5話 行き詰まる
実技授業が始まって一週間。コウは公園のベンチでうなだれていた。
「結局誰も希望者集まらなかったみたいね」
そう言ってアオはコウのおでこに冷たいお茶を当てる。
「うん・・・みんなやっぱり放課後はいろいろ忙しいんだって」
「そうらしいわね。この三年が終わったっら、ほとんど学生は『治安維持隊』に配置されるから、最後の青春を楽しみたいのよ」
コウはアオの言葉を聞きながら、周りを一瞥する。コウたちの目の前には笑顔で学友と楽しそうに話している学生。スポーツに打ち込む学生。など様々いた。
「ふーん。みんな放課後何したいんだろ」
コウはアオからもらったお茶を口に含めながら、少しだけ口をとがらせる。
「聞いたところによると、ほとんどは部活かサークルに入るみたいよ」
「へー。そういえば、今日から体験入部だっけ?アオは入らなくていいの?」
「私は悩み中。コウはどうするの」
アオの言葉に待ってましたとばかりの不敵な笑みを浮かべる。その笑顔にアオはちょっと嫌な予感がする。
「私は近接の旧式魔術戦闘術を練習する!!」
そう言ってコウは勢いよく立ち上がり、こぶしを天高く掲げた。
「え!?本当に言ってるの?てか、そういうのは学校から許可を」
「大丈夫。許可はもらってるから!!」
アオの言葉をコウは遮って紙をアオに見せつける。その紙には構内使用許可兼武器使用許可と書かれており、ご丁寧に学校の判子も押されていた。
こういうことだけは行動に移すのが早い、とアオは呆れ交じりにため息をつく。
「エーデル先生は教えてくれないでしょうし、どうやって練習するのよ」
「じゃーん!!エーデル先生から貸してもらった」
そういってコウがアオに見せてきたのは、一冊の本。タイトルは『イチから始める魔術戦闘術』、紙は経年劣化で擦り切れていて、日焼けで黄色く変色していた。いかにも昔の本といった感じだ。
「そんな本でできるようになるの?」
アオは本を疑いの目で見つめる。
「エーデル先生は杖による魔法以外で魔術を取り扱っている本の中では最新で、わかりやすい本だって言ってたよ」
「たしかに最近は杖以外の魔法なんて見たことないもんね・・・」
アオは立ち寄った書店を思い浮かべるが、杖以外の魔術。いわゆる『旧式』に触れているのは歴史書くらいしかなかった。
「じゃあ私行くねー。アオも来る?」
「行くわよ。なんかコウ1人だと心配だし」
そう言って、アオはため息をつきながらコウの後に続いた。「それじゃあ訓練場までレッツゴー!!」とういう元気に掛け声とともに歩き始めた。
「でもコウって、なんでそこまで近接の戦闘術にこだわるの」
アオは歩きながら質問する。コウの近接の攻撃術の執着はハッキリ言って異常である。講師にすら必要ないといわれた技術をどうして手に入れようとするのか、それもこんな色々な経験ができる滅多にない学生の時間を使って。
「うーん。後悔したくないからかなー」
コウは顎に人差し指を当てながら自分の考えを言語化する。
「どういうこと?」
アオは首をかしげる。
「ほら、私って頭よくないじゃん」
「自覚あるなら勉強しなさいよ・・・」
アオはあっけらかんな顔で言うコウを苦笑する。
「で、そんな私でも、この学園の授業じゃ魔物が近くまで迫ってきたら死んじゃうってわかった」
「でも過去十年そんなことは起こってないって、私も調べたけどそんな事例はなかったわ」
「うーん。そうなんだけどさ。もしものことが起こったときに、『あー、あのときやっとけばよかった』ってなるのが絶対に嫌なんだよねー」
予想外のコウのまじめな回答にアオは驚いた。アオはてっきり『かっこいい』とか、『体を動かしたい』という理由だと思っていた。コウは将来後悔しないために動こうとしている。そんな考えにアオは少し惹かれた。
アオは深く息を吐いて、笑みを浮かべる。
「なるほどね・・・しょうがないから、私も付き合ってあげる」
「え、本当!!いいの!?」
コウはアオの手を握る。表情はとても明るく、うれしそうである。
「わたしも、魔物に近くに現れて、無抵抗にやられるのは嫌だからね」
そう言っていると、二人は訓練場の裏庭につく。学園の訓練許可を得ることができた場所である。
「じゃあ早速始めようか」
そう言って『イチから始まる魔術戦闘術』を開く。
「まず魔力を武器に込めるだって」
「魔力を武器にこめる?どういうこと?」
「うーん。魔力って勝手に杖に吸い取ってくれるよね」
「まあ、とりあえずやってみましょ」
二人は疑似刀を手に取った。こうして二人だけの『旧式』の練習が始まった。
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「全然うまくいかないわね」
「コツすらつかめないよー」
練習を始めて一時間。アオとコウは本の一行目『魔力を武器に込める』で行き詰ってしまっていた。迷走に迷走を重ね、力を込めてみたり、素振りしながらなど試行錯誤を重ねていたため、疲労困憊状態だった。
「何をしてらっしゃるんですか。アオさん、コウさん。」
聞きなじみのある声で話しかけられる。声の主はドール・J・アリスだった。




