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カルト凶団

2018年 ジェファソンシティ郊外 ブルービーチ地区

 「なぜ奴が!?」とボリスが叫んでいる。「後で詳しく話すが今は奴を止めないと!」と叫んでバーナードは腰からピストルを抜く。同じくピストルを抜いたリーストンが地下に飛び降りてファーブに発砲しようとする。だがファーブは瓦礫を投げてリーストンをひるませると奥にある壊れかけたドアの向こう側に消えていった。「待て!」リーストンは追いかけようとするが、突如として爆風が襲う。「ひゃはははははは・・・」という奇声が積み上げった瓦礫の向こう側から聞こえる。

 「くそ!奴は爆破して逃走路を塞ぎました!」との報告を受けたバーナードは「ちくしょう!行くぞ!」と言ってボリスを引っ張る。「は、はい・・・」ボリスは慌ててバーナードについていく。リーストンは近くの崩れかけの棚に上がるが、すぐに揺れ始める。「くそ!よ、よし・・・」

 どうにか地上の床をつかむリーストン。「よし・・・」だがその時突如として棚が倒れ、宙ずりになるリーストン。「勘弁してくれよ・・・」


 「ひぇっはー!」けたたましい笑い声が聞こえる。「あそこです!」ボリスが指さす先にバンに乗り込むファーブが見えた。彼はバンを急発進させる。「まずい!逃げられる!」「どうしましょうか?」余り考えている暇はなかった。「いいかボリス、お前はリーストンと残れ!俺が奴を追う。」「しかし社長、それでは・・・」「いいから指示に従え!またな!」そう言うとバーナードは走り出した。

 彼は近くの空き地に停まっているバンの乗り込む。一見普通のバンだが、「バーナードシールドコープ」の装甲車だった。エンジンを全開にして急発進するバン。前方をみやるとかろうじてファーブの乗ったバンは見える。そしてその向こうにうっすらと見えるジェファソンシティのビル群。「まずい・・市街地に入る前に仕留めねえと・・・」アクセルを壊れるかと言う程強く踏む。


同時刻 ジェファソンシティ 中央区

 老人は久しぶりの休暇を楽しんでいた。権力闘争も血気盛んな武闘派社員どももいない午後。頭のおかしいクライエントとの面会も常に「警備」と称して自分につきまとい監視するライバルの手下もいない午後。

 彼は今何年振りかに警備をつけずにカフェで一人のティータイムを楽しんでいる。一般市民に紛れて。

 だがそんな落ち着いた彼の午後を邪魔するように悲鳴が上がる。「きゃー!人殺しよ!」聞き捨てならないセリフだ。老人は元軍人として、反射的にピストルを取り出しながら悲鳴の聞こえた方向を振り向く。「!!」

 血まみれのナイフを持った男が厨房から出てきた。「男は邪魔だ!」そう言うとその男は近くにいた客の首をいきなり刺した。血しぶきが上がる。と同時に正面玄関のガラスが割れて複数人の仮面を付けた集団が乱入する。「女をさらえ!」とナイフを持った男は叫び、動揺して立ち尽くすウェイターの胸を刺した。

 老人は男にピストルの照準を合わせる。だが男は激しく動き回り、机や椅子を蹴り倒し、複数人の男性客を襲う。女性たちは玄関側に殺到するが、仮面集団は彼女らをなぐって外に運び出す。仮面をしている者の中にはライフルを付けている者もいる。

 老人は男を見失う。「くそ!」大混乱する客と女性を襲う覆面集団が入り乱れ、老人ももみくちゃにされた。その中で老人はピストルを落としてしまう。「くそ!」かがみこもうとした老人を逃げる客が押し倒す。「痛い!やめろ!」手の上をハイヒールが踏んで通り過ぎる。そのハイヒールも数センチ先で脱げる。仮面集団二人がハイヒールの持ち主を気絶させたのだ。

 立ち上がろうとした老人が何者かに蹴られ、再び倒れ込む。「無様だねえ!!」そう言いながら老人の胸を踏みつけるのは厨房から出てきた狂人!その顔を見て何かを察した老人。「貴様は!」「そうだよ。あんたは用済みらしいよ。あんたごときに報酬払いたくないとよ。」そう言うと狂人は老人の胸にナイフを突き刺した。


同時刻

 「くそ!まずいぞ!」バーナードは逃走するファーブが市街地に入ってしまう様子を捉えた。「待て!」赤信号を無視して追う。奴が何かしでかす前に殺さなければ!

