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ビッグアップルの聖女騎士団  作者: 相羽笑緒
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バークランド星人

「さくら、今日はずいぶん、おとなしいな」

 夕食の時間、緊張してずっと黙ってるわたしに、パパが不思議そうな顔を向けてきた。

「食べる量も少ないわね。どうしちゃったの?」

 ママが心配そうにわたしを見て、

「イザベラちゃん、遠慮せずに食べてね」

 夕食に同席したイザベラに笑顔を向ける。それから、

「そういえば、イザベラちゃんにソックリな子が、ネットで話題になってるけど。これ、イザベラちゃんじゃない?」

 ママは携帯電話を取り出して、この前、イザベラが街中でバークランド星人を倒した時の映像を見せた。

 今よ、とばかりにイザベラが、テーブルの下で足を触れて合図してきた。

「ウンッ」

 わたしは咳払いして、

「そのことで、パパとママに話があるんだけど、ちょっと時間もらってもいいかな?」

 背中の後ろに隠してたタブレットを取り出した。

「どうしたの、改まって」とママ。

「そのことっていうと?」

 パパはわたしとイザベラの顔を交互に見る。

「実はわたし、地球防衛軍の聖女騎士団という組織に所属していて、バークランド星人という宇宙人が地球征服するのを阻止する活動をしているんです。今、ネット上に上がってる動画は、バークランド星人を退治した時の映像なんです」

 イザベラがまずそう言うと、パパとママはポカン顔になる。これは予想通り。そりゃ、わけがわからないよね、こんな話をいきなりされても。

 というわけで、わたしはタブレットを使って、画面上に自作のパワーポイントや聖女騎士団のプロモーション・ビデオを映して、その活動内容や安全性をしっかり説明した。

 その間、黙って聞いていたパパとママに、

「わたしは人類のために役に立ちたい。パパも昔から言ってたよね? 自己中心になるな。他人のことを考えられる人間になれって。だから、わたしは聖女騎士団に入りたい。いいでしょ?」

