宇宙防衛軍のテクノロジー
「凄いよ、イザベラ! めちゃくちゃカッコよかった!」
五番街からわたしの家まで移動する間も、部屋に入ってからも、わたしは何回もその言葉を繰り返した。
「ちょっと、恥ずかしいから、もうやめて」
イザベラは照れるけど、わたしは興奮を抑え切れなかった。
「見てよ、これ」
動画投稿サイトには、イザベラとアンナ、それから謎の忍者の三人がバークランド星人を退治する映像がいくつもアップされていて、コメント欄には称賛の言葉が並んでる。
もちろん、世間的にはバークランド星人の存在なんて知られてないから、映像には『狂った乱射グループ犯を美女たちが成敗』とかいったタイトルがつけられてるんだけど。
「いつから聖女騎士団に?」
少しずつ冷静さを取り戻すと、頭の中に色々な疑問が湧いた。
「二週間ぐらい前かな。偶然、強盗事件に遭遇して――」
「テレーズに声をかけられた?」
「そう。さくらも?」
「うん。教会まで行ったんだけど勇気が出なくて、隠し通路の向こうには行かなかった」
「さくらも聖女騎士団に入りなよ」
両肩を掴まれて真正面から見つめられて説得される。
「うん……」
それでも決心がつかない優柔不断なわたし。とりあえず疑問と不安を解消したい。
「エルゴ、だっけ? どういう仕組みなの?」
「それぞれ得意なことを特技にできる。わたしはサッカーを選んだ」
イザベラは、今はパチンコ玉ぐらいの大きさに戻った銀の球を取り出して見せてくれた。
「これを地面に落とすと、ちょうどサッカーボールと同じ大きさになる。それで、これを足に装着した状態で蹴ると、バークランド星人に効果的な攻撃を与えられるようになる」
イザベラの両足首には、ブラジルの国旗と同じ緑、黄、青が配色された金属製のアンクレットのような物が巻かれている。
「それにしても、ボールを蹴る威力、凄くなかった?」
「うん。エルゴは筋力を何倍にも増幅できるの。でも、あまりに上げ過ぎるとカラダが悲鳴を上げちゃうから、わたしは通常の倍ぐらいの力に設定してる。男子のプロサッカー選手と同じぐらいのシュート力じゃないかな」
「それで、バークランド星人は倒せるの?」
いくら強いシュートっていっても、銃や剣で攻撃するのとは違って、殺傷能力はなさそうだけど。
「うん。基本的に攻撃が当たりさえすれば、威力は関係なく倒せる。でも、あまりに遅い攻撃だと避けられちゃうでしょ。だから、わたしはこれからもっと強いシュートを撃てるように、徐々にカラダを慣らしていくつもり」
そういえばさっき、イザベラはサッカーを辞めてから日本の文化ともうひとつ、情熱を注げるものができたって言ってた。それが聖女騎士団の活動だったんだ。
わたしは、イザベラがショットガンで撃たれたことを思い出した。
「お腹、撃たれてたよね?」
今さらながらに心配するけど、ケガをするどころか服が破けたりもしてない。
「エルゴを装着してると全身が薄い防御膜に守られるから、ダメージを防ぐことができるの」
「だから無傷なんだ」
それを聞いて安心した。ケガや死の危険がないなら、聖女騎士団に入るハードルはかなり下がる。
「それからエルゴを装着してると、他の外国語を勝手に翻訳してくれる」
だからさっき、アンナが英語、イザベラはポルトガル語で喋っても、会話が通じてるように見えたのか。
「さくらもメンバーになる気になった?」
「うん。あの忍者にお礼も言いたいし。アジア系のひとかな? もしかして日本人?」
「さあ」
イザベラは首を傾げる。
「初めて会ったし、アンナも知らないって言ってた」
「そうなんだ。加入したばっかりなのかな?」
