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11話 一年後期・現場実習 2

 作戦が開始する5分前。魔法お掃除隊は配置につく。そして、危機管理学部の学生は二手に分かれて、端の両翼で作戦の見学を行う。危機管理学部の学生は作戦での気付いた点をメモするレジュメを挟んだバインダーを手に持って理路整然並ぶ。その表情は真剣だ。

 一方、美術学部の学生はv字のへこみの真ん中で魔物の観察そして戦いの見学を行う。美術学部の学生は筆を用意するものや、スケッチブックを広げ、鉛筆を尖らせたり、カメラを構えたりするものなど自由だった。


「美術学部のみなさん。わたしたちは魔法お掃除隊 第1部隊です。わたしたちは絶対にあなた達を無傷で送り届ける任務があります」


 魔法お掃除隊 第1部隊。この部隊が作戦真ん中、美術学部の学生の護る部隊である。


「なるほど、かなりできますね」


 アリスは隊員を一瞥して、そう言った。隊員一人ひとりに緊張感がある。体を緊張させるものではない。作戦に集中するための緊張である。

 裕福な学生が多い美術学部には、エリート集団、魔法お掃除隊 第1部隊がついた。本来ならこんな簡単な作戦には参加しない、毎年この時だけ美術学部を護るために作戦に参加する。


 作戦開始まで5分を切った。アリスもスケッチブックと鉛筆をもって、デッサンの構図を考え始めた。



 ーーーーーーーーーーーーー

 作戦開始まで1分。目の前の荒れ地がまるで真夏で太陽の熱によって起こる陽炎のような空間の揺らぎが起こる。目測にして2キロ先。魔物の出現予測地点と相違ない。


「来るよ。魔物・・・」


 学生たちにざわつきが広がる。安全とわかっていても、不安が伝染する。


「B班!!構え!!!」


 隊長の号令のもと隊員は杖を構える。杖の先には空間の揺らぎがある。


 そして空間の揺らぎは段々おおきくなり、そして空間が()()()


「空間に穴が・・・!!」


 冷静を装っていたアオも声を上げる。学生たちも目の前の非現実的な光景に少しだけパニック状態に陥る。


 そして現れた。


 魔物である。


「・・・」


 軽いパニック状態だった学生たちは言葉を失う。目線は魔物に行く。

 そこにはこの世の物とは思えない異物がいた。

 数にして軽く100を超える。トカゲのようなものと、ワニの風貌をしたもの。しかし生き物では無いことは一目でわかる。それはその魔物たちは黒い霧を纏っているからである。その他にも魔物特有の特徴はあるが、2キロ先では確認することはできない。しかし魔物たちが纏う異質な黒い霧だけで、学生を恐怖させるのには十分だった。


『ヲヲヲォオオオォ!!!』


 魔物たちは一斉に産声を上げる。その声量は2キロ先でもうるさいと感じるほどである。

 その威圧感に逃げ出したいという衝動に駆られる。しかし魔法お掃除隊は全く動揺していなかった。B班の長は眉一つ動かさず手を振り下ろした。


「放て!!!」

「「「攻撃魔法ルーチェ」」」


 長の号令のもとに隊員は一斉に魔法を放つ。杖の先に展開される魔法陣。その魔法は自分たちが撃っている魔法と何ら変わらない。ただ攻撃魔法だった。しかしそれを的以外に当てるとどうなるのか、イメージがつかなった。

 そして魔法陣から放たれるのは白い光の本流。その光は魔物たち瞬く間に包み込む。


『ゴォォォォォォ!!』


 断末魔とともに、あれだけ恐怖させられた魔物たちは消え去った。


「どうでしょう、これがあなた達と使っている魔法です」

「・・・」


 自分たちの使っている魔法の威力に驚きを隠せない様子。攻撃魔法によって打ち上がった砂埃が晴れると優に100はいた魔物の集団は跡形もなく消えて、残っているのは空間の歪みである。


「そして、次の魔物出現は5分後です。これを1時間続けます。皆さん、落ち着いて観察してください」


 作戦開始して30分ほど過ぎた。作戦の折り返しの時間である。そう言ってもやることは変わらない。空間が割れてその空間から現れた魔物を攻撃魔法で殲滅する。トラブルなどは発生せずに、順調だ。


「コウ。なんか魔法お掃除隊ってどういう仕事がわかった気がする」

「うん。なんというか、戦いっていうより、作業だね」


 コウは今回見学した作戦を戦いではなく、作業と表現した。そしてその表現は言い得て妙であった。

 作戦開始した初めこそ魔法お掃除隊 第2部隊B班の隊員全員が表情が引き締まったが、もう既に欠伸を漏らす者すらいる。そして、学生に目をやると、あまりに同じ作業の繰り返しに、お喋りを始める者すらいた。安心で安全で退屈。それが魔物討伐だった。


「なんかこれ見せられるとモチベーション下がるわね」


 アオはそう言って肩を竦める。そのコメントにコウは否とは言わず、「ははは」と笑うだけだった。



 しかし事態は、急転する。隊長に駆け寄る人の影。


「緊急事態!!隊長突然ヒト型の!!」

「なに?どういうことだ?」

「おそらく魔族が!?」

「魔族?」

「だから!!魔族が突然!!!」


 その瞬間隊員の腹から血が吹き出る。


『さて、ひっくり返そうか』


 ニンゲンの声ではない。声帯から音ではない声が全員の耳に聞こえてくる。

 混乱が始まる。


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