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12/23

初めての贈り物

 胸もお腹もいっぱいになって、食後のお茶を飲み干して、ホッとひと息つく。


「伯爵家へ、お戻りになる予定はありますか?」


「いえ。レジーナお嬢様の婚約式が控えているので、まだ戻るつもりはありません」


 社交界デビューを無事に終えることができたから決まったことだけど、レジーナ様は、先程のニコラス王太子殿下と婚約する。


 本来なら、レジーナ様が12歳の時に決まるはずの縁談だったけど、誘拐事件があって保留になっていたらしい。


「レジーナ様は不安感が根強くあって、節目節目で私を必要としてくれますので、できるかぎり力になってあげたいのです」


 でも、初舞台を乗り切ったことと、仮面舞踏会での様子を見る限りでは克服されたように思える。


「お嬢様がフルーフ公爵家でお勤めの分にはいいのですが、私は貴女が心配で」


「心配とは?」


「今は、侯爵家に注意して欲しいとしか……自分だけが関係あるのだとばかり思っていました……」


 アレクセイ様は歯切れが悪く、明らかに何かを言い淀んでいる。


 侯爵家と言われれば、真っ先に先程お会いしたばかりのアレクシス・ハーデン様を思い浮かべてしまうけど、ダニエラ商会でアレクセイ様が緊張を表していたことに関係があるのかな。


 疑問ばかりが生まれてくる。


「まだ調査段階で、詳細をお伝えすることができません」


「それは高位貴族が絡んでいるからでしょうか?」


 思ったよりも、私が知らない何か深い事情がありそうだ。


「お嬢様が、まさかお一人でこんな所まで遠乗りされてくるとは思いませんでした。今度からは誰かを伴ってください。お願いします」


 それで慌てて追いかけてきたのだという風に聞こえた。


「そう言えば忘れていましたが、他の騎士さん達は大丈夫なのですか?」


「エクトルに任せています。全員今日は非番で、馬の世話の為に出てきていたので」


 あの女性騎士が頭をよぎったけど、あの時はアレクセイ様は何の興味も示さなかったので、忘れることにする。


「アレクセイ様、そろそろ出ましょうか」


 もう、レストランに留まる理由はない。


 思いがけず始まったアレクセイ様との初めてのお食事会は、わだかまりが小さくなったと思えば、新たな悩ましい問題が出てしまったけど、嬉しい気持ちがあったのも本当だった。


「お嬢様。少し、町を歩きませんか?」


 これでアレクセイ様と過ごす時間もお終いかと思えば、外に出た所で嬉しいお誘いを受けていた。


「では、はい。あと少しだけ」


 アレクセイ様と二人で、煉瓦で舗装された茶色の道を並んで歩き出す。


 レストランは町の中心部の大通り沿いにあったので、その周辺には多くのお店が集まっている。


 何を見るともなく視線を移すと、様々なお店が視界に映る。


「少しだけここでお待ちください」


 その中の一つ、通りかかった花屋の前で立ち止まると、アレクセイ様が断りを入れて中へと入っていき、そんなに時間がかからずに小さな花束を持って出てきた。


「これを貴女に贈らせてください。申し訳ありません。本当は、もっと大きなものをお渡ししたいのですが、お嬢様は今日は愛馬に乗ってお帰りになるでしょうから」


「ありがとうございます。とっても嬉しいです」


 まさかアレクセイ様がこんな事をしてくれるとは思わず、素直にお礼を伝えてそれを受け取った。


 ピンクと黄色の小さな花を中心に作られたミニブーケは、爽やかな香りも楽しめる。


「ここには多くの店があります。何か欲しいものはありますか?今まで貴女に何も贈ったことがないので」


「たった今、このお花をいただいたばかりですよ」


 お花の香りを堪能していると、アレクセイ様の方がそわそわした様子で辺りを見回している。


「まだ小さな花束一つです。身に付ける物などはいかがですか?」


 身に付ける物となると、指輪やネックレスなどの装飾品だけど、今はまだアレクセイ様からそれらの物をいただこうとは思わない。


 でも、せっかくの申し出だったので、


「ではリンゴを」


「リンゴ?」


「たくさん走ってくれたフィオナにあげたいので」


 そう答えると、とてもとても残念そうなお顔をされたアレクセイ様だったけど、


「わかりました。お嬢様とフィオナに満足いただけるリンゴを探します」


 すぐに真剣な表情で、通りにある露天やお店で品定めを始めていた。


 アレクセイ様は、引き受けたことは何でも全力でされる。


 なので、アレクセイ様が選んでくれた真っ赤なリンゴを、フィオナはとても美味しそうに食べてくれた。


 フィオナが嬉しそうだから、私も嬉しい。


「では、帰りましょうか」


「はい」


 このまま公爵家の屋敷まで送ってくださるそうで、それぞれに私達を乗せた二頭の馬が並走して、オレンジ色の陽が差す街道を戻って行った。










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