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手紙を託し

 手綱を操り、領地の屋敷へと急いでいた。


 馬に乗るのは好きだ。


 愛馬のフィオナとなら、どこまでも駆けていける。


 艶々とした真っ黒い毛並みの美馬さんで、ずっと私と過ごしてきた。


 そんなフィオナと一体となって、風と風の隙間を通り抜けていた。


 結婚証明書に署名する為に教会へ向かっていた時も、フィオナと一緒だった。


 領地から王都へと急いだけど、結局間に合わず、アレクセイ様に無事に帰ってきてほしいと、ただ一言を伝えることができなかった。




 重婚は、貴族平民問わず、認められていない。


 だとすると、凱旋した後にアレクセイ様はすぐにでも離婚を考えるはずだ。


 白い結婚が一年続けば、結婚自体がなかったことにはできる。


 伯爵家の屋敷で出迎えた私の顔を見て、アレクセイ様は何を思うのか。


 お互いに気不味い思いをするくらいなら、このまま顔を合わせずに別れるべきなのかもしれない。


 私は、パッとしない容姿をしている。


 良く言えば、平凡で気疲れしないのだろうけど、悪く言えば、華がなく、ドレスを着たところで場を和ますことなどできない。


 だから、自分に自信がない。


 正確には、男性に好かれる自信がない。


 伯爵家を継ぐ為にお婿さんに来ていただいた長子であるお姉様や、お父様の部下に嫁いだ次女であるお姉様は、お母様に似て綺麗な金髪に青い瞳をお持ちだ。


 お父様のことは尊敬しているけど、お父様に似た暗い髪に黒い瞳は地味でどうしようもない。


 こんな私だから、迷惑をかけてしまうと悩みながらも、旦那様に勇気を出して一度だけ送った手紙には何の返信もなかったし、同じく旦那様からも何の便りもなかった。


 命をかけた戦場にいる身なのだからそんな暇はないのだと自分に言い聞かせて、公式にもたらされる情報に一喜一憂したものだ。




「おかえりなさいませ、お嬢様!」


 伯爵家に帰れば、私はまだお嬢様扱いだ。


「ごめんなさい、ジェシー。またすぐに出なければならないから、お姉様にはそう伝えてくれる?」


 出迎えてくれた侍女のジェシーにはとても残念そうな顔をされたけど、するべき事をする為に、自分の部屋へ向かう。


 離婚に同意する旨の手紙を書き、署名を済ませた結婚無効の届け出を、軍事顧問をしているお父様経由でアレクセイ様に届けてほしいとジェシーに頼んだ。


 結婚した当時、指輪を用意する時間もなかったから、他に置いてくるものはない。


 この三年間、仕事の為に屋敷を留守がちだったから、他の使用人達からは特に何も言われなかった。


 これで、アレクセイ様は自由の身となり、その功績によってご自分が本当に愛する人と結婚するでしょう。


 どなたとも再婚できる地位を得た英雄なのですから。


 あの時の飯炊係のことなどすぐに忘れるでしょうし、私の存在などそもそも無いものと思っていらっしゃるのだから。


 美人でもない、何の取り柄もない妻のことなど思い出すこともないでしょう。


 紙切れ一枚で、出迎えも労いもしない薄情な女だと思われるだろうけど、アレクセイ様の顔を見るといろんな感情を隠せそうにないから、絶対に会いたくはなかった。














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