 飛び出てきた車と衝突して進めなくなるバーナードのバン。「あんた!なにやってんのよ!」相手の運転手が激怒しながら下りてくる。「すまないがね、奥さん。」バーナードはとっさに車から降りるといきなりその女性を突き飛ばして車を奪う。「何するのよ!泥棒!」

 衝突で壊れかけた女性の車はかなり遅い。おまけに厄介な赤信号だ。前に数台車がいる。「くそ!見失っちまった!」ハンドルを叩くバーナード複数のパトカーのサイレン。「まずいな・・・」そうつぶやくバーナードにはもはや冷静な判断が出来ない。いきなり車から飛び降り、走り出す。と同時に信号が青色に変わる。バーナードは追突してきた車のボンネットに乗り上げてしまう。「なんなんだよ!」運転手は動揺のあまり左右にハンドルを動かす。振り落とされそうになるバーナード。しっかりワイパーに捕まる。だが車は激しく蛇行した結果、近くにあるカフェに中に乗り上げる。


 「何だ!?」覆面男達を突き飛ばす乱入者。道を逸れた車と・・・そのボンネットの上に乗る男。ライフルを持っている。

 だが無謀な狂人が突然彼に襲い掛かる。「死んでくれよお。俺は血が見たいんだよ!女は殺すなと言われたから男で我慢してるんだよう!」


 バーナードがボンネットを飛び降りたとたん突然ナイフ片手に男が襲ってきた。「死ねえ!」とっさにピストルを抜いて男の頭を撃ち抜くバーナード。男は「きえー!」という奇声を発しながら死んだ。

 だが冷静になったバーナードは仮面集団がライフルを自分に向けている様子を見て取る。「出て行きな!」一人の男がそう叫ぶと他の連中も呼応して「出ていけ!出ていけ!」と叫んでいる。おまけに彼らの後ろに並べ直されたカフェの机の上には手足を縛られた女性が複数転がされていた。人質なのかもしれない。「・・・分かった。俺は何も見ていない。」そう言うとバーナードは後ろを向き去っていく・・・と見せかけてもう一つのピストルを抜いきながら回転し、次々と仮面集団の構成員を殺す。奴らはプロではないらしく、すぐに背中を向けて逃げ出す。残ったのは複数人の女性だ。バーナードはうめく彼女らを数秒間見つめると店の奥に進む。「うえっ!」吐き気をこらえるバーナード。

 複数の従業員の死体があった。全員男性だ。刺された跡がある。

 死体の山を乗り越えてたどり着いたのは電話機だ。バーナードは電話をかける。「もしもし首都警察第7分署です。」「ああ・・カフェフラワードールだ。今殺人集団が入ってきて店を荒らしていった。男性と女性客の一部が殺されている。女性従業員と女性客の生き残った者は手足を縛られている。至急来てくれ!」それだけ言うと相手の返答をまたずにバーナードは走り出る。

 そのバーナードの目に数十ブロック先で立ち上る黒煙が映る。それと同時に聞こえる爆発音。「ましじかよ・・・」バーナードは店の裏でバイクに乗ろうとしている男にピストルを突き付けた。「そのバイクを寄越せよ。」男は「くそ!覚えてやがれ!」と言って走り去っていく。バーナードは男の落とした鍵を拾い、バイクを発進させた。

 車の間をよけながら進むバイクはまたしても道路に混乱をもたらす。赤信号を無視したことによって車が急停車し、玉突き事故を起こす。バイクを避けようとしたトラックが反対車線に乗り上げて停車する。そこに大きなバスが突っ込む。

 「すまんな首都警察さんよ。今日はあんたがたの人生でもっとも忙しい日になるだろうな。」といながらバーナードはアクセルをべた踏みして爆音がしたブロックの手前の歩道に乗り上げるようにして停めた。

 野次馬が多すぎる。救急隊員がそれをおしのけて進む。「道を開けてくれよ!」警官らしき人が拡声器で野次馬を追い払っている。バーナードもそうした野次馬の一人と認識されているようだ。

 だがちらっと見えたかぎりではここにあったビルは完全に吹き飛んでいて中の人、そして爆発を起こした犯人はもう死んでいるだろうと思われた。「自爆しやがったか・・・」こっそりとつぶやいたバーナードは携帯電話を取り出す。ライリー刑務所長に知らせなければ。


2時間後 場所不明 巨大な教会のような空間

 「そんな異教者一人ごときにびびったのか貴様らは!」黒いローブをまとった老人が傷だらけの男数人をしかりつけている。「すみません。しかし奴のピストルの腕は異常ですよ・・・」「黙れ!口答えをするな!大体我々の聖なる行動には神のご加護がついているのだから異教徒ごときに負ける筈はないのだ!信仰心があれば勝てたはずだぞ!いいか、貴様ら。手に持っている銀仮面を差し出せ!」するとなぜか焦り始める男達。「教祖様・・・それだけは・・・おやめください・・・」「黙れ!さっさとしろ!」そう言うと老人は手を振る。