それにしては身のこなしがサマになってた。特に、相手に向かって一瞬で距離を詰めた時のあの動き。エルゴで筋力を増幅させてるとしても、間合いの取り方は間違いなく武術の経験者に見えた。
イザベラの携帯電話が鳴った。
「テレーズからだ。ちょっとごめん」
電話に出て話を始める。
「わかりました」
イザベラは通話口を手で押さえて、
「これから教会で緊急ミーティングがあるんだけど、さくらも一緒に行く?」
訊いてきた。一瞬迷ったけど、イザベラが一緒なら安心だ。
「うん」
てことで、セント・デシャン教会へ移動。その間、さっきの事件で顔が知られたらしく、イザベラはすれ違うひとたちに写真やサインを求められた。ちょっとした有名人だ。その姿を見て、わたしは羨ましくなった。
「わたしも、あの忍者みたいに今度から顔を隠して活動しようかな」
イザベラは困惑顔を浮かべてる。
「その点、アンナは目立っても気にしないよね。バークランド星人が来る前、観光客から写真を撮られてたし」
「ああ、あの子は女優志望だから、むしろもっと目立ちたがってるよ」
イザベラは苦笑い。
「そうなんだ」
なんて会話をしてるうちにセント・デシャン教会に到着。通りを挟んだ思い出のドラッグストアは、何事もなかったように営業を再開してた。
イザベラに続いて教会の中に入ると、
「お疲れ様です、イザベラさん……あら、あなたは」
出迎えたマリアがわたしを見て驚き、うれしそうに微笑んだ。
「マザー・テレーズの予言が的中しました」
「予言?」
「さくらさんは必ずまた来ると。そう言ってました」
「アハハ」
苦笑い。見抜かれちゃってたか。
「どうぞ。みなさん、もう到着しています」
マリアに案内されてテレーズの部屋へ。そこにテレーズの姿はなかった。
マリアが本棚を動かして隠し通路が現われた。イザベラが一緒にいても、やっぱりドキドキする。
でも、一歩踏み出す勇気が大事。空手でもそうだった。新しい扉を開くため、逃げずにイザベラの後に続いた。
十メートルほど薄暗い通路を歩いて、その先に鉄製の扉。通路の途中でマリアが立ち止まって振り返った。
「このドアはエルゴに反応して開くようになっています。さくらさんはまだ、専用のエルゴを持っていないので、わたしたちに離れないようについて来てください」
「はい」
扉の前にマリアが立つと自動で開いた。その先はこちら側の通路とは対照的に、床から壁、天井にかけて真っ白な照明に包まれて、急に近未来感が増す。その通路も十メートルぐらい続いていて、先に同じように鉄製の扉があった。
真っ白な通路に踏み入った途端、背後で本棚が勝手に動いて出口を塞ぎ、天井からぶら下がった電球が消えて真っ暗になった。
マリアが先にある鉄製のドアの前に立つ。その先に道はなく、エレベーターになってた。
「どうぞ、中に入って下さい」
エレベーターのカゴの中には階数ボタンや表示はなかった。何もない、ただの四角い箱。わたしが最後に乗り込むとドアが閉じた。地下に降りてるんだと思うけど、振動がまったくなくて、静かすぎるから移動してる実感がわかない。
数秒後、いきなりドアが開いたかと思うと、バスケットコート二面分ほどの真っ白な部屋の真ん中に真っ白な円卓が置かれていて、テレーズとアンナ、ゴスロリ姿のエマが椅子に座ってた。あの忍者はいない。
部屋自体も円形になってて、壁にはドアがいくつも並んでる。
「いらっしゃい」
テレーズが立ち上がって笑顔で迎えてくれた。
「きっとまた、顔を見せてくれると思ってたわ。ここは聖女騎士団のミーティング・ルーム。座って頂戴」
