跡のようなものがみられる。「何だ!?」トランシーバーに手を伸ばそうとしたその警備員も倒れる。


 「ボリス。よくやったぞ。さて・・・監視カメラは既にオフにしてやった。侵入するぞ!」二人は身をかがめて走り出し、ドアにたどり着いた。ドアノブに手を掛けたボリスを制止し、バーナードは耳を押し当てる。「何も聞こえない。さてと・・・こいつらの服を借りるか。」二人は警備員を路地裏に引っ張り込み、トランシーバーと共にをはぎ取るとそれを身に着けた。「さてと・・・エレーナの作戦の次段階。侵入だ。」

 だがドアノブは空かない。「鍵か。」とつぶやいたバーナードは「まあエレーナの作戦はこういったことも想定してるしな。」と言って小さな棒のようなものを取り出す。「ピッキング道具さ。大胆にもエレーナの奴、ハワイアンジェファソンシティのギャングエリアの闇市から仕入れたらしい。」「なんと・・・」

 ピッキングで静かにドアは空いた。「よし、ボリス。すまんが監視カメラアプリを操って全ての監視カメラをオフにしてくれ。」「承知しました。」ボリスが機械を受け取って監視カメラをダウンさせる。

 「さて・・・いくぞ。」薄暗い従業員用廊下の突き当りにあるドアの向こう側が何やら騒がしい。「まずはそこから調べてみよう。」「ええ。」

 二人はそのドアを開けた。「なんだこりゃ・・・」

 一階のバーのような場所だ。多くのテーブルでホベット教団員が思い思いのことをしている。ポーカーを楽しむ者、酒を飲んで雑談する者。ホベットが書いた「聖書」を読み合う者。全員男だ。

 そしてテーブルの間を縫って近づいてくる黒スーツの男。「裏口で何か問題かね?」


 同じころ、もうひとつの「ホベット・ビーチ」内にもリーストン一行が侵入しようとしていた。

 「チョン、面白い機械を発明したもんだぜ!」リーストンはハッキング機械に感心の声を上げるながらかがんで裏口に向かう。

 その後に続こうとしたチョンの袖をエレーナが引っ張る。「待って!」エレーナは前方を静かに指さす。

 そこにはフードを被った複数の人影。「こ、こんな路地裏に連れ込んで何の用だ?」「あんた、借金を返してねえよな?」「くそ!あの闇金野郎の仲間かよ・・・こうなったらてめえら全員・・・」「おっとっと・・・やめろや!」「いてっ!くそう・・・」どうやら柄の悪い連中が自分達の債務者に路地裏で詰めているようだ。「わ、分かった、払うからよう・・・」「ああ、一週間前にもそういってたってゴローの野郎が言ってたぜ。だが・・・二度目はねえんだよ!」「うっ!」とうめき声。何らかの暴行を加えられたのだろう。

 その時「おめえら少し黙ってろ!」と一人のチンピラが叫ぶ。「あん?どうしたんだよ、カトウ。」「そこにいるおめえらは何者だ?」チンピラは仲間と共にリーストンをつかんで引きずり出す。


 「あの・・特に問題はないが・・・」と言いかけたバーナードを制してボリスが言う。「裏の公園に怪しい集団が・・・」「なるほど・・・このあたりには夜にギャング連中がたむろしてる。そいつらじゃないか?まあ俺らには害はないようだし・・・」「ああ・・その・・・最初は俺もギャングだと思ったんだ。だけどな、どうやら・・・違うらしい。」「違う?」「奴らは麻薬の取引をしてるわけでもないしだべってるわけでもない。覆面をした怪しい連中でな・・・こちらの様子を伺っていたんだ。」「そうか・・・詰問して来い。」「その・・・少し様子を見て欲しい。」とボリス。

 意図が分かったバーナードは慌てて男を引っ張る。「さあ・・・こっちだ。」「おい、まて・・・」

 嫌がる男をドアの外に引きずり込んだとたん、バーナードはその男の首筋に腕をぶつけて気絶させる。「俺が運んできますんで社長はスネイクマンの捜索を・・・」「ああ、分かった。」


 リーストンはチンピラの一人に頭突きをするとひるんだそいつの腹を蹴り上げ、別のチンピラからパンチが繰り出されると腕をつかんでひねりあげた。腕を抱えてうめき少年の後ろから別のチンピラが襲ってくる。「おらー!」とバッドを振り上げるがリーストンはその腹下に入り、チンピラの顎にパンチをすると気絶させた。「くそ!」腕をおさえた少年が痛まない方の腕でピストルを取り出すと同時、その顔面にリーストンの蹴りが飛ぶ。こうして三人のチンピラを片付けたリーストンは正面からとびかかってきた別のチンピラを俊敏に避けた上で足首をつかみ、地面に叩きつける。「くそ!来い、この野郎!」と言って残りの一人のチンピラは債務者を引っ張って路地を去る。

