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今日も忍は柱(ちゅう)を舞う  作者: 司真 緋水銀
〈逸話(エピソード)零:『始まり』〉
3/9

□ 転生くの一伝 其の壱『電柱忍者』



 今日も忍は、(ちゅう)を舞う。


 皆も一度くらいは脳内でやったことあるでごさろう。

 電車や車で窓の外を眺めていると、脳内で忍者がビルや電柱の上を並走していく──『脳内忍者』と呼ばれている現象。

 実は一人のアホ忍者がその姿を見られたことによって根付いた産物だ。情報操作により、ただのよくある空想と片はついたが……そう、実際に〈忍〉は現代社会に未だに存在している。


 これはそんな〈忍〉であるわた……いや、拙者ともう一人のいけ好かない忍者──二人の日常記録。

 血を血で洗う戦いの記録であり、恋物語(ラブコメ)ではない。

 対象が()()()()()()|、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である以上──恋物語(ラブストーリー)になどなる筈が無いでござるのだから。


 反復するが──これは決して恋物語なんかにはならないでござるっ!





──令和五年 夏 〈東京〉──


 元号が変わり、情報社会と化した現代日本にも創作話で見るような裏の人間というのは実在している。

 海外ではスパイやら、他にも公安調査庁やら廻者やら探偵やら……色々と呼び名はあるものの、やはり日本でそういった陰の役割を担うものの人気の呼称は〈忍〉というのが相場であるみたいでござる。

 各国の首相やお偉方を交えた国際会議でも、『ジャパニーズスパイを〈忍〉〈忍者〉以外の呼称で呼ぶことを禁ず』なんてルールが出来てるくらいなのだから忍者が如何に人気であり、憧れられているかは議論を挟む余地もないでござろう。


 古くからそんな〈忍〉は日本の陰の部分を暗躍してきた。呼び名は違えど政府というものが存在し、他人や他国の情報というものを皆が欲し、戦いや争いというものがこの世から無くならない限り……やはりそれらを守り、肩代わりし、手を汚す〈忍〉も同時に無くなりはしないのである。

 メディアなどで取り上げられている〈忍〉のイメージもおおよそ偏ってはおらず、間違ってもいない──それらは〈忍〉のイメージを世間に浸透させ、『いるかもしれない』と刷り込ませる……こちら側による情報操作によるものなので多分に脚色はされているが。


 では──そんな〈忍〉であり、表社会でも生きるわた……拙者の話を僭越(せんえつ)ながらさせていただこう。


 拙者の名前は【風忍拳伐(かざしのなぎり)

 所属する組織──通称〈本店〉と呼ばれる〈忍〉の総本山から与えられた名だ。

 直属の上司である〈忍〉の頭領は四字熟語を少し(もじ)って名付けるのが好きな変な御方で──実績や評価、意味合いを視野に入れつつ〈忍〉に名をつけるのでござる。


 拙者は『最も模範的な忍』と評価され……名誉高い四字熟語──【堅忍不抜(けんにんふばつ)】の称号を与えられた。耐え忍び、コツコツと努力を積み重ねてきたまさに〈忍〉そのものを称する珠玉の御名と言えるでござろう。


 裏社会の人間のハイブリッドとして産まれた拙者は、そんな裏社会の才を〈忍〉達に見初められ、拾われてこれまでを過ごしてきた。幼少の頃からその才を発現させ、裏社会に蔓延(はびこ)る様々な問題を片付けてきたでござる。

 任務達成率は100%──拙者としては与えられた任務を確実に、堅実にやってきただけなのだからそんな数字は興味ないが……評価されるのは素直に嬉しいものでござる。


 そんな拙者だが、忍育成機関を卒業すると同時にある任務が与えられたのである。


──【いずれ巻き起こる大戦のため、一般人として表社会に潜伏せよ】──


 これまでを抹消し、(めい)が下るまで一般人として振る舞い〈秘中の秘〉として戦に参戦せよとのお達し。そうして貰ったのが【風忍拳伐】という名前と身分だ。


 『目立たず生きなければ』──そう捉えた拙者が化けたのは、どこにでもいる量産型の、いわゆるオタクと呼ばれる種族だった。

 当時はそんなオタクが一般社会に台頭してきた時代であったが故に世相をそのまま取り込んだのだ。


 【変化の術】など拙者にはお手の者。

 姿形どこをとってみてもステレオタイプであるオタクへと見事に変貌を遂げ……拙者は一般社会へと紛れ込んだ。


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 それから早や──20年の月日が流れた。


 中年となった拙者は、どこにでもいる弱者中年だと社会に認識させるため表社会のありとあらゆる職を経験した。

 製造業、清掃業、土木建築業、運転手、派遣、警備員。あまりに突出して名を知らしめるのを避けたかったので低賃金で目立たない仕事を転々としていた。

 正直、持ち金は数億はくだらないので(これまでの預貯金)働く必要は全くないのでござるが……自ら創作した物語に自身を従えていたのでござる。


 【風忍拳伐】は施設出身で高校を卒業したのち、職を転々としながら安月給でアパートに住んでいる弱者中年。

 身寄りもなく、交友関係も無く、誰の目から見ても疑う余地すらない底辺──生活保護を受けるほどではないが、ただ生きるだけで精一杯の男。それならば誰にマークされることもない。延滞や滞納もなく借金も勿論ないので変なリストに載ることもない。


 ふふ……まったく自身の計画力、隠密力、判断力というのが我ながら恐ろしい。



 さて──この物語を記録し、語っていく上でもう一人の〈忍〉についても焦点をあてねばなるまい。


 もう一人のそいつの名は【六奏天嘉(むそうてんか)】。

 拙者の同期──そいつも当然〈忍育成機関〉に育てられた〈忍〉だ。同い年であり同期だったため必然と馴染みとはなったのだが……いかんせん、拙者はこいつの事が大層気にいらなかった。


 不誠実で、不真面目で、不埒(ふらち)な上に我が儘で短気で責任感の欠片もない自由人。

 拙者とは丸っきり正反対の男──一言で称すれば『無法』そのものなやつ。

 だが……何故か滅法強く、成績も良く、運も持ち合わせていた。

 奴に与えられた名は……【六奏天嘉】。

〈忍〉の歴史上初めてとなる『天下無双』の称号である(忍とは本来忍ぶ者であり、表立ったそんな称号は忍には相応しくないところも気に食わない)


 そして、拙者の事なぞ気にも留めていない飄々(ひょうひょう)とした感じが余計に敵がい心に拍車をかけていただろうことは想像に難くない。


 とにかく『犬と猿』『龍と虎』『水と油』のように一切相容れない存在である事はわかってもらえたでござろうか。

 元々仲も良くないこともあってか……待機命令を出されてからは一切合切音沙汰もないし、会ってもいないし、風の噂にも聞かなった。

 きっと女の尻を追いかけて刺されて死んだのだろう──などと気にも留めていなかった。


 拙者が女体と化し、あのアホ忍者のところに転がり込むまでは。






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