椅子に座ると、テレーズはみんなにわたしのことを紹介してくれた。
「やっほぉ! また会ったね」
アンナが陽気に手を振る。
「さくらはこの前、エマがレストランでバークランド星人を退治する姿を見たそうよ」
テレーズに話を振られて、エマは何も言わずにフッと微笑む。近くで見れば見るほど、人形みたいに整った無機質な顔をしてる。その割にビーフジャーキーなんて、見た目とは不似合いなものを食べてるけど。
「あの、忍者の格好をしたひとは? わたし、助けてもらったお礼が言いたくて」
テレーズに訊くと、
「あの子は来ないわ。さくらがお礼を言っていたと伝えておくわね」
ということだった。
「日本人ですか?」
「そうね」
テレーズは意味深に微笑む。何を考えてるんだろ? ちょっと不気味だ。
「それよりさくら、ここに来たということは、聖女騎士団に正式に入団すると決めたってことでいいわね?」
みんなの視線がわたしに集まる。改めて確認されると緊張した。でも、ここまで来て拒否するなんてありえない気もする。
「はい」
頷くと、
「では、後であなたにもエルゴを支給するわね。その前に、今日はちょっと話があってみんなを呼んだの」
テレーズが全員の顔を見回すと、部屋の電気が消えて真っ暗になった。
と思ったら、すぐに円卓の真ん中が光り初めて、マンハッタン島の地図が立体的に浮かび上がった。大人の会議に参加したみたいで密かにテンションが上がる。
「バークランド星人がハドソン川に着水したのが約三ヶ月前」
テレーズがそう説明すると、地図の左側に川が流れる映像が浮かんで、マンハッタン島の中央あたりの水域に赤い点が表示された。それがバークランド星人を示してるらしい。
「それから細胞分裂を繰り返して、アップタウンの川岸から数を増やしていった」
マンハッタン島の上部の川岸に、赤い点が徐々に増えていく。
「わたしが地球に到着したのが二ヶ月半前。それからすぐ聖女騎士団を発足させて、バークランド星人の増殖を抑えてきた」
地図上では赤い点が増えたり消えたりを繰り返しつつ、ミッドタウンへと活動の範囲を広げていることがわかる。
「ところがここ一週間あまり、バークランド星人の数が爆発的に増えてる」
テレーズの言葉通り、マンハッタン島全域を埋め尽くすほどに赤い点が急増した。ここ一週間あまりって、よりによってそんな時期にわたしは引っ越してきたのか。
「どうして、そんなに急に増えだしたの?」
みんなを代表してアンナが質問すると、
「地球の環境に順応してきたせいね。これまでは三日に一回ほどだったのが、徐々に早いペースで分裂するようになってきてる」
テレーズは深刻そうな表情を浮かべた。
「もっと怖いのは、バークランド星人が宿主のカラダを完全に乗っ取って、本来の姿を取り戻してしまうこと」
「本来の姿?」
わたしはつい口に出した。
「あの黒いドロドロの液体みたいなのが、本来の姿なんじゃないんですか?」
「あれは、地球の環境や地球人の体質を探るため、カラダを防御膜で覆った仮の姿」
「本来の姿って、どんなですか?」
イザベラの顔には緊張の色が浮かんでる。他のみんなもそうだった。
「今、見せるわね」
テレーズがそう言った直後、マンハッタン島の地図の代わりに、全身が茶色で手足が生えて二足歩行になった、ゴキブリを巨大化したようなグロテスクな生物の映像が空中に浮かび上がった。
エマがボソッと、
「キモッ」
と呟きつつ、平気な顔をしてビーフジャーキーを齧る。
「この姿になると力が増すけど、さらに百八十万ユニのルーメンを浴びると、手が付けられなくなるわね」
え? 百八十万の何が何だって?
