8話 アリスちゃんによる完璧近接戦闘教室
アリスによる魔力制御の修業が始まって、1か月が経った。
二人は机に向き合っていた。手元には紙。そして魔力で書くことができるペン。二人とも安定して文字を書くことができるようになっていた。
そして、まったく魔力を込めることができなかった模擬刀も、問題なく魔力回路をつなげ、模擬刀に魔力を回すことができるようにまでなっていた。
魔力によって光り輝く模擬刀で素振り100回するというのトレーニングが終わる。
「アリス様、もうこの修業いいじゃない?もう余裕だよ?」
「こらコウ。・・・でもそうですね。アリス様。魔力回路の制御はできるようになったと思うんですが。どうでしょうか?」
「うー-ん。そうですね」
項垂れているコウに、それを咎めるアオ。微妙な表情を浮かべるのはアリス。三人は、この1か月、二日に一回の頻度で顔を合わせていたため、三人の距離は縮まっていた。コウにいたっては、アリスに対して、様付けではあるが、敬語で話してはいない。
「まだしてる感があるんですよね。息をするように、自分の魔力回路は操作できるようになってほしいんですけど・・・」
一方のアリスは、コウの言葉遣いに関してはまったく気にしておらず、そんなことより彼女たちの魔力回路の制御に納得ができていなかった。
しかしずっと同じ修行の連続で飽きることもまた事実。そしてコウはもちろん、アオすら集中を欠いていることがあった。
頃合いだろう。
アリスはにっこり笑って、軽くねぎらいの拍手を送る。
「でも、一か月よく頑張りましたから、とりあえずこれで魔力回路の制御は終わりにしましょうか」
「やった!!」
コウは飛び跳ねて喜ぶ。ようやく第一段階クリアである。アオも口元が緩む。
「ただし魔力回路の制御はまだまだ未完成ですから、ペンによるトレーニングは続けてください。いざというときに魔力回路の操作を誤って、魔術が使えないというのでは困りますからね」
コウの喜びの声を戒めるアリス。しかしそれでもコウのニヤニヤは収まっていなかった。
「それセカンドステップです」
そう言ってアリスはごほんと咳ばらいを一つする。二人は期待のまなざしでアリスを見つめる。
「それでは逃げ足を身につけましょうか」
アリスは笑顔でそう言った。
「え、逃げ足??」
「逃げちゃうんですか??」
二人の頭にハテナが出る。その疑問にアリスは頷く。
「はい、逃げる虫を捕まえるように、実力差があっても全力で逃げるものを捕まえるのはとても手間がかかります。そんなめんどくさい相手は放っておかれ、生き延びることができる。つまり逃げるというのは生存戦略のうえで非常に有効です」
「逃がしてもらえるって・・・侵略者は、まっすぐに目標に向かって進むだけで、そんなものごとに優先順
位を付けられる知能があるとは思えないのですけど」
知能がある者を仮想敵として例を挙げるアリスに、アオは困惑の表情を浮かべる。
「確かに侵略者には知能はありません。むしろ逃げたら本能で追いかけられるかもしれません。しかし相手が魔族だったらどうでしょう」
「魔族って…確かに人間並みあるいはそれ以上の知能があるといわれている侵略者のことですよね?確かに魔族だったらそうかもしれませんが、魔族は伝説の傭兵『マーセ ソルジャー』によって、殲滅されたといわれています。実際過去70年魔族は確認されていません」
魔族は全滅した。
世界ではそう認識されている。しかしアリスは違った。
「魔族は生き残っていますよ。あんなやつらが全滅するわけがない」
アリスはそう断言した。
「なぜそう思うんですか?」
アオがアリスに問う。アリスはくすりと笑って唇に指をあてた。
「勘です。女の勘ってやつです」
そして「しかも」といって話を続ける。
「逃げ足というのは、逃げる以外のことでも役に立ちます。ただ直線を早く走るだけでなく、急に方向転換をしてみたり、時には立ち止まったりと、様々な動きの集合です。ですから、逃げ足、足に魔力を集中的に循環させ、様々な動きをできるようになる。それが次の課題です」
そう言って、アリスはパチンと手のひらを叩いた。
こうしてアリスのよる『旧式魔術』教室は第二段階へと踏み出した。
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そして、訓練が始まって、約一年がたった。
「そういえば、アオさんとコウさん。明日は初めての現場実習らしいですね」
「そうなの!!」
初めての現場実習。停滞していた世界が大きく動き出そうとしていた。




