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今日も忍は柱(ちゅう)を舞う  作者: 司真 緋水銀
〈逸話(エピソード)零:『始まり』〉
8/9

□ くの一伝其の伍『凶刃飛来』


 同期の忍者【六奏天嘉】の住処を訪れた拙者は、気配すら無い存在に背後を取られ……ついつい恐れおののきオナゴのような悲鳴をあげてしまった。

 いや、既に転生術で女性となっているので何も問題はないはずなのでござるが──何分(なにぶん)()()()()であるためか謎の羞恥心が心を支配していた。


 しかし、何と情け無し──今朝がた敵襲を許したばかりの舌の根も乾かぬ内に背後を取られるとは。

 忍として今生の不覚っ!!

 気を持ち直して心根を正さねば!!


 と、背後を向き直ると何も無い空間から()()()()()()()()


 その時のことはよく覚えていない……あまりに面妖な光景に遭遇した驚嘆と、内からこみ上がる不可解な恥ずかしさにより拙者は再び悲鳴を上げ、変質者をぶっ叩いていたでござる。


「きゃぁぁああっ!!? 変態でござるっ!!!」

「ぶへっ!?」


 結論を言えば……半裸のまま伸びてしまった変質者の正体は拙者の探し人【六奏天嘉】だったでござる。

こ奴──ちゃらんぽらんな生き方をしているのだろうと思えば……訪問者に対して警戒を(おこた)らずに背後に回るとは。

 少し見直したでござるよ……それに(くら)べ、拙者の醜態の何たるや──恥を知るべし!!


---------------

----------


 そんな申し訳なさもあって──気を失った天嘉を長椅子へと運び目を覚ました奴に開口一番に謝罪した。

 天嘉は当然ながら拙者を【風忍拳伐】とは気づいておらぬが……オナゴである拙者に相対すると落ち着かない挙動を醸し出しておった。


 ふ、相も変わらずオナゴとの接し方が下手な奴よ……だがこのような奴のそんな仕草でも懐かしさを覚え、懐郷の心情へと浸る。

 だが、落ち着いている場合ではござらん。

 早く拙者の正体を明かし、事情を説明せねば。


「あ……あのっ………ご、ござるたんっ! そそそれで今日は遂に結婚のために会いに来てくくれたんだよね!? っスよね!?」

「………へ?」


 だが、奴のわけのわからないたわ言に思わず思考が止まる。

 結婚とは? 何を言っておるのだこ奴は?


「ぁぁぁあのっ、俺も同じ気持ちですごく嬉しいんスけど会うのは初めてなんでまずはデデドっ……デートからってことでいいっスか!? いや俺は慣れてるけどござるたんが男とデートするのは初めてだろうし」


 そして謎の言語の羅列をまくし立て始めた──これは何かの暗号でござろうか。

 拙者の事を誰かと勘違いしている……?

 会話文から察するに【ゴザルタン】という異国の者と? 拙者のどこが異国人に見えるのでござろうかこのアホは。


「拙者の名は………………かざ…………」


 訂正しようと異を唱えた瞬間──ハッとする。

 そういえば名を決めてござらんかった。

 さすがにこの容姿で【風忍拳伐】なぞ名乗ろうなど不自然極まりない。女性へと転生したのだから新たな名が必要であろう。


 しかし、そんなすぐに名など思いつかぬ!

 なにか女性らしく、拙者の名と混同せず且つ覚え易き名などあるだろうか!?


 必死に脳内辞典にて『風』から始まる四字熟語を探っていると(別に四字熟語である必要性は無いのだが)──閃いた。


「かざ………【風月雪花(かざつきゆっか)】と申すでござるよ」


 【雪月風花】──四季がもたらす美しき自然風景のさまを表す言葉……文字を入れ換え【風月雪花】。


 なんという情緒と気品と(おもむ)きに溢れる名であろう。

 決めたでござる。

 拙者は──本日を持って雪花でござる。

 この名前に恥じぬような女性としての生き方を少しでも身に付けねばなるまい──


 そんな決意を露にしたその時であった。

 ほんの(わず)かに妙な気配を感じたのは。

 相次ぐ襲撃者(二番目は目の前の男)により気配に敏感になってるだけかもしれぬが……不安感は(ぬぐ)えない。


 杞憂かも知れぬが………今この場で正体をこ奴に明かすのは控えるべき──直感がそう告げた。

 ならば、急ぎ保護を求めるべきでござる!

 何も説明せずに保護を求めるなぞ心苦しいが──現状は仕方あるまい!


「──拙者っ………私、悪人に狙われていて………貴殿に匿ってほしいのでござるっ! この場所に……一緒に住まわせてほしいのでござる!」


 なんとも我ながら厚かましい願いであることは重々承知ではあったが……予想通り、天嘉は二つ返事で承諾してくれた。

 少しは不審に思わぬか!!

 いつか女性関係にて痛い目を見るでござるぞ!

 ……と思った拙者であったが、騙している身分が故に何も言える筈も無く──ただただ天嘉を憐憫(れんびん)の眼差しで見る他なかった。


 ────その眼に向かって、凶刃が飛来するまで。

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