6話 アリスちゃんによる完璧『旧式』教室
「アリス様・・・!?」
アオはうなだれていた姿勢を正す。それを見よう見まねでコウも続く。アオは汗が染みていてラフな格好であることに気づき、頭を下げる。
「こんな格好で申し訳ありません」
「いや私のこそ急に話しかけて申し訳ありません。普通は貴族はこんなところにおらず、何かサークルかサロン、もしくは家に戻って家業の手伝いをするのが普通ですからね」
「アリス様はどうしてこのような場所に?」
「いや絵を描くいい場所がないものかと構内を彷徨っていました」
アリスはそう言って恥ずかしそうに頭を掻く。その立ち振る舞いすら気品を感じさせる。アリスの絵を描くことに対する情熱にアオは驚く。
「それで何かお悩みのようだったので話しかけてしまったのですが、お悩みがあるのなら、私にお聞かせくださいませんか。なにかお力になれるかもしれません」
アリスの言葉にどうしたものかアオは頭を悩ませる。
このお嬢様が、戦い・魔力に関すること知っているとは思えない。戦闘に特化しているAの貴族ならまだしも、内政に特化したJの貴族である。だから恥をかかせないように断ったのほうがいいのか、しかし好意を無下にしてしまっていいのか。
コウどうにかしてくれ。
救いを求めてコウに目配りする。
しかしコウの目線は空に飛んでいる蝶に向いていた。
コイツ貴族関係は私にぶん投げればいいと思ってやがる・・・・
本来なら頭をぽかりと殴るところだがアリスの前ではそんなことはできず、軽く手の甲をつねって終わった。
「ごめんなさい。ご迷惑でしたね。私はこれで」
困っているアオの様子を感じ取ったのかアリスは立ち去ろうとする。
「いえいえ。実は魔力を道具に込める方法がわからなくて、途方に暮れていたんです」
「魔力を・・・?皆さんお上手に杖の魔術を使っているのではありませんか」
アリスは目を丸くして首をかしげる。
「いや、杖による魔法とは使い勝手が全く違って」
そう言ってアオはカバンに入れてあった杖を見せる。アリスは杖をじっと間近に見つめる。その表情は真剣そのものである。アオはお貴族様が目の前にいて思考停止する。一方コウはアリスの宝石のサファイアのような瞳がきれいだなーとのんきに思っていた。
「触ってみてもいいですか」
アリスの思いがけないお願いにアオは困惑する。
「え・・・でもこれは一応許可あるものしか携帯が認められていなくて」
アオはしどろもどろになりながら説明する。この国の法律では杖はライセンスをもつ者か、この『危機管理学部』の学生のみになっている。さすがに法律違反はまずいとアリスを止める。
「大丈夫です。何ともありません。なにかあっても何もないことになりますから。ドール家に誓って絶対にアオさんたちに被害が及ぶことことはないと断言します」
アリスは笑顔で言う。これが四大貴族の力かとアオは頬に冷たい汗がたれる。
「それじゃあ・・・どうぞ」
アオは恐る恐るアオに杖を渡す。そアリスは「ありがとうございます。」と言ってアオの杖を受け取る。
そして杖に刻印されている魔法文字、いわゆるルーンと言われている文字に目をやる。
「えーと、杖を視線の先に構える・・・」
アリスは立ち上がって目の前にある草原の坂に杖を構える。すると杖は光りだし、アリスから魔力を吸収する。そしてやがて複雑な魔法陣が出現する。
「なるほど・・・すごい技術ですね。構えることで自動的に魔力を吸収する。しかもものすごい速度で、しかも一定の速度で、一定の量を吸収できるようになっている。そして属性も無属性に変え、魔力の癖も完全になくしている。そして魔術を放つトリガーは・・・」
アリスは杖に目をやりニヤリと笑って口を開く。
「ちょっと待ってください!!!アリス様!!!」
「攻撃魔法」
