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どれだけ時が過ぎ去ろうとも罪は消えない

 自分の愛娘が事件に巻き込まれた事により、怒り狂ったロウ伯爵は、アレクシス率いる近衛騎士団との協力のもと、すぐに秘密裏に王を拘束していた。


 そこまでの段取りを整えてもらった上で、新国王となる僕が最初にしなければならない事は、罪人の処罰だった。


「アデル。いえ、アデライン・スカーレット侯爵令嬢と、お呼びした方が?」


 薄汚れた服を着て、罪人として拘束され、床に跪かされているというのに優雅に微笑むアデルの姿は、まさに貴族の姿そのものだった。


「ふふっ。もうすでにお分かりってことね。貴方の父親が犯した罪を。ニコラス王太子殿下。もう、国王陛下かしら?」


 目の前にいる女は、かつて王国の至宝とまで言われたスカーレット侯爵家の令嬢で、王であった僕の父親の婚約者だった。


 王国を揺るがす出来事があったのは、およそ33年前。


 目の前にいる女性、アデラインが生まれる前から決められていた婚約は、父が彼女を裏切り、婚約破棄を行った上で、娼館に売り飛ばすという最悪な結末を辿った。


 不運が重なり、十代のうちに王となった父は、在学中に知り合った子爵令嬢と共謀し、アデラインとその実家の侯爵家に無実の罪を擦りつけて没落させた。


 ひと思いに彼女を他の家族とともに処刑していた方がまだマシだっただろうに、よりにもよって、処刑したと見せかけて、彼女だけを秘密裏に娼館に売り飛ばしたのだ。


 交際していた子爵家の女の、たっての希望だったとか。


 父は、誰が見てもクズで、そして王妃となった子爵家出身の女も同様だった。


 真実の愛とやらに酔いしれていた二人は、結局、わずか一年で冷え切った関係となり、それぞれがそれぞれに愛人を囲い、子供もできないまま王妃は、その行いに相応しい惨たらしい最期を迎えていた。


 それから、新たな妃を娶ったにも関わらず、王には子供ができず、スカーレット侯爵家の呪いだと噂されたほどで、今では誰もあの時の事を口にしなくなった。


 王家に子供が生まれたのは、スカーレット一族が没落した十数年後、一夜の気紛れで犯された下級メイドからだった。


 その女性が、僕の母であった。


「アデライン嬢。貴女の怨恨は晴らされず、痛みや苦しみが癒される日がこないことは理解している。父は、もうすでに玉座から引きずり落とされている。()()ですぐに逝去してもらうつもりだ。貴女を陥れた前王妃は、何の因果か、子供も生まれずにすでにこの世を去っている。二人を高貴な者として埋葬する事はしない」


 僕の言葉に、アデルは微笑みを絶やさない。


「貴方は、あの人が手をつけたメイドから生まれた王子だそうね。まぁ、別にそれはどうでもいいけど。ねぇ。貴方が少しでも私に同情してくださっているのなら、貴方のお父様の口の中に、私の手から直接毒を飲ませてあげられないかしら?」


「その直後に、貴女も自ら服毒するのなら許可しよう」


「ふふっ。あの人の骸の上に、私の骸が重ねられるのね。なんて素敵なこと」


 彼女の本心はどこにあるのか、アデラインはうっとりとした顔を見せている。


「最期に、貴女の御子息に伝える事はあるか?」


 どこか、人を小馬鹿にした態度を終始崩さなかったのに、僕のその言葉で、態度に変化を見せたのは意外だった。


「私に、息子などいない。だから、残す言葉などないわ」


 それはどんな意図で放った言葉なのか。


 その言葉を言った瞬間だけはなんの感情も見せずに、でも、目を細め、どこか遠くを見ているようにも感じられた。






 父の前にアデラインを連れて行ったのは、それからすぐの事だった。


 王の寝室であり、まだ主である父はそこで幽閉されている。


 アデラインを見るなり、父はその人が誰なのかすぐにわかったようだった。


 汗を滲ませ、顔を歪ませ、恐怖心を覗かせて彼女を見ていた。


「ご無沙汰しております、陛下」


「貴様、30年以上も経って、今更、余の前に姿を見せるとは!」


「たかだか30年。時間が罪を消し去るわけではありませんよ」


 二人の態度は対象的だった。


 父は、一人の女性の前で、怯え、無様な態度を示し続ける。


「あの時、私はまだたったの15歳でした。謂れのない罪を着せられ、謀反を起こしたと実家の侯爵家を取り潰され、それも貴方が望んだ女性と添い遂げたいがために。あれから、私がどれほどの地獄を味わったかご存知ですか?わかっているから、私だけは殺さずに、娼館に売り渡したのですよね?私が、貴方に何をしたでしょう。それほどまでに恨みを買うようなことをしたでしょうか?ただ、婚約者の義務を馬鹿正直に努めていただけというのに」


 アデルは淡々と言葉を紡いでいく。


「幼い頃から、貴方の事をお慕いしておりました」


 僕からアデルに、毒の入った小瓶が静かに手渡される。


「さぁ、一緒に死にましょう?最初で最後の貴方との触れ合いが、罪を突きつけられる場になるだなんて、私達には相応しい末路でしょう?」


「よ、よせ、やめろ。アデライン、近付くな、この売女が!ニコラス、貴様、誰のおかげで王族になれたと思っている!!」


「ええ、貴方のおかげですね。人生を狂わされ、僕を見るたびに発狂していた母の無念は、これで晴れることでしょう」


 その言葉を合図に、アデラインは、二人分の毒を口に含むと、直後に父に接吻を施していた。


 一人の男の、もがき苦しむ呻き声がしばらく室内に響き、床に転げ回るそんな男の姿を、愛しげに見つめ続ける女。


 自身もまた、耐え難い苦痛に襲われているはずなのに、膝をついて父の末路を、吐血しながらも、微笑みすら浮かべて見つめ続けていた。


 やがて、二つの動かない骸が床に並べられる。


 何の感情も浮かんでこない。


 過去の負債に動かす感情があるくらいなら、もっと別の所に心を寄せるべきだ。


 今頃は、逃亡したザハールをアレクシス自らが始末している頃だ。


 あの男の首を持ち帰る事で、ハーデン侯爵家は少しの領地を手放す事と、莫大な慰謝料を支払う事で、取り潰しは免れることになる。


 これで腐敗した王政に一つの区切りがつき、新たな時代の幕開けとなればいいと、切に願い、同時にそれは僕の決意となっていた。












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[一言] 最後まで本心はわからずじまいか
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