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旧友の依頼

2018年 アメリカ共和国 ウェストランドシティ バングストン地区

 バングストン地区は自動車産業で有名であり、多くの工場や車屋・バイク屋が立ち並ぶ。

 そのような工業地帯に囲まれて民間軍事会社「バーナードシールドコープ」はあった。

 周りにある企業のビルや工場などと違い、この会社の敷地に入るためにはまず四名の重装備の警備員の検査を受け、探知機を通ってから入らなければならない。探知機を抜けた先にも重装備の警備員四名がおり、再度身分確認が行われる。監視カメラだらけの通路を進むと玄関だが、ここにもまた警備員四名がいる。彼らはまたもや身分チェックをする。その後探知機を通った上社員証をドアにタッチしてやっと社内に入れるのだ。一方門を通った後通路に入らなければそれは車で来社した者達である。彼らは重装備の警備員の誘導で離れた立体駐車場に案内される。ここには大勢の重装備警備員に加え、複数の監視カメラがある。また駐車は社員証を駐車スペースのバーにタッチしなければ駐車できない。彼らは車を降りた後警備員が警護するエレベーターに乗って地下まで生き、地下にある裏口から社内に入る。裏口の警備も正面玄関と同じく厳重である。ちなみに他の場所から入ることには高い有刺鉄線・電流が流れる柵・射程内に入ると即座に発射される監視カメラ付き自動小銃がついている塀をこえなければならない。

 しかしこのような煩雑なプロセスを経ずとも入社できる人物がいる。この会社の社長バーナードだ。彼は隣のガソリンスタンドの従業員用駐車場に車を停め、ガソリンスタンド経営会社「ラッツオイル」の作業服を着た状態で降りる。彼が車両修理用の車庫の奥にある扉を開けるとなんとその内部はエレベーターだ。

 エレベーターで地下まで下りた彼はその部屋で作業服を脱ぐ。下には灰色のスーツだ。着替え終わると部屋に隣接したもう一つのエレベーターに乗る。のエレベーターは社長室の本棚の後ろの隠し部屋に直通している。

 隠し部屋から出た彼は社長室の扉前の電光掲示板の表示を「出勤中」に変えて卓上のボタンを押す。秘書室で大きな音が鳴り、秘書がスケジュール表を持って来室するはずだ。


六日前 カニスバーグ州 ハラス

 見渡す限り山、山、山・・・一本の舗装道路を除いてここには人工物が全く見当たらない。

 このような自然豊かな中に鉄壁の要塞ハラス更生収容所はある。

 たった一本の舗装道路の終着点でありトンネルを通じて入ることのできる山の内部をくりぬいて建設された重罪犯刑務所。

 窓一つない鉄の独房内に一人ずつ犯罪者が収容される。独房内には就寝用のマットレス・毛布とトイレ一体型バスルームしか備わっていない。彼らは連続殺人犯・テロリスト・凶悪犯罪組織のボス・危険宗教団体の指導者などの重罪犯だ。彼らの部屋毎に警備員二名が割り当てられ、また鋼鉄製の扉は重装備の上級刑務官の持つカードでしか開けられないようになっている。室内には多数の監視カメラがあり、バスルームを含めて監視映像がとれるようになっている。

 独房の中でも特殊なものは緩衝材が敷き詰められており、重装備の警備員四名に守られている。これらは「重度精神病棟」と呼ばれるエリアに存在する。

 また彼らは部屋内のモニターを通してしか外部との会話及び面会が出来ず、食事は壁内を通るパイプを通じて食料室から配膳される。


 しかし今、この厳重警備で孤立状態の刑務所内では混乱が起こっている。あたりに警報が鳴り響き、警備員の絶叫が響き渡り、謎の覆面集団が刑務官と戦いを繰り広げる。いくつかの独房の扉が勝手に開き、重犯罪者が外に出て覆面集団を援護する。

 監視室に駆け込んだ刑務所長ライリーは監視員が動揺しながら指し示すカメラの映像を見る。覆面集団がライフルを撃ち、警備員や刑務官を攻撃している。監視員が無線で叫ぶ。「交代要員の警備員も直ちに出動し、刑務官を援護せよ!繰り返す、緊急事態だ!交代要員の警備員も全員独房等に集まれ!」

 隣の監視員は「くそ!どういうことよ!?システムが乗っ取られたのかしら・・・」と悪態をつきながらボタンを押して次々と開かれていく独房の扉をロックした。「よし、あと少し・・・」彼女がそう叫んだ時、いきなり監視カメラの映像が全て途切れる。「何だ!?」と動揺するライリー。

 「ボタンが押せないわ!」と監視員。

 独房の施錠の制御が効かなくなったうえ、監視カメラは砂嵐だ。そして遠くないどこかで銃声。

 「くそ・・・まずいな・・・」とライリー。重大事件発生だ。監視員から半ばマイクを奪って彼は叫ぶ「コードレッドランクA発令!刑務所を封鎖せよ!繰り返す。コードレッドランクA発令・・・」


六日後 ウェストランドシティ バングストン地区

 「実は先ほど秘書室に電話がありまして、来客予定だそうです。」と告げた秘書はバーナードにメモを渡した。「何々・・・」「司法省の職員で今回の件で社長の友人だそうですが・・・」メモを見たバーナードは頷く。「ああ。ライリーは俺の旧友だ。昼すぎに来るんだな。合言葉は伝えてあるか?」「ええ。伝えてあります。」「ありがとう。ランチをゆっくり食べる予定だったが、そのような悠長な話ではなさそうだな。」