その瞬間杖に魔法陣が展開され、数刻のタイムラグの後に光の奔流が放たれる。その光はアオとコウの目の前を真っ白にするだけでは当然終わらず、思わず耳をふさぎなるほどの轟音と共に地面と激突する。
魔法によって巻き上がった砂埃を払いながら、『魔法』による威力を確認する。
青く茂っていた芝を消し飛ばし、地面を深く深くえぐり取った。
「誰でも一定の速度で一定の威力で、そしてまっすぐ飛ぶ魔術。全員が画一的な、そしてとてつもなく効率化された魔法を放つことができる・・・タイムラグは気になりますが、素晴らしいですね。アオさん杖ありがとうございました」
アリスは呆けているアオに笑顔で杖を返す。
アオはまず『危機管理学部』でしか学ぶことができないはずの攻撃のトリガーがわかったのかという疑問が浮かんだ。
アオは入学式の日を思い出す。あのとき見学した訓練場の一幕、アオとコウは魔術名を知ることはできなかった。声は聞こえたはずなのにである。
「あのなぜ魔法名を知っているのですか?」
色々聞きたいことがあるが、アオの口から発すことができたのはそんな言葉だった。その言葉にアリスは不思議そうな顔をしたが、すぐにひらめいたのか手をポンと叩く。
「その杖魔法名の認識阻害も入っていましたね。なぜこんな無駄なことをするのか疑問でしたが、たしかに、だれでもこんなに簡単にこんな強力な魔法を放つことができるのは危険ですもんね」
そうだ。本来ならば学園の特殊の場でしかこの魔法名を知ることすらできないとアオとコウは学んで、そのうえで学んだ。
「私は一応魔法文字を読むことができるんです」
その言葉にアオとコウは開いた口が塞がらない。魔法文字、ルーンを読むことができるものなど、魔法武器を開発してる研究者、学者、ごくごく一部の魔術愛好者ぐらいである。理由は簡単。読む必要がないからである。
そして必要になる学者や研究者でさえ文献と共にルーンを正確に解読、開発している。そんなルーンをあんな短時間で読むことができるのが信じられない。
「まあ、読めるといっても正確に読むことはできないんですけどね。あくまでどんな魔法なのかを大体理解できる程度です。だから魔術を開発するってことはできません」
アリスはそう言って謙遜するが、あれほど複雑怪奇なルーンを読むのにどれほどの時間がかかるのか。少なく見積もっても10年はかかるだろう。
「すごいねー。アオ」
コウは思っていたことを素直に口に出す。
「そうね・・・って!!アリス様どうするんですか!?魔法を無許可で放って、公共のものを破壊するのなんて!?」
アオは正気に戻ったのか、顔を真っ青にしてアリスに詰め寄る。魔法使用許可と言っても、魔法で物を壊していいという許可ではないのは火を見るよりも明らかである。それを、草原でぶっぱして大穴を開けるなんて、退学で済むか怪しい。
「なにごとですか!?」
懸念したことはすぐ起こった。近くにいた教師や講師たちが集まってきたのである。
「申し訳ありません。お騒がせしました。説明はさせていただきます」
「アリス様でしたか・・・」
その途端教師たちは言葉を詰まらせる。
「それでは、アオさん、コウさん。少し待っててくださいね。すぐに戻ります」
そう言ってアリスは教師たちもとにむかっていて、やがて姿が見えなくなった。
「なんかアリス様ってすごいね」
「うん・・・」
二人は茫然としてアリスたちを見送って、そうつぶやいた。
そしてわずか15分後。
「お待たせしました。アオさん。コウさん!!私でよければ魔力の込め方のコツを教えたいと思うのですがよいでしょうか?」
「「はいよろしくお願いします」」
二人は困惑しながら頷いた。国の頂点に君臨する四大貴族の権力を身をもってしったアオとコウだった。
ちなみに、許可を取らなかった理由は、アリス自身のために一回の魔法を使う許可を与えるために、教職員の皆さんに膨大な労力を強いるのは申し訳ないというとんでもない理由であった。