「百八十万ユニのルーメン」
わたしの心の声を聞いたテレーズが答える。
「バークランド星人の成長を急速に促す物質のことよ」
「よくわからないけど、それを浴びたらどうなるんですか?」
「合体して巨大化する」
「は、え!?」
これにはわたしだけじゃなくて、エマでさえもビーフジャーキーを齧るのをやめて驚いた。
「巨大化って、どのぐらいの大きさですか?」
わたしが訊くと、
「その時のバークランド星人の数によるわね」
テレーズは肩を竦める。
「浴びるって何を? 地球上にある物質ですか?」
イザベラの質問に答えたのはマリアだった。
「地球上には存在しません。ただ、一年に一度だけ、宇宙から降り注ぎます」
一年に一度、宇宙から? わたしたちは顔を見合わせる。
「スーパームーンの時に、百八十万ユニのルーメンが地球に到達します」
「スーパームーン?」
マリアの顔を見つめながら首を傾げるわたし。
「簡単に言えば、地球に最も接近して大きく見える満月のことよ」
テレーズはそう説明すると、
「そのスーパームーンって、次はいつなの?」
アンナの質問に対して、
「二週間後。さらに細かく言えば、その日の十八時二十三分に月は地球に最も接近するわ」
と答えた。そして、
「この事態を鑑みて、これからはニューヨーク市警とこれまで以上に密な関係を築くことにしたわ。彼らにもエルゴを貸し与えることにした」
ということだった。
「ただ、エルゴに適応するのは女性限定で、しかも年齢が上がれば上がるほど適応が難しくなっていくことがわかってる」
「だから、聖女騎士団の人数をもっと増やそうと思ってるんです」
マリアがテレーズの言葉を引き継いだ。
「そのために、インターネットなどを利用してプロモーション活動もしていこうと思ってます」
「それって、顔出ししなきゃいけないってことですか?」
だとしたら、聖女騎士団に入ったことが親にバレちゃう。わたしは焦って訊いた。
「そのことも含めて、新しくコスチュームを開発してもらった。マリア」
やってごらん、というようにテレーズが促すと、マリアは頷いて立ち上がり、修道服の左の袖をまくった。手首にタッチパネル式の腕時計が巻かれている。
「これは、一見すると何の変哲もない腕時計なのですが、ここを押すと一瞬で変身できるんです。ちょっとやって見せますね」
みんなの注目が集まる中、マリアが腕時計の画面に触れると一瞬で、西洋の甲冑をカラダの細部にジャストフィットさせたような、光沢感のある真っ赤な鎧に頭から爪先まで包まれた。
「わぁっ!」
わたしたちは一斉に驚きの声を上げて、
「カッコいい!」
「最高にクール」
笑顔になった。
「これを着てればどんな気候にも対応できるし」
と言いながらマリアが腕時計を操作すると、
「声も自由に変えられる」
男性のような野太い声に変化した。これなら身バレする心配もない。
「それから、力を増すバークランド星人に対抗するため、全身の筋力の増強や空飛ぶ機能も備えてる。名づけてアーマースーツよ」
テレーズが補足すると、
「わたし、それ欲しいです」
イザベラが手を挙げた。
「わたしも!」
と便乗する。
自己主張の強い服を着てるアンナとエマは、ビジュアルを気にして、どうするか迷ってるみたいだ。
「その腕時計には、自分のバイタルデータが表示される。それから、お互いの位置情報がわかったり、連絡が取り合える機能もついてるから、ひとまず全員に支給するわ。マリアから受け取って頂戴。今日の話は以上。さくらには先にエルゴをわたすから、こっちへいらっしゃい」
テレーズが手招きして壁のドアへ歩いて行く。
「ここで待ってるね」
イザベラに言われ、わたしはテレーズの後について行った。
「こっちはトレーニング・ルーム。遅れずについて来て」
テレーズが前に立つとドアが自動で開いた。
その部屋はミーティング・ルームの倍以上の広さがあって、床にはレスリングの試合場みたいな円形のマークが大きく描かれてる。壁際には銃や剣だけじゃなくて、見たことのない武器、サンドバッグやウェイト・トレーニング用の器具がずらりと並んでる。
