3話 入学式
「はあはあ・・・間に合った」
思わぬ出会いがあった二人はギリギリで入学式の会場に飛び込んだ。
「・・・すごい人だね」
コウは、村の人を余裕で超える人の海を目にして、思わず顔を引きづらせる。そして上を見渡せば、おそらく貴族であろうドレスコードした男や女が談笑しているのが見えた。
困惑しながらも、二人は空いている席に座った。
『ただいまよりアルドニア中央大学入学式を始めます。席についてください』
アナウンスの声が聞こえる。程なくして入学式が始まった。しかし学校の入学式など、どこ言っても変わらず退屈なものであった。
『以上より入学式を終了します。新入生はこの講堂に残ってください』
そう言った瞬間に緊張がほぐれ、ざわつきを見せる。
それぞれの会話に花を咲かせる中、ひときわ注目が集めた者が二名。
「あの子だよ。宰相の娘」
「コネで入学した娘でしょ。しかもJまで与えられているんでしょ。どれだけ溺愛されいるのかしら」
「背小さい・・・お人形さんみたい」
1人は『ドール・J・アリス』。彼女は悪い意味で話題になっていた。
「アオ、アオ、すごいね。アリスちゃんの評判」
コウはアリスに向けられる悪意に思わず顔をしかめる。出会って間もない人間だが、とても非難されるような人物だとは思えなかった。彼女のほうに目を向けると、気にしている様子はない。
「ちょっとアリス様でしょ。でもそうね。しかしJを与えられているってどういうことかしら」
「Jというのは、我が家の当主になる権利を保有していることの証明だよ」
どこかで聞いたことがある声にアオは体を硬直させる。恐る恐る声のしたほうに顔を上げる。そこには注目を集めていたもう一人がいた。そこには、黒髪に少し鋭いが優しい青色の目。そしてすらっとした長身だが、腕や足に目をやると、筋肉がついていて鍛えていることがわかる。100人聞いて99人が「かっこいい」「イケメン」と評価し羨まられる人物が立っていた。
「あのあなた様は?」
確認のため彼の名前を尋ねる。できれば推測される人物であってほしくないという祈りを込めて。
「あぁ、申し訳ない。名乗るのが先だったね。僕はドール・J・アドルフ。ドール家の三男。どうやらアリスが世話になったみたいだね。これからも仲良くしてもらえるとうれしい」
想像通りの人物であった。アオの心拍数が跳ね上がる。
そういってアドロフは二人の近くの椅子に座る。するとその瞬間視線が三人に集まる。
「何あの二人?」
「アドロフ様とどんな関係なの?」
「見たところただの平民だけど」
遠慮のない視線がアオを突き刺す。
(なにこの注目の量!?なにもされていないのに・・・)
アオは自分の手が冷汗で濡れていることに気づく。コウに目をやると、何も気にしていないのかそれとも視線に気づいていないのかひょうひょうとしていた。この時ばかりは鈍感なコウに口を少しだけ尖らせた。。
「アリス様はドール家ですよね。それならJを名前に持っていても不思議じゃないのではありませんか?」
沈黙の間も怖くなり、疑問をアドロフにぶつける。
アルドニア王国は貴族制度を敷いている国だが、年々貴族の数は減っている。そしてその貴族は、苗字と名前の間にミドルネームがある。
「いやドール家は代々三人にJの貴族記号を与えているんだ。そしてそれ以外のドール家や親族はJの貴族記号を使うのを許していない、かなり変わった家なんだよ」
「それをアリス様はもっていると」
アオがそう言うと少しだけ返答に困ったかのような表情を見せる。
「いや、アリスは異例の四人目のJのもつ者なんだ」
「四人目って言っても、アリスちゃ、様は当主になる可能性があるということですか」
慣れない敬語でコウもアドロフに質問する。その質問にアドロフは肩をすくめた。
「さあね。僕も親父の考えていることがさっぱりわからないんだ」
アドロフの後ろでは時間を気にしている従者らしき男がどこで会話を遮ろうか、タイミングを見計らっている。それに気づいたアドロフは立ち上がる。
「そんなわけでいろいろ訳ありな妹のアリスだが、できれば味方になってくれると嬉しい。これをお言いに来たんだ」
「わかりました!!」
コウは元気に返事をする。その返事にアドロフを少し驚いた表情を覗かせるが、すぐに笑顔になり、
「ハハ、元気な返事だ。うれしいよ。それじゃあ、またいつかどこかで」
そう言ってアドロフは颯爽と立ち去った。
行く先を見るとドレスコードした人で溢れかえっている上の階。アドロフの従者が招待状のようなものを見せて、開けられた扉の向こうに消えていった。
「・・・私あの人見たことある」
少し気の抜けた言葉を漏らすコウ。
「あら世間知らずのコウでも?奇遇ね私もよ」
「だってあの人。次期宰相候補筆頭の人だよね」
「そうね。新聞で何回も見たことあるわ」
二人はそう言って、一気に脱力する。
ドール・J・アドルフ。彼はドール家当主筆頭であり、次期宰相候補筆頭という、この国を動かすことになる人物である。
ー--
「遅かったな。アドロフ」
「申し訳ありません。父上。少しばかり用事がありまして」
アドロフの目の前には、ドール家当主、アルドニア王国宰相、ドール・J・シュティレがいた。
「挨拶に行くぞ」
父シュティレは翻して、パーティー会場に向けて歩き出した。
「父上、アリスはなぜJを持っているのですか?」
その言葉に足を止める。父親の決定にほとんど否と言わないアドロフが疑問を投げかけた。
「今は客先だ。私語を慎め」
その疑問に対する返答はなかった。
「・・わかりました」
アドロフもあきらめの表情を見せ、国の有力者とパイプを新たに作るべく、より強固にするために歩き出した。
アドルフは誰にも聞こえない声で呟いた。
「アリスにドール家当主を継がせるなんてありえない。絶対に継がせない」
アドロフのきれいな青色の目が照明が作り出す影のせいか、少しだけ濁って見えた。