 四時間後

 「久しぶりだな。」と言い、バーナードは公安軍警察時代の友人であるライリーと握手した。「で、何の相談だ?老いぼれになっちまったから女とヤれなくなったとか?」だがライリーはバーナードの冗談にも笑わない。「そんなことよりも規模の大きな話だよ。」バーナードはその深刻そうな顔を見て身を前に乗り出す。「何があった?」「実はだな・・・」と言ってライリーは自分が所長を務める刑務所での悲惨な事件について話した。


 「何だと!?つまり数名の凶悪犯が世に放たれているのか!?」「まあ・・・そういうことだ。奴らは一般人に危害を及ぼしうる危険な奴らばかりだ。」と言ってライリーは資料を取り出した。数枚の紙があり、そこには顔写真とその人物の個人情報、そしてその人物が鉄壁の刑務所であるハラス更生収容所に収監された理由が書いてある。脱獄事件の際に脱走したメンバーは以下の通りだ。


コーネリー:アイルランドギャングのボスとして知られる人物。27件の殺人教唆、9件の殺人、7件の詐欺、6件の強盗、8件の強姦、8件の死体遺棄の容疑で逮捕され有罪となり終身刑。

ベンジャミン:快楽殺人を行う連続殺人犯。19件の強姦殺人の容疑で逮捕された結果心身喪失の疑いで更生収容所の重度精神病棟に収容。

フーバー:裏社会で死体処理業者として知られるギャング。65件の死体損壊・死体遺棄、14件の殺人、7件の違法薬物密売の容疑で逮捕され結果心身喪失の疑いで更生収容所の精神病棟に収容。

グレゴリアス:「スネークマン」として恐れられ、美貌の富豪をターゲットにした蛇の入れ墨だらけのテロリスト。67件の殺人、78件の器物損壊の容疑で逮捕され、裁判では終身刑が確定。

ホベット:女性蔑視の凶悪カルト教団の教祖であり指導者として知られる。50件の強姦、56件の殺人教唆の容疑で逮捕され結果終身刑が確定。

ファーブ:爆弾魔として知られる殺人鬼。13件の殺人、28件の器物損壊、4件の業務妨害の容疑で逮捕され終身刑に

コルレッリ:イタリアンマフィア組織のアンダーボスとして知られる人物。19件の殺人教唆、8件の殺人、7件の拷問、7件の詐欺、8件の麻薬取引の容疑で逮捕され終身刑に


 「くそ!なんてこった・・・・司法省ではどのような対策を?」と聞いたバーナードであったが、ライリーは衝撃的な答えを口にする。「実は司法省は直接関与しない。」「何だと!?警察庁や公安軍警察も動かないのか?」「ああ。実は司法省の刑務局長によってこの件には緘口令が敷かれていてな、大統領も今回の脱走事件についてはご存じない。」「おいおい・・・まじかよ!刑務局長もボケてやがるな。」「刑務局長一人の決定じゃないさ。あの爺さんは省の上層部が決定したことをそのまま口にしているだけさ。」「ふうん・・・たまげたもんだな。」「ああ。驚くのも無理はないが例えば警察庁に命令を出すなどの大きな動きをすれば国民は気づくだろう。国民のパニックを煽る情報は出さない方が賢明だ。」「それはそうかもしれんが・・・でも野放しにしておくわけにはいかんだろう?」「当然だよ。奴らを野放しにしたら奴らはまた凶悪事件を起こす。国民に実害が出るうえ、それこそパニックを招くだろう?」「ああ。で、どうするんだ。」するとライリーは身を乗り出し、「そこであんたの登場だ。」と言う。バーナードは立ち上がり、「勘弁してくれ!」と叫んだ。「俺は軍と提携しているが、決して政府の汚れ仕事を請け負ってるわけじゃねえんだ。汚れ仕事なら『アロウ』あたりに頼んでみろ。あの軍事会社は裏社会の資源に精通しているらしいぞ、きっと適切に処理・・・」「話は奴らにも持ち込んだよ。」「何だって!?で、奴らは断ったのか?」「ああ。なんでもホワイトキャッスルにバレるリスクがあるからだとよ。軍事会社とは言いながら腰抜けの兵隊ごっこ集団だよ!」「何を言うんだ!俺だって司法省が隠ぺいしている事柄に首をつっこみたくはねえよ。」するとライリーの口調がいきなり変わる。「そうかい・・・・そうかい・・・・」「ん?何だ、気味悪いな・・・」ライリーはにやにや笑いながら言う。「お前さんが公安軍警察の武器をブローカーに渡していた事実の隠蔽を手伝ってブローカーの恐喝屋を処分してやったのは俺だぞ!恩をあだにするのかな、友よ。」「お前・・・・くそ!分かったよ。うまくやろう。全員捕まえて戻してやる。」「待て待て友よ、そう早まるな。まだ具体的なことは言ってないだろ。」「具体的?」「ああ。俺はあんたに凶悪犯への対処を依頼することは話したが、どういった対処をするかまでは言っていない。」「そうだな。でも奴らは逃げ出しているんだぞ!早急に捕まえないといかんだろう。」「いや、もっと手っ取り早い方法がある。捕まえるよりもな。」「どういうこ・・・まさか!?」「そう、そのまさかだ。」その後、ライリーは恐ろしいことを口にする。「逃げ出した奴らを探しだして全員殺してくれ。これが俺・・・いや司法省の依頼だ。」

 

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