「まずは、あなたのカラダのデータを測定させてもらうわね」
テレーズはそう言うと部屋の真ん中を突っ切って、奥にあるドアの方へ歩いて行く。
そのドアの向こうは小部屋になっていて、ひとがひとり立って入れるぐらいの大きさの、透明なガラスに囲まれたカプセルが置いてあるだけだった。
「この中に入って頂戴」
テレーズがそのカプセルのドアを開く。ちょっと怪しげだ。
「大丈夫。すぐに終わるわ」
信じて入ってみた。
テレーズがドアを閉めると、静寂に包まれたカプセルの中にひとりきり。何が起こるのかドキドキして待ってたけど、
「はい、終わり」
テレーズはすぐにドアを開いた。
「もう?」
「ええ。あなたのカラダに関する全データを採取したわ。ほら、これ」
テレーズがカプセルの横にあるタッチパネルを操作すると、液晶画面にわたしの身長や体重、カラダの隅々のサイズ、これまでに罹った病気やケガまで、ありとあらゆるデータが表示された。丸裸にされたみたいで恥ずかしい。
「それで、すぐにあなたに合ったエルゴをつくるけど、武器を使うか、それとも空手を使うか、どれにする?」
「空手」
即答するとテレーズは笑った。
「隣の部屋へ戻って、少しだけ待ってて頂戴」
そう言われてトレーニング・ルームへ戻り、久しぶりにサンドバックに突きと蹴りをお見舞いしてみた。パンッパンッと小気味いい音が響いて楽しくなってくる。
「お待たせ」
数分も待たずに戻って来たテレーズは、銀色の輪っかを四つ手にしていた。
「それは?」
「手首と足首に装着してみて」
受け取ると、その輪っかはゴムのように伸縮自在。小さな液晶画面とボタンがふたつ付いてる。
「これは何ですか?」
「筋力をアップダウンさせるボタンよ。まあ、アーマースーツを着れば、全身の筋力をコントロールできるようになるから、必要なくなるかもしれないけど」
そういえば、イザベラのエルゴも筋力を増幅できるって言ってたっけ。
わたしはとりあえず、言われるまま手首と足首にエルゴを装着してみた。すぐに肌に馴染んで違和感がまったくない。
「試しに筋力を一、五倍に設定してみて頂戴」
言われた通りにすると、
「このサンドバッグの表面には、バークランド星人の細胞をコーティングしてある。だからエルゴも作動するわ。グローブを付けて叩いてみて」
近くに置いてあったオープンフィンガー・グローブを装着してから、
「押忍!」
気合を入れて正拳突きを繰り出した。自分の腕じゃないみたいに素早く動いて、
バンッ!
びっくりした。パパが正拳突きをする時と同じような、サンドバッグが破裂するんじゃないかってぐらい大きな打撃音が鳴った。ただ、
「痛っ!」
グローブを付けてるのに拳に激痛が走った。
「増幅した力にカラダが耐えられないから、パワーを調整する時には注意が必要なの」
イザベラもそんなこと言ってた。一、五倍増しにしただけでこの衝撃。確かにこれ、調子に乗って二倍、三倍なんかにしちゃったら、手が骨折しちゃうかもしれない。
「ただね、アーマースーツを着用してれば、全身の筋力がアップするから、その衝撃にも耐えられると思うわ」
そういうことなら安心だ。
「あっちへ戻りましょうか」
テレーズの後に続いてミーティング・ルームに入ると、マリア以外はみんなアーマースーツを着てた。赤い甲冑姿が三人並ぶと迫力がある。ただ、誰が誰だか見分けがつかない。
「イザベラ?」
呼びかけると、
「ここよ」
ひとりが手を振り、腕時計を操作すると頭の部分だけアーマーが消えて、素顔が現われた。
「カラダの各部分の装着と脱着が自由にできるのよ」
マリアが説明しながら、わたし用の腕時計を手渡してくれた。
早速、それを腕に装着して、マリアに操作方法を教わって、アーマースーツに着替えてみる。
目の前に無数の電子線のようなものが浮かび上がったかと思うと、次の瞬間には全身真っ赤な姿に変身してた。でも、何かが肌に触れてる感覚はない。むしろ、それまで着てた服の質感が消えて、目を閉じると裸でいるような気さえする。
