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今日も忍は柱(ちゅう)を舞う  作者: 司真 緋水銀
〈逸話(エピソード)零:『始まり』〉
6/9

□転生くノ一伝 其の肆『旧知再会』


「…………ぅう……なんと歩き難い体躯でござろぅ……」


 外へ出た拙者を待ち受けていたのは、男であった時に比べ……非常に生きにくい世界の現状であった。歩行一つとってみてもそうだ。

 股の間に何も無し……なんという調律(バランス)感覚の難易度の高さよ。別に男は男根で平衡感覚をとっているわけではござらんが。

 その代わりといっては何だが……両の乳房の荷重たるやまるで重石の如し。このようなものを女性は一時も離さす抱えておるでござるか……小さな体躯にまるで見合わぬ業よ。

 見える世界もまた様変わりしており、視点が低く、髪がいちいち眼にかかる──女性とは斯様な生き様でこの厳しく社会を生き抜いておるのかと感服仕(かんぷくつかまつ)る。


「ぶかぶかで寒いでござる………ぃや、なに弱音を吐いてるでござるか……心頭滅却すればなんとやらよ」


 当然、男性服しか持っておらぬ拙者は不自然にも寸法がまるで合わない洋服を着ているでござるが………不自然になっておらぬでござろうか。悪目立ちするのは〈忍〉として絶対に避けなければならぬ、特に今は。


---------------


《………おい、見てみろよあの子………》

《うわー、なにあれーヤバくない?》


 なるべく人通りが少なく、目立たぬ行程を選んだつもりではあるが……奴の住処に近づくにつれてやはり人目は避けれなかった。あやつの住処は駅に近いためか往来は老若男女様々な人々でごった返している。


 なんという活気溢れる場所であろうか……拙者、人混みは苦手でござる………こんな場所に住む〈忍〉は長い歴史を紐解いてみてもあのアホのみであろう。


「………やはり、考えを改めようか……このような目立つ場所で隠密行動なぞ到底不可能でござる……」


 案の定……さっそく街中に足を踏み入れた拙者は悪目立ちをしておる。

 行き交う雑踏の声を拾うのは得意でござるのだが、約八割の人間が拙者を注視しているのでござる。

 やはり女性が男物の服を着るなど不自然であったか。


《めっちゃエモくない? ヤバっ》

《尊みが過ぎるー!!》

《二次元女子~、ぶかぶかのアウター着てるの可愛い~!》


「!?」


 人々は、口々に理解不能な言語で会話をし始めた。

 その表情はどこか狂喜の様相を孕んでおり、拙者は恐れおののく。


 暗号通信か!?

 もしや……既にこの一帯に刺客の魔の手が及んでいるのだろうか?!

 なんという迅速な手回し……拙者が甘かった。

 悠長にしている場合でも迷っている場合でもござらんかった。すぐにでもあ奴と接触を図らねば。


 そう感じた拙者は、ここに来るまでに事前に調べ上げた奴の居住へと足を踏み入れた。


---------------


「……………な、なんでござろう……この(たたず)まいは……」


 塔の如し無駄に長き建築物の中は、異国文化の様相を呈していた。

 漆塗りにて彩られ、まるで水鏡のように反射する床や壁……天井は果てしなく高く、豪華絢爛な装飾があちこちに散りばめられておる。鏡張りにて外界から丸見えとなっている大広間には受付のようなものが存在し、それがなければここが既に住人の住処と勘違いしてしまいそうだ。


「………と、呆気にとられてる場合ではござらん……確か……この面妖な機械(からくり)にて住処に割り振られる数字を押して呼び出すのでござるな」


 拙者、忍者故に機械(からくり)の類いは滅法苦手でござるが(因果関係があるかは不明でござる)なにぶん二十年も俗世間におれば番号を押すくらい余裕ゆえ──颯爽(さっそう)と華麗に呼び出し機なるものを鳴らした。

 ふふん、文明の進化をも内に取り込む………時代に合わせる生き方もできるとはさすが拙者でござるな。


「………………応答がないでござる……留守であろうか……」


 もしや違う住処の番号を押してしまったのだろうか。

 それはまずいでござる──他の住人に迷惑がかかってしまう! 急ぎ謝罪しなくては!!

 ……などと思案していると、目の前の透明な扉が突如として開いた──げに不可解な光景を目の当たりにし、不覚にも驚嘆の表情を浮かべてしまう。


 そんな、一瞬の油断を誘われた拙者は……次の瞬間戦慄する。

 気配も何も無かった背後から、突如として声がかかったのだから。


「よ……ようやく会えたねござるたん……俺と……け、結婚してください……」



 そんな戦慄あってのことだろう──不覚にも、オナゴのような悲鳴をあげてしまった原因は。

 …………きっとそうでござる!!






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