0話 英雄は世界を救う
「あれだけいた、侵略者を一人で全滅させるか」
名もなき男は呟いた。声こそ冷静を取り繕っていたが、片手に持っている酒瓶は微かにふるえている。
「あいつって、人間なのか・・・?」
男は戦闘によって崩れ去った高層ビルの瓦礫に座り込み、一人の男を見つめて呟いた。
「あの人って、いったい何者なんですか?」
まだ少年の面影がある男は男を指差して言った。その言葉に周りの男たちはその言葉に目を丸くして、笑いだす。
「あいつは・・・バケモンだ」
傷によって開かない片目、幾度の修羅場を乗り越えたであろう傷だらけの男は呟く。そして続けて言う。
「いいか。この世界で生き残りたかったら、あの男の後ろで戦うことだ」
その言葉に若男は首をかしげる。
「何でですか?」
男は若者の疑問にフッと笑みを浮かべ、口を開いた。
「理由は簡単だよ。そしたら、打ち漏らした敵だけ倒すだけですむからな」
その言葉に、その場にいた男たちはうんうんと頷く。
「人呼んであいつのことをこういう」
「伝説の傭兵と」
伝説の傭兵と呼ばれていた男の足元には、大量の屍が横たわっていた。屍の姿・形で、角が生えた人間のような生物、四足歩行で尻尾が生えた硬い鱗に覆われたオオトカゲのような生物、そのほかにも翼が生えていたりと多種多様である。
男自身に注目を向けてみる。男は赤い血や黒い血、そして青い血で汚れていた。しかし彼自身には傷一つない。
大きな特徴がもう一つある。それは地面に突き刺している剣である。いや剣というより、巨大な金属の塊というほうが正しいだろう。そんな巨大な剣は、その男の背丈と同じくらいの大きさで、持ち上げることすら困難だろう。
そんな剣を軽々と振り回していた男はタバコをふかし、白い煙を吐きながら、憂鬱そうな表情を覗かせていた。彼は誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
「あーあ建物壊しちまったか。絵の続きは想像で書いていくしかないか。」
男は立ち上がって、近くに立てかけていた鞄を大事に抱えて、その場を後にした。
殆どの者は知らない事実だが、彼は傭兵ではない。
彼は絵描きだった。ただ絵を描きたくてこの地に訪れているだけだった。
傭兵業で食い扶持を稼ぎ、売れもしない絵を描く。
それが彼の生きがいであり、侵略者はそのために邪魔なものであるという理由で処理されていただけだったのだ。
この男がいる限りこの世界は大丈夫だ。誰もがそう思った。
しかしその日々は突如として終わる。
「な、なんだ。腹が」
強烈な腹痛で椅子から転げ落ちる。椅子もガタンという大きな音を立て、倒れる。
侵略者による侵略という絶望的状況を跳ね除け、人間の生活圏を100倍以上にした。後の人はその者を『伝説の傭兵』だとか『英雄』と読んだ。
享年30歳だった。
それから20年。巨大な建物に立つ者が1人。
「今日から私の絵の勉強ができる学園はここね」
ある少女が学園に入学した。