1話 少女たちは出会う
コツコツと階段を駆け上がる音とそれを追いかける足音が街に反響する。まだ日光は建物に遮られており、日陰では少しだけ肌寒さを感じる。
「ここが夢にまで見たアルドニア国立中央学園!!」
「もー。田舎者丸出しだよ」
まだ幼さを感じる少女たち。
元気いっぱいの紅髪の少女と、周りを気にしてそれを収めようとしている青髪の少女。
二人とも上京したてという感じで、落ち着きが感じられない。
「だってしょうがないじゃん!!すごいよ!!こんな建物私たちの村にはないよ!!」
「それはそうなんだけど・・・」
赤髪の少女は片腕を上げくるりと回る。
彼女たちの前の前には10階にもなる、巨大な建物が鎮座していた。そして目線を右をやれば大きな運動場、そして左にやれば『訓練場』。
校門近くに植えられている桜の木はすでに若葉が見え始めていた。
「てかまだまだ入学式まで2時間以上あるじゃん。いったい何するの?コウ」
「そりゃあ。決まってるじゃん!!アオ」
そういって紅の髪色のウヅキ コウ、『コウ』という名の少女は巨大な建物『アルドニア国立中央学園』を指差す。そして、一拍置いたのち、満面の笑みを浮かべて言い切った。
「探検だよ!!」
その言葉に青色の髪色の少女、タカサカ アオ、『アオ』はため息をつく。しかしやれやれ顔ながら笑みを浮かべ、コウの後を続き、速足で校門をくぐった。
「え、広っ!?ここが私たちが勉強する場所!?」
「うちの村の集会場の一番広い宴会場より広いね・・・」
巨大な黒板に、100席をこえる座席がずらりと並べられていた。全員が講義に参加しやすいように、前傾に傾斜がついている。コウは一番後ろの席に座って「スゴー!?」と騒いでいる。アオはそれに対して「もう、騒がしいよ・・・」を苦笑する。そうは言いながらもアオも周りを見渡し誰もいないことを確認したのちに、ちょこんと座席に着席する。
「そんなこと言ってるアオだって頬緩んでるよ」
いたずら顔でアオの表情を指摘すると、アオは無理やり取り繕い、席から立ちあがった。
「もう、満足した?入学式の会場に戻るわよ」
しかしコウはアオの手を引っ張る。しかしコウは引っ張られるのではなく、アオの手をむしろ引っ張る。
「次行こう!!」
まだまだ田舎者の探検は続く。
次に向かったのはトイレ。
「すごーい!!白い!!きれい!!」
「本当にただのトイレなのに・・・私たちの村と大違い・・・」
レバーをひねれば、ジャーっと水が流れる。それを見て、二人は「おー!!」と感動に包まれていた。
そして次に向かったのは訓練場。
「早くしろ!!そして息を合わせろ!!ばらばらに魔法を放つな!!」
女教師の厳しい指導が訓練場中に響く。
「「「はい!!」」」
その指導に対して少女たちは汗を流しながら大声で返事する。手元には全員全く同じ金属製の杖を構えている。
「装填!!」
中央で旗を持った学生が、手を上げる。その瞬間訓練場中により一層の緊張感が張り巡らされる。学生たちは一斉に、杖を構え、狙いを定める。狙いの先には敵の絵が描かれた的。
杖先には複雑怪奇な模様、いわゆる魔法陣、そして光の粒子が集まる。杖先は直視することが困難なほどの光が集まっていた。
「撃て!!」
「「●●●●!!」」
学生たちが何かを唱える。なんと唱えたのかは何かによって理解することはできない。瞬きした間に杖からは魔法陣が展開される。そして数秒後とてつもない光量の光線が放たれた。その光は的を軽々と粉砕し、地面に直撃すると爆音に近い音が轟く。
「そこまで!!今日は入学式だ!!早めに切り上げるぞ。いいか。杖のメンテナンスはしっかりしておくように」
「はい!!」
教官の声に返事する生徒たち。そして挨拶をして、解散した。
「・・・なんかすごいね」
フェンス越しで見ていたコウとアオは呟く。
「こんな風になれるのかな?私達」
その言葉にアオは肯定の言葉を出すことはできなかった。
冷水をかけられたかように、上がっていたテンションが下がっていた二人は何気なく奥の教室に入っていた。
「なんだ・・・この匂い」
アオは思わず鼻をつまむ。腐卵臭でもアンモニア臭でもない。もっと科学的な嫌なニオイだった。
「そう?私は嫌いなニオイじゃないけど?それよりほら、ここ美術室だよ!!凄い絵沢山あるよ!!」
コウはそう言って、美術室の部屋を探検し始める。美術室には絵画は勿論、石膏や、像など素人目でも高い技術を持って作られたものだとわかる物が展示されていた。
「そういえばこの学校芸術系の学部もできたんだよね」
アオも美術室を闊歩し、時折歓声のような声をあげていた。
「ね、あれは何かな?」
コウは指を指す。そこには、画板に載せられたがあった。
「まだ書いている途中なんじゃない?」
「ちょっと見てみようよ!!」
そう言って画板に小走りで近づく。
「あ、ちょっと!!」
制作途中の作品を見るのは流石にまずい。そう思ったアオだったが、静止が効く幼なじみではないことを思い出して諦める。
「え・・・なにこれ?」
コウは小首をかしげる。その反応に興味を持ったか、アオもそのスケッチを覗き見る。
「うーんこれは何というか・・・」
「「下手?」」
目の前には上手いとは言い難い、まるで5才児が書いたかのような絵があった。
「ふふ・・・下手とは手厳しいですね。でもまだその作品は製作途中なので」
こんこんと革靴が床を蹴る音が美術室に響く。
「す、すいません!!つい出来心で!!」
アオは慌てて頭を下げる。新入生とはいっても無断侵入である。それなりの処分が下されることも考えられる。顔を真っ青にして頭を下げるアオを見て、事の重大さを感じたコウも慌てて頭を下げる。
「いやいや全然構わないですよ」
画材などが置かれている倉庫の闇から
「私も、別に許可をもらって、使ってたわけじゃないですから」
彼女たちの目の前には、少しだけ想像と違う人物が現れた。
二人は姿を見て、口を揃えて思わず口を開いた。
「「ちっちゃい!!」」
学生とは思えない小さな少女。いわゆる幼女だった。