逆恨み
「ハーデン侯爵領の一部の道を、ハーデン家の者が意図的に破壊して通行を妨害したのは分かっている」
「ハーデン家…………」
置物のように気配を消して立っていたアレクシス・ハーデン様を、思いっきり見上げてしまったのは仕方がない事だ。
金髪碧眼であってもアレクセイ様によく似たお顔が、苦いものを食べさせられたように顰められている。
「恥ずかしい限りだ」
私の視線に気づいて、俯いて、深い深いため息を吐いている。
「あれが我が父など、情けない」
つまり、殿下の護衛騎士さんは、物資補給を妨害した犯人の息子さんだった?
「何故……そんな事を……?」
「私的な理由ってとこかなぁ」
「父は、武器商人でもあり、大きな声では言えないが、戦争が起きることを歓迎していたし、長引いてほしくもあった。また、別の理由もあるようだ」
そこは不快な思いは隠せない。
戦争を長引かせる為に、補給を妨害した可能性があるという事か。
「ハーデン卿にも、難局に家臣の一人も制御できない父上にも、そろそろ御退場願おうと思っている」
さらっと付け足すように言った殿下の言葉を聞き流せなかった。
あれっ、わたし、聞いたらいけない事を聞いてない?
「ああ、ロウ伯爵は私側の人間だから大丈夫だよ。それから、アレクシスも」
最悪、アレクシス様は家が取り潰されるかもしれないのに、それは構わないのかな。
「君にお願いしたいことは、団長とはまだ離婚しないでくれって事だ」
まさか殿下からそんな事を頼まれるとは思わなかったけど、まだ、という事は、いずれはいいって事ではある。
「ああ、うん。女性の人生を政治でこれ以上振り回すのもね……でも、戦争の英雄を使い捨てのように丸裸で放り出したくもないし、あと、ちょっとだけ個人的に同情しているんだ。ごめんね?」
殿下は、アレクセイ様の味方のようだ。
「その事は、父とも相談したいと思っています。たとえ私達が離婚したのだとしても、父はアレクセイ様を見捨てません」
お父様は今、何処かへと調査で赴いているから、会うタイミングを逃してしまっているのではあるけど。
その調査は、この件と無関係ではないのかもしれない。
「リリアーヌさん」
「はい」
アレクシス様が、再び声をかけてきた。
「公国に大量の砂糖を転売していたのも我が父だ。損害を被り、君に逆恨みを抱く可能性がある」
ええー……
そして怖い事を言われてしまった。
脅されているというよりは、案じてくれている様子だ。
「姑息な真似でしか商売が出来ない男なんだ。我が父は」
嫌悪を示すように仰られて、私のお父様は立派な方で良かったと、しみじみと思った。
「ご忠告、ありがとうございます。そろそろ私は退席しても?」
要点は、アレクセイ様としばらく離婚しないで欲しいことと、ハーデン侯爵家に注意しなければならないってことだ。
高位貴族の問題ではあっても、お父様も殿下も動いていることだから、いずれは解決するのだろう。
これで話は終わりなのかなと思って、席を立とうとした。
「君の護衛にダン卿を呼んでいるけど、“ひっそりと見守るので、気にせずお帰りください”だそうだ」
アレクセイ様じゃないのが安心したような、残念なような。
でも、エクトルさんなら、誰よりも信頼できる騎士だ。
「それでは、失礼させていただきますね」
「うん。時間を取らせて悪かったね。話を聞いてくれてありがとう。君のことは気に入っているよ。僕達が結婚してからもレジーナの専属侍女で城に入ってくれたら嬉しいけど」
「それは、レジーナ様が望めばですが」
光栄なことに、御見送りをして下さった殿下にご挨拶をすませ、エクトルさんの気配を感じたところで王宮を後にしていた。