 懇願した。

 タブレットを見つめたまま、パパとママは沈黙。少し経ってから顔を見合わせて、

「イザベラちゃんのご両親は、このことを知ってるの?」

 ママが訊いた。

「はい。ちゃんと話して承諾をもらってます」

「そう……。宇宙人だなんて、まるでアニメや映画みたいな話で、わたしには何がなんだか」

 決断は任せた、というようにママはパパを見る。

「うーん」

 太い腕を胸の下で組んで天井を見上げるパパの姿を見て、わたしの心臓は高鳴る。次のひと言でわたしの運命は決まる。

 ゆっくり顔を下げたパパは、

「警察が介入するんだろう?」

 わたしを見て、

「だったら、彼らに任せておけばいいじゃないか。未成年の君たちが戦う理由がどこにある?」

 イザベラにも視線を送ってそう言った。

 パパは反対なんだ。確かに警察に任せておけばいい。わたしは反論できなかった。けど、

「わたしたちも地球で生まれ育ったんです。自分たちの手でこの星を守るために役に立ちたい。そのチャンスがあるから、わたしは志願しました」

 イザベラが援護してくれたことで、わたしは勇気が湧いた。

「それに、エルゴはわたしたちの年齢ぐらいの女の子が一番、適応しやすいんだって」

「だからって、さくらがやる必要はないじゃないか」

 パパがそう言うと、

「そうよ」

 ママが加勢した。

「大体、本当に宇宙人なんているの? イザベラちゃんの動画だって、ただ犯罪者と戦ってるようにしか見えないわ」

「騙されてるんじゃないか?」

 パパはそんなことを言い出した。確かに、映像を見る限りではそう思えてしまう。プロモーション・ビデオにも、バークランド星人のあの黒いドロドロの姿は映ってない。

「何とか星人だの何とか騎士団だの。そのマザー・テレーズというひとは、本当に信用できるのか?」

「信用できます」

 イザベラが力強く言う。

「一度、会ってみて」

 わたしがお願いすると、パパはママの顔を見てから、

「ダメだ。たとえ、その話が全部本当でも、さくらをこんな危険な目に遭わせるわけにはいかない」

 断言した。

 やっぱりネックは安全面だ。でもそれに関して、わたしには切り札があった。

「ねえ、パパ。この子に見覚えない?」

 聖女騎士団のプロモーション・ビデオに映るエマの出演シーンを見せて、

「この前、レストランで強盗事件に遭遇したでしょ? あの時の犯人もバークランド星人にカラダを乗っ取られてて、それを退治したのがこの子だったの」

 そう説明した。

「確かにそうね」

 タブレットの画面を見ながらママが頷く。

「それと」

 これに関しては、わたしはあまり言いたくなかった。パパとママにショックを与えることになるから。でも、聖女騎士団入りを納得させるためには仕方がない。

「こっちに引っ越してきた日、わたしひとりでドラッグストアへ行ったでしょ。あの時も、黙ってたけど本当は強盗事件に遭遇して、バークランド星人にカラダを乗っ取られた犯人に銃を突きつけられたの。そこでテレーズと知り合ったんだけど、もしあそこにテレーズがいなかったら、今頃わたしは……」

 そこまで言って、わたしは顔を俯けた。そこですかさずイザベラが、

「でも、アーマースーツがあれば攻撃を防げますし、エルゴで反撃ができます。自分で自分の身が守れるんです。バークランド星人が急増してる今、聖女騎士団に所属していた方が、よっぽど安全だと思います」

 打ち合わせ通りに援護射撃してくれた。

「それは本当なのか!? 襲われたっていうのは」

 たった今わたしが襲われたかのように、いつも冷静なパパがウソみたいに取り乱して、

「どうして、あの時に言わなかったの?」

 ママに責められて、わたしは心が痛んだ。

「心配させたくなくて」

 そう弁解しながらも、どうしてあの時ちゃんと報告しなかったのか、今思えば不思議に思えた。

「テレーズは、わたしはバークランド星人を引き付けやすい体質なのかもしれないって。イザベラが映ってるこの動画、この時もわたしは現場にいたの」

 そう付け足すと、パパとママの顔はさらに青白くなった。

「確かに、引っ越してきて一週間ちょっとで、バークランド星人が出没する場所に三回も居合わせるのは異常だと思います」

 イザベラが追い打ちするように言う。

 沈黙。

 窓の外からサイレンの音が鳴り響いて、パパとママは同時にそっちを見た。お互いの顔を見合って、無言で意思疎通を交わす。

「話はわかった。いや、本当はまだ信じられないけど。宇宙人がこの街に潜んでいるだなんて。でも、実際にパパとママも強盗事件の現場にはいたわけだし。そのエマって子がサーベルを振るう姿も目にした」

 パパはそこで一旦、喋るのを止めてから、

「聖女騎士団に所属するのは許す。でも、宇宙人と戦うのはダメだ。あくまでも身を守るために、そのエルゴやら何やらを使わせてもらう。出動命令は無視すること。これを条件にテレーズさんに話して、それでもいいならそのまま所属すればいい。ということでいいかな?」

 確認のために顔を横に向けた。

「それでいいと思う」

 ママが頷く。

 聖女騎士団には残れる。でも、活動そのものはできない。それじゃあ意味がない。でも、パパとママが心配するのもわかる。本当は退団して欲しいけど、わたしのために譲歩してくれたんだ。その気持ちが伝わってきたから、

「わかった」

 わたしは納得した。

 それでいいの? と問いかけるようにイザベラが視線を向けてきたけど、わたしは頷いて、

「テレーズにはそう話してみる」

 それで話はまとまった。

「最後まで説得しなくてよかったの?」

 地下鉄まで見送りにマンションの外に出ると、イザベラはすぐにそう口にした。

「うん。しょうがないよ。パパとママが心配する気持ちもわかるから。ごめんね、付き合わせちゃって」

「ううん、それは全然構わないけど、ちょっと残念」

「一緒に戦えないけど、トレーニングはできるよ」

「そうだね。ただ、テレーズに話さなきゃね」

 そうだ。もし戦闘しないなら脱退と言われたらどうしよう。それが不安だ。バークランド星人の存在を知った今、エルゴなしでこの街で暮らすなんて怖すぎる。いざとなった時、自分だけじゃなくて、パパとママも守ってあげることができない。

 そんなことを考えてると腕時計が鳴った。

「すぐ近くにバークランド星人がいるみたい」

 先に腕時計の画面を確認したイザベラは、わたしの顔をチラッと見ると、

「行ってくるね」

「うん。頑張って」

「また明日、学校で」

 イザベラはアーマースーツに着替えると、ハドソン川方面へ飛んで行った。

こういう時に限って手柄を立てるチャンスがくるなんて。本音を言えば、イザベラのことが羨ましかった。


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