呪いのダイヤ
がたん。
窓が開く音で陽子は目覚めた。暗がりに誰かいる。
外を複数のドーベルマンが吠えたてている声。
「あなた、誰?」
どきどきいう心臓。布団の端をぎゅっと握ってやっと声が出た。
「これをー、預かって欲しい」
青年の声。夜の闇に煌めくダイヤのネックレス。どさり、と置く音。
がたん。
青年は外へ走り出た。犬たちの執拗な追跡から逃れられるとは思えなかった。
陽子は部屋の明かりをつけた。
7つのダイヤがしつらえられたずっしりとしたネックレス。本物だ。凝った装飾は気品を感じさせる。
「こんなもの、どうしたらいいの」
陽子は途方に暮れた。
翌日。
陽子は叔父にネックレスを見せて、昨夜の出来事を話した。
これだけの逸品だから、きっといわくつきだと、調べてみると、美術館から盗まれたものだとわかった。
「朝ごはんできてますよ」
ドアを開けて陽子のいとこの里香が部屋に入ってきた。
里香は美人で、みんなからチヤホヤされて育った。
この時、ダイヤのネックレスに目を奪われた。
「それ、つけてみたい!」
「だめだ。盗品で、いずれ返さなきゃならん」
叔父はそっけなく言った。
薄暗いダンスホール。昔からの建物だから、豪奢なシャンデリアがかけられ、鏡がいくつも取り巻いている。
「ね、里香さん。それ、返してください」
「やあよ。あなたのでもないんでしょ?ちょっとくらい貸してくれたっていいじゃないの」
里香はドレスに着替えて、デコルテにネックレスをあてた。
鏡を見て、「これがふさわしいのは私!」と思った。
瞬間。
がしゃーんん。
天井のシャンデリアが里香を直撃した。
「きゃー!誰か」
陽子は叫び、それと同時にネックレスを何処かへ隠した。
警察が現場検証を行い、古くなって脆くなったシャンデリアのひもが切れた事故ということになった。
里香の葬式の参列者の中に見知らぬ青年がいた。
「あれはいつまで預かっていたらいいの?」
陽子がそう声をかけると、青年はネックレスのありかを問うた。
人知れず2人は呪いのダイヤのネックレスを持って海外へ旅立った。
「太陽の神殿に祀られていたものを考古学者が持ち出したんだ。持ち主を不幸にすると言われていたけれど、神殿に戻せば、そんな呪いはなくなる」
「私はどうして何も起きないの?」
陽子が尋ねると、
「責任感が強くて、物欲がないからかな」と青年が笑った。
「私をここまで連れてきたのはなんのため?」
「僕と一緒にダイヤを守って欲しい」
真剣な青年に、陽子はそっと頷いた。