 すると奥の扉が開き、カフェを襲った集団と同じような銀仮面集団が登場する。先頭に松明を持った二人が並び、後ろからドラム缶を積んだ手押し車を引く八人の男が続く。彼らは暗くゆっくりとした不気味なメロディーを鼻歌で奏でている。

 それを見た傷だらけの男達はパニックになるが何故か逃げだす者はいない。「神よ!お許しください!」「教祖様、どうか、どうか・・・見捨てないで!」だがその哀願に対して「教祖様」と呼ばれる老人は何の反応も示さない。ただ「懲罰!」と大声で叫んだのみだ。

 すすりなく傷だらけの男達の周りに四個のドラム缶が置かれる。一人の銀仮面男が老人にライフルを渡した。それを受け取った老人はライフルで次々とドラム缶を撃ち抜いた。中からどろりとした液体が漏れ出る。傷だらけの男たちは絶望のあまり顔面蒼白な状態で黙っている。

 老人は無表情でそれを見やると片手を上げた。松明を持った二人の男がそれを床に投げ捨てる。すると松明の炎は床に流れ出て液体に引火し、火の海が出現する。その中でのたうち回るのは傷だらけの男達だ。

 老人は静かに言う。「皆の者、出るぞ。」


二日後 カニスバーグ州 ハラス

 「くそ・・・なんてことだ・・・」バーナードの話を聞いてライリーは頭を抱えた。

 「カフェにいた奴らはホベットの教団の奴らだったんだな?」「ああ。銀仮面に黒ずくめの恰好は恐らく奴らだったぞ。現場にいた一般人が警察に教団について話しているだろうな。もしかしたら教祖の脱獄が世間にバレてしまうかもしれないぜ。」「ああ・・・昨日上司に連絡したところ警察庁を通じて首都警察をコントロールしてくれるとのことだが・・・」「大衆やメディアはコントロールできまい。」「ああ。そうだな。警察に隠ぺいさせたとしてももう遅いよな・・・」

 そのときずっと黙っていた精神病棟管理人のレイラが口を開く。「バーナードさん、あなたがいた場所には連続殺人鬼ベンジャミンもいたんでしょう?」「ああ。奴はナイフで俺を刺し殺そうとしたから俺は奴を撃ち殺した。はからずもライリーからの依頼を一つこなしたことになったな・・・」「ええ。それと爆弾魔ファーブもどうやら自爆テロを起こして死んだようね。」「ああ。恐らく奴は助かっていない。」「とすればよ、ホベットはかなり危険かつ強大な敵よ。」「そんなことは分かってるとも!」ストレスがたまったライリーが叫び声を上げる。その後彼は溜息をついて「すまんレイラ、続けてくれ」と言った。レイラは「ベンジャミンがホベット教団の者と共にいたことから恐らく今回の事件の黒幕はホベットね。つまり傭兵の拠点を爆破したファーブもホベットのために動いていたことになるわ。」「なるほどな。傭兵を雇った黒幕の存在を踏み込んだ俺らに知らせないようにするためだよな。」とバーナード。「ええ。そうよ。しかもその後ファーブはあなたから逃亡した先で自爆テロを起こしているわ。自殺したの。」「ああ。何故かな。私の正体を知っていたのか?」「それは分からない。だけど彼はホベットのために自殺した可能性が高いということだけは言えるわ。ホベットのためには命を犠牲にするほど彼は洗脳されている。それはベンジャミンも同じ筈よ。そのことから考えてみて。他の脱獄犯の状態を・・・」「奴らは・・・ホベットに洗脳されているな。」「ええ。ホベットは謎のカリスマ性にあふれた犯罪者として知られていたわ。何人もの信奉者がいてホベットのためならどのような極悪非道なことだってやってのけた。彼はそういった人物なのよ。そのカリスマ性で他の犯罪者も丸め込んでいるに違いないわ。」


同時刻 場所不明

 窓も照明もない部屋。その部屋を数百本の蝋燭が照らす。

 輪のように並べられた蝋燭の真ん中に赤い椅子。そこに座るのは先ほど教会のような場所にいた老人だ。

 彼は跪いて自分の膝にキスをする青年を眺めやって言う。「次はあんたの番だぞ。綺麗な男を全員殺してこい。女には危害を加えるな。女はわが教団の繁栄のための資源だからな。」青年は顔を上げ、言う。「ああ。分かっていますよホベットさん。」

 その青年の顔・腕・足には沢山の蛇を模した入れ墨が入っている。かつて美貌の富豪を狙った凶悪テロリスト「スネイクマン」だ。

 

 

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