表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

親の教えと冷や酒は、後になってから効くんだってさ

創作論、かもしれない。

 母は物書きになりそこねた人だった。

 本邦で一番有名な文学賞(ネット大賞、ではない)を輩出している文芸誌で、何度か賞に選ばれていた。

 母と同時期に入選していた人の一人は、文壇の大物になっていらっしゃる。


「なんで小説書くの止めたの?」

「お前たちが生まれたから」


 嗚呼母よ、産まれてきちゃってごめんなさい。


 でもこの手のセリフは、たとえそれが事実でも、子どもさんに言わないであげてね、世のお母様たち。

 歪みますのよ、それなりに。


 まあ、こんな話をすると友人たちからは「作文とか、教えてもらったの?」なんて訊かれることがある。

 作文? 小学校三年生以降は、嫌なので見せませんでしたよ。

 だって批評されてしまうもん。


 ただ、二点ほど、文章の書き方を教えてもらったような気がする。


「遠足に行って、とっても楽しかったです」


 小学校一年の時だ。

 これを目にした母が言った。


「お前の『楽しい』と読む人の『楽しい』は同じじゃない。誰が読んでも『ああ、本当に遠足に行って、楽しかったんだね』と思ってもらえるような文を書くように」


 個人の感情は、単なる感情表現では伝わらないこともあると、初めて知った。

 では、どうすれば良いのか。


 淡々と、事実を書けば良いと母は言った。

 天候や風景を、ありのままに。

 一つひとつの文章は、短くて良いから。


 もう一点は、視点についてだった。


 作文は基本一人称である。

 なので、自分から見た他人を書くのは良いが、他人が見ているものを自分の視点で書くと、読む人が混乱するからヤメレ。

 更に。

 もしも小説を書くならば、一人称ではなく、三人称で書けと母は明言した。


 だいぶあとになって、母はヘミングウェイを好んで読んでいたことを知った。

 つぶされる蟻のシーンが、その後の主人公の運命を示唆しているというような技法を、会得していたのかもしれない。


 まだ純心無垢だった小学生の頃に、母から受けた文章の書き方は、それなりに沁み込んだ。

 私の作品は三人称で地の文が多く、無駄な風景描写と相まって、読みにくいものが少なくない。


 でも。

 それは。

 それは、私のせいじゃないんだあぁぁ(小声)


 ちなみに現在は、一人称の作品も、ぽちぽち書けるようになりました。

 もう少し文書修行をするために、今年はアメリカ文学でも、読んでみようかと思っている。

誤字報告はいつも助かっております。

敢えてひらがなで書くこともあります。


参考文献

高取清「Hemingway文学における文体分析」文教学院大学外国語学部紀要、2007


※高取の親戚の方ではないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい薫陶を受けられたようで(;^ω^) 自分は理系一家だったので、そういった執筆のお話がないんですよね( ̄▽ ̄;)
[一言] なんかふしぎなところで影響が出たりするんですねぇ。 血のつながりの影響って思っている以上に強いのかも。 友人の子供が友人と同じ歌手を好きになったと聞いて驚きました。 なぜなら一度も聞かせた…
[一言] 刷り込みってありますよね・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