10話 一年後期・現場実習 1
アリスとアオとコウが訓練した次の日。現場実習が始まった。
場所は学園の前、今回の現場実習に参加するのは二つの団体。一つはアオとコウが所属する危機管理学部の一年生。その学生たちには恐怖からか表情が固い。二つ目の団体は希望を出したアリスも所属する1~4年生の美術学部の学生。15人程度だが美術用品のチェックや清掃などしており、会話などはないが緊張感は感じられない。
「それでは現場実習を始めます。現場実習において注意事項をお教えします。これに関しては、危機管理学部の学生、美術学部の皆様区別なく守っていただくことです。よく聞いてください」
現場実習のオリエンテーションが始まった。最初こそ静寂を保っていた一同だったが、現場実習の前の授業で聞かされたことの繰り返しで緊張がゆるむ。
そして当然、注目はあの少女に集まる。
「あの方も参加するのね・・・」
「あの方?ってあー。アリス様ね。こんなところにまで来るなんて、変わっているわよね」
「家族に止められなかったのかしら。参加自由なのだから、貴族で参加しているのってアリス様だけでしょ」
「家族にも諦めれているってことでしょ」
「そうなのかなー」
そう言って侮蔑を含む笑いを浮かべる。そしてやがてその視線は関わりのある者に向けられた。
「アオとコウもたいへんだよねー。めんどくさい人に絡まれて。あの人の提案は断れないでしょ」
アオとコウを心配しているように見せて、実際はアリスをバカにしている発言。そういう彼女はニヤニヤとしていた。
そう言われてアオは苦笑いを浮かべる。
「アハハハ・・・そうかなー」
アオは曖昧に相槌を打つ。
「いや、私はアリス様に教わりたくて教わっているから。感謝こそしても、迷惑なんて思ってないよ」
対してコウははっきり否と言った。その表情は凛としていて、微かに怒りが見え隠れした。
コウの強い否定に、学生たちも「そっか・・・」と反応するしかなかった。
「以上で説明を終わります。これから美術学部と危機管理学部は分かれて、顔合わせを行います。移動を開始してください」
そう言われると学生たちは喧騒を取り戻し、移動を開始する。
アオとコウはその人の流れに逆らわず、歩き始める。
「ねぇーアオ」
コウがアオに話しかける。いつものゆるい口調ではない。キツめで、そして語気が少しだけ荒い。アオはその言葉にバツの悪そうな表情を覗かせる。
「せっかく私達のために頑張って教えてくれているアリス様に、あれはかなり失礼だと思う」
ごもっともな指摘に言葉を詰まらせるアオ。
「確かにアオは私と違って周りをよく見てるからね。気づくこも沢山あるし、周りとのいい関係を築くバランス感覚は凄いと思う」
コウは明るくそう言う。「だけど」と続ける。
「大切なことは大切って、嫌なことは嫌って、言わないと駄目な時もあると思うんだけどねー」
その言葉はアオは俯かせる。
「・・・うんそうだね。」
コウの言葉にアオはゆっくりと頷いた。
そんな事を話しているうちに目的地に着く。
「何も無いところだねー」
コウは周りを見渡しながら言う。後ろを振り返れば自分たちが住んでいる国があるが、目の前には見渡す限りの荒れ地。いや正確には奥の方に微かに森が見える。しかしそれだけである。微かに生えている雑草、戦闘行った痕跡。何も無い見通しのよい平野。ここが今回の作戦実行地である。
「はい皆さんこんにちは。私たちは魔法お掃除隊B班です。今回は危機管理学部の皆さんに、私たちの仕事の見学をしていってもらいたいと思います」
そう言って魔法お掃除隊第2部隊 B班の長であろう女が学生の前で説明が始まった。
「今回の現場は安全度が高いです。敵、侵略者は森の方からやってきますし、空を飛ぶ侵略者もいません」
作戦実行の長の安全性のお墨付きがあり、学生の表情は少しだけ明るくなる。
緊張が少しほぐれたアオは作戦実行するその他の隊員に目を向ける。そして隊員の姿に眉をひそめる。
「どうしたの?アオ」
「なんか、緊張感なさすぎじゃない?」
アオは指を指す。その指した方向にコウは目をやると「あー」と苦笑が混じった声を上げる。
魔法お掃除隊 第2部隊 B班の隊員は緊張感が全くない。確かに作戦を確認しているものは複数人いるが、半数以上は雑談に花を咲かせたり、眠そうに欠伸を漏らしたりしていた。
「そして、今回はもし万が一打ち漏らした侵略者がいても大丈夫なように、落とし穴、そして爆撃と罠も張られているため、安全度は高いです。肩の力は抜いて、だけど真剣に見学するように」
魔法お掃除隊の長の言葉に空気は引き締まる。その空気を一瞥して続けて言った。
「それでは作戦の最終確認を行います」
作戦の説明がされる。
作戦はシンプルである。
敵、侵略者の種類はトカゲ型、ワニ型。いずれも飛ぶことはできず、地上を歩く、もしくは走って移動する。
出現先は2km先。アルドニア国に直線的に向かってくると予測される。
陣形は両翼を前方に張り出し、「U」の形を取る陣形
敵どの距離がが1.5kmを切ったところから一斉射撃。
今回は安全性の確保のため、打ち漏らしがあっても、1km先500m先に落とし穴があり、侵略者が落ちるのと同時に爆発する、
以上である。