それと、見た目的にはフルフェイスのヘルメットをかぶってるみたいだけど、視野は普段とまったく変わらない。それでていてクリアに、みんなの動きがいつも以上に細かく見えるような気がする。
それをマリアに伝えると、
「そのヘルメットをかぶってる状態だと、視力やピント調節、動体視力などがアップされるんです」
ということだった。
スーツの中は快適な温湿度に自動的に調節されて心地よかった。
それからマリアが色々と操作方法を教えてくれたけど、身体能力や筋力がアップできるから、トップアスリートどころか人間離れした動きも自由自在で楽しい。
ただ、空飛ぶ機能に関しては、腕と背中にある小さなパック、足の裏からのジェット噴射で飛ぶようになってるんだけど、バランスを取るのが難しい。最初に試した時は勢いよく飛び上がって天井と壁に頭をぶつけちゃった。アーマースーツに守られてなかったら大ケガしてたかも。
「というわけで各自スーツを着こなして、自分の武器を最大限に活かせる練習をしておいて頂戴。トレーニング・ルームはいつでも使っていいから。それとこれからは、バークランド星人が出没したら、その腕時計に報せがくるようになってるわ。なるべく一番近くにいるひとが退治しに行くこと。いいわね?」
テレーズが全員の顔を見回す。
「はい!」
元気のいい返事がミーティング・ルームに響いて解散になった。
「イザベラ、ちょっとトレーニングしていかない?」
「いいよ」
わたしはアーマースーツを着て動き回りたくて仕方なかった。
イザベラと一緒にトレーニング・ルームへ行こうとしたら、
「あ、そうだ、さくらに言い忘れてた」
テレーズに呼び止められた。
「何ですか?」
「後で銀行の口座番号を教えて頂戴」
「銀行の?」
何だか怪しい気がしてきた。
「何でですか?」
「給料の振り込みをするからだよ」
「え?」
「バークランド星人を一体倒すごとに百ドルの報酬が貰えるんだよ」
イザベラが微笑む。
「そうだったの!?」
完全にボランティアみたいなものだと思ってた。百ドルっていったら、今日のレートで換算すると一万千円ぐらいだ。
「ってことは、イザベラはさっき……」
アンナやあの忍者と一緒に、かなりの数のバークランド星人を倒してた。
「六体倒したから、六万六千円が明日振り込まれる」
「凄い。あの短時間でそんなに稼いだんだ」
しかも翌日払いなんて最高!
「それだけ危険が伴うからね。稼ぎたかったら誰よりも早くバークランド星人の出没スポットへ行って倒すことだよ」
テレーズに言われて、わたしのモチベーションは上がる。
その後、イザベラはサッカーボールを使って、わたしはサンドバッグを相手に汗を流した。
って言っても、アーマースーツが自動で体温調節してくれるから、いくら動いても汗はかかないんだけど、
おまけにカラダの疲労感もない。どんな仕組みになってるのかわからないけど、凄いスーツだ。宇宙防衛軍のテクノロジーは地球の数歩先を進んでる。
「このスーツがスポーツ界に普及したら、もっと迫力ある競技が生まれるだろうね」
なんてイザベラと話しながら、その日は家に帰った。
「さくら、これって友達のイザベラちゃんじゃない?」
玄関のドアを開けると、いきなりママが携帯電話の画面を見せてきた。そこには、イザベラがバークランド星人を倒す姿が映った動画が流れてた。ネット上で拡散してる映像だ。ヤバッ。もうママにまで知られちゃってるよ。どうしよう……。
「ん? 確かに似てるね。うーん、でも、どうなんだろう? 別人にも見えるし」
なんて誤魔化して自分の部屋に入った。
聖女騎士団に入ったこと、やっぱりパパとママにも伝えないといけないのかな? どうしよう、絶対反対されるに決まってる。でも、せっかく楽しそうなことを見つけたから、活動を続けていきたい。
とりあえず、バークランド星人を一体でも倒してみたい。パパとママに報告するのはそれからにしよう。
いつもの癖で面倒なことは後回しにすることに決めた。