 「よし、行こう!」三人は裏口に向かい・・・銃口を突き付けられた。「何の騒ぎだ!」ホテルの警備員だ。後ろには二人の警備員によって捕まった債務者とチンピラがいる。

 「やあ・・・ちょっと喧嘩だ・・気にしなくていいさ。」といってほほ笑むリーストン。「路地はホテルの敷地内だ。分かったね?」「ああ、分かったよ。」というなりリーストンは銃を下ろしたタイミングで相手の腹にパンチを入れる。エレーナが落とした銃を拾い、警備員に突きつける。「お仲間さんに銃を捨てさせて・・・」「あ、ああ・・・おい、銃を捨てろ。」そのとたんチンピラと債務者が逃げ出す。「さてと・・・制服をかしてもらおうか。」とチョン。


 バーナードは一人で中に戻り、見て回る。「ああ、ごきげんよう・・・調子はどうです?パトロールしてるんだ・・・」と言いながらテーブルにいる客一人一人を見るがスネイクマンはいない。

 バーテンダーも横目で見るが彼らの中にもスネイクマンはいないようだ。

 その時、一人の太った男が近づいてきて尋ねる。「ライス聖僧をみてねえか?」「はい?」「だからよう、ライス聖僧を見てねえかってばよ?」「ライス聖僧?」「ああ。ちょっと相談があるんだが・・・」「ああ・・そ、それでしたら・・・こちらに・・・」とバーナードは先ほどの廊下に繋がるドアのほうに歩きだす。が、男は突然ピストルを取り出す。「ふん!ライスなんて奴はいない。聖僧なんて役職もないぞ!侵入者だ!」すると何と今まで談笑していた男たちが一斉にピストルを抜いた。全員の銃口がバーナードを向いている。「偽警備員め!見ねえ顔だと思ってた!」そのとき、裏口のドアを開けてボリスが戻って来た。数人の視線がそちらに向く。今だ!バーナードはすばやくハンドガンでシャンデリアを打ち落とし、数人を下敷きにすると目の前の男を酒瓶で殴り倒した。

 大乱闘が始まる。机が飛び、バーナードとボリスの銃口が火を吹く。だが二人は素早い動きで机と椅子を振り回し、窓ガラスを割り、飛び掛かってくる男達の腹を撃ち抜き、裏口から脱出した。

 「くそ!調査失敗だ!」

 

 「やけに静かだわ。」「ああ。なんでホテルのフロントなのに電気がついてなくて、誰もいないんだ?」「誰か来るかもしれないから静かに進んだほうがいいわ。」「ああ。警戒しよう。外から見た限りでは客室に電気がついていた。」

 三人は階段にたどり着いた。「どうする?」「上がってみるか?」「ええ・・・待って、誰か来るわ!」なんと複数人の足音が聞こえる!「くそ!」「あそこにかくれましょう!」エレーナが指さした場所はカウンターの後ろだ。三人はピストルを握ってしゃがみこむ。

 「さてと・・・諸君、始めるぞ!」「はい、教祖!」と野太い男達の声。そしてだんだんと明るくなる。電気の光ではなく蝋燭の光であるようだ。

 驚いた顔を見合わす三人。ホベット本人がここにいるとは!「仕方ない・・・ここでホベットをやろう!」とリーストン。「でも・・・」「いいかエレーナ、ホベットは凶悪犯だぞ!始末しちゃおう。」「・・・はあ・・・分かったわ。じゃああなたがホベットを撃つと同時に私たちは蝋燭を次々に撃って混乱を招くわよ。」「分かった。」とチョン。

 「グレゴリウスの成功を祈って・・・」とホベットの声。すると低い声がさざなみのように広がる。成功を祈る歌なのであろうが背筋が凍ってしまうようなメロディーと音程だ。

 「今頃グレゴリウスがどうしてるかのう・・・彼に安らかな眠りが訪れていますように・・・」

 リーストンはスナイパーライフルを取り出してこっそりカウンターの上に置き、室内を見渡す。

 ソファーも何もないロビー空間に大量の人。皆両手に燭台を持ち、蝋燭が光っている。

 直立不動で立って歌う奴らが作り出す輪の中心に演台。そこに標的のホベットがいた。「いくぞ!」とつぶやき、リーストンはホベットの頭を撃ち抜いた。

 即座に立ち上がったエレーナとチョンが次々に回りの教団員の腕を狙い撃ちした。燭台が地面に落ち、あるものはきえ、またある者は燃えだした。

 「逃げるぞ!」三人は混乱と火が渦巻くホテルを後にした。


二日後

 「ホテル『ホベットビーチ』内部からは数十人の焼死体が・・・」ニュースの音声をぼんやりと聞くグレゴリアス。

 「くそ!教祖様・・・」グレゴリアスの目から涙が零れ落ちる。「異教徒どもに焼かれたか!」机を叩いたグレゴリアスはためいきをついた。だがその息がだんだん荒くなっていく。「必ず・・・やり遂げる!俺だけでもな!」彼の燃え上がる眼は硫酸爆弾が入ったバッグに向けられている。


 

 

 



 



 

 

 

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