13話 一年後期 現場実習 4
「はぁはぁはぁ・・・」
その戦いはジリ貧だった。それも当然コウには戦う手段がないのだ。彼女が教わったことは、逃げることのみ、攻撃手段はほとんど教わらなかった。
『ちょこまかと!!』
しかし急ストップ、急旋回を織り交ぜた逃亡は確実に相手のフラストレーションをためていた。しかし土埃をたてようものなら潜伏を許してしまうため、大規模攻撃はできない。
そして厄介なのがもう一つ
「あっぶな!!」
攻撃が当たりそうになった瞬間に魔力を込めて、硬化して攻撃から身を守ることである。これのせいで、速さに特化した攻撃は守りきられてしまう。
「アリスちゃんより断然弱い」
それがコウの心の支えだった。ジリ貧だが、時間はかなり稼げる。そうすれば誰かが助けてくれる。コウが思い浮かべるその姿は金髪幼女だった
これならばと生存に希望を持った
その時だった。
「うぅぅ・・・」
うめき声が聞こえた。うめき声の元は魔法お掃除隊の隊員だった。勇敢にも立ち向かった有志だった。
そしてそれを見て
クルガーはニヤリと笑った。
魔人には知能がある。知能があるものが獲物を捕まえられない時に何を考えるか。別の方法を考えるものである。
例えばおびき寄せるとか。
『これも守りきれるか!!』
クルガーは炎を投げつけた。コウではない。攻撃の先は負傷した隊員だった。
コウは魔力全開にフル回転させ、隊員への攻撃を弾き飛ばした。
「くそ!!」
コウは手負いの隊員を背負い逃げ出した。
『人を背負って逃げられると思うなよ!!』
クルガーは放つ。先ほどより明らかに遅い攻撃。
「くっそ!!」
しかしコウは警棒ではじき返す。はじき返すしかなかったのだ。要するに手負いの人を背負って逃げれるほどクルガーは弱くない。
クルガーはニヤリと口元を歪めた。形勢が少しずつ傾きはじめていた。
隊員を見捨てれば自分は助かる。それは理解できている。
『脇目も振らず逃げてください。私は見知らぬ人たちよりもあなたたちに生きてほしい』
アリスの言葉を思い出し、コウの隊員を持つ手が僅かに緩んだ。
死なないためには仕方ない。共倒れに巻き込まれるくらいなら
もう一つのアリスの言葉を思い出した。
『私の願いはそうですが、最後に決断するのはアオさん。コウさん。あなたたちです。あなたの選択があなたにとって正解ですから』
コウは隊員を背負い直した。
守る。そして2人で生き残ってみせる。
しかしそれを見てニンマリと笑う、魔人。他人を庇うとことん理解できないが、人間はそういった非合理的な判断することが多いことを知っていた。
狙い通りだ。
『フレム!!』
炎がコウに降り注ぐ。炎の本流をやり過ごすためには先ず見ることだ。なんとか躱せるものは躱す。当たるものは弾き飛ばす。それを徹底するのみである。
『くそが!!いい加減当たれ!!』
コウは飛ばない。飛ぶと標的なるからだ。アリスとの鬼ごっこで、飛んで捕まったことが何十回もある。飛ばない。足に地面をつける。360°動ければ凌げる。隙のない動きがクルガーを焦らせる。
「フレム!!!」
クルガーは闇雲に炎を打ち出す。しかし、それは全く意味をなさない。冷静さを欠いたクルガーの攻撃ならコウは凌ぎきれる。
しかし、アクシデントは突然起きる。
ポキリ
そんな音を立てて警棒が折れた。
(まずい!!)
コウは新たな警棒を取り出し、魔力を込める。
「込めれない・・・」
当たり前のようにできた魔力回路の操作ができなくなっていた。
そしてそれを見逃すほどクルガーが甘くない。
「やばっ」
警棒でなんとか弾く。しかし捌ききれなかった。炎がコウの腹を焼く。
魔力循環のおかげで致命的ではない。しかし、クルガーの攻撃を躱すことはできなくなった。
『もー無駄口は叩かん・・・死ね!!』
クルガーの刃が迫る。戦い以来閉じないと決めていた瞼を思わず閉じる。
しかしいつまで立っても衝撃はやってこなかった。そこには金髪の幼女がいた。
「あ、アリスちゃん・・・」
その呼び声に金髪の幼女、アリスはにこりと笑った。
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「アリスについて?どういうことですか」
「おまえはアリスについて何を知っている」
父シュティレの言葉にためらうハルトだが、少し考えて口を開く。
「アリスは私の妹です」
「そうだな。ほかには?」
「そして、ミドルネームにJを持っている人物です」
「いや、違う。あいつはミドルネームにJをもっていない」
ハルトは首を傾げる。
持っていない?そんなはずはない。彼女の名前は『ドール J アリス』だと戸籍でも確認していた。
「ハルト。お前はトランプを知っているか」
そう言ってシュティレはトランプを取り出した。
「知ってるも何もそれが私たちの国の貴族の由来でしょ」
その言葉にシュティレは頷く。
「そうだ現代貴族は4つ分けられる。王族に与えられるK、国の司法を司るQ、そして国を守るA、そして財政を司る我々Jだ」
シュティレはそう言ってKing、Queen、Ace、Jackのトランプを広げる。
「だが、アリスはこのどれでもない」
「どれでもない?」
「ハルト考えてみろ。トランプで他に頭文字のつくカードあるだろ」
ハルトは思考する。そして1つのカードにたどり着いた。
「Joker」
ハルトの言葉にシュティレは少し笑って、トランプのカードを出した。Jokerであった。
「アリスはドール J アリスではない。あいつの正式名称はドール J アリスだ。あいつは逆転の札なんだよ。魔族優勢の世界をひっくり返すな」
トランプのJokerの絵に注目してみる。するとそこには愉快で笑っている絵を描いているピエロの絵があった。




