64ー報告
「お父様、平和なこの領地を土足で踏み荒らす者は許せません」
「ルル、勿論だ」
「ティシュトリアを舐めて貰っては困るな」
「「はいッ!」」
「父上、ジュードはどうしました?」
「朝から姿が見えんのだ。何をしているのか」
「お父様、ジュード兄様の馬がないそうです。きっとジュード兄様は何かを調べていらっしゃるのではないかと」
「わふっ」
「モモ、どうしたの?」
「今日、捕らえた不審者ね。直ぐに自害したので確証はないけれど、洗脳の類いの痕跡があるわ」
「モモ! 凄いな!」
「レオン様、こう言う場合は、直ぐに鑑定よ。状態異常が分かるわ」
「あ、申し訳ない」
「レオン、あの場合は仕方ないさ。こっちも飛んでくる矢を躱しながらの捕縛だったからな。寧ろ誰も矢に当たらなくて良かったよ」
「ラウ、すまない」
「レオン様やラウ兄様もセイバーの隊員達も皆無事で良かったです。その矢にも毒が塗られていた可能性が高いのですよ。擦りでもしていたら……」
「ルルの言う通りだ。ディアナに言って解毒薬を持たせる事を考慮しよう。まだこれで終わった訳ではないだろうからな」
「父上、明らかにクロノス侯爵が狙われています」
「ラウ、もしかしたらジュノー嬢もかもしれないな」
「ああ、レオン。俺もそう思う」
「では婚約破棄に関係するのでしょうか?」
「ルル、念のためジュノー嬢にも俺達と同じ魔道具を持ってもらう方が良いかもな。」
「レオン様、直ぐに作製します」
夕食前になってやっとジュード兄様がノトスと一緒に戻りました。
「父上、報告があります!」
「ジュード、どこに行っていた!?」
「昨日の盗賊の此処までの足取りを追えないかと思い、周辺を探っていたのです。居ましたよ、目撃者が! クロノス侯爵一行が襲撃される前日に、王都から帝国へ渡る商人の一行が領地に1番近い街の宿場で見たそうです!」
「そうか!」
「小綺麗な貴族の様な身なりの男と、濃紺のマントを羽織った男が一団と一緒にいたそうです。その一団が異様な雰囲気だったので、良く覚えていると言ってました」
「それでその男達は?」
「一団とは分かれて宿場を出たそうです。そこからの足取りが残念ながら掴めませんでした」
「よし、一度これ迄の経緯と現状を確認しておこう。皆を集めてくれ。ディアナやユリウスとマーリソン殿も呼んでくれ」
サロンに全員集まりました。ディアナ、ユリウス、マーリソン様もいらっしゃいます。紅茶と菓子が置かれました。
「ルル、今日もアップルパイ?」
「レオン様、違うわよ。アップルさつまいもパイです」
「うほっ、うまー!」
聞いてないし。食べてるし。
「ピピュー!」
「あらピア、気に入った?」
「ピピー!」
「美味しいわ」
「ルビも甘くてこれ好きー」
ヨカッタ、ヨカッタ! 私もさつまいもが入ってるの好き。
「グホンッ! 皆集まったな」
お父様、喉がつまりましたか? お口の横にパイ生地の屑がついてますよ。
「アーデス様、今迄の経緯を時系列で書き出してみました」
ガイウス、流石です。ジュード兄様がマールス・クロノス侯爵一行を出迎えに向かった時から始まる。
王都方面から森に沿った街道へ差し掛かるところで、侯爵一行が盗賊数人に襲われていた。ジュード兄様達が助けて盗賊を捕縛したが、予め持っていたらしい毒薬で全員自害。
翌日、朝からお父様がクロノス侯爵を連れて領地を案内していた。領地の境に差し掛かった時に弓矢で狙われクロノス侯爵は負傷。その弓矢には毒が塗ってあった。
その直ぐ後、森へ魔物討伐に出ていたラウ兄様達が森の境界付近で不審者を数人発見。捕らえたが、予め用意していたらしい毒薬で全員自害。
その日、ジュード兄様の聞き込みにより、商人の一行が最初の襲撃があった前日に1番近くの街にある宿場で、盗賊らしき集団を目撃。身綺麗な貴族らしい人物と、濃紺のケープを羽織った男が一緒にいたらしい。
そしてディアナの解析により全て同じトリカイドという毒だと判明。
負傷したクロノス侯爵は幸い擦り傷で、入った毒もごく僅かだった為大事には至らずディアナの薬湯で解毒治療中。
モモが見た限りでは、森の境界付近で発見した弓矢を持った一団は、洗脳の類の形跡がある。
「ここ迄は良いか?」
全員、頷きます。
「ではディアナ、毒について説明を」
「はい、アーデス様。今回使われた毒トリカイドですが、植物の毒の中では最強です。わずか2mgが致死量です。最強の植物毒ですが、手に入れるのは難しくありません。薬師の基本的な知識があれば、精製可能です。しかし、解毒薬の入手が困難なのです。最強である事。致死量が僅かである事。精製が難しくない事。そして解毒薬が手に入りにくい事。其れらの理由でトリカイドは暗殺に使われやすいのです。この国では、違法薬物の指定になっております。今回、複数回に渡り使用されておりますので、解毒薬を用意しました。万が一、毒を摂取してしまった場合は速やかに解毒薬を服用及び傷口に塗って下さい。そして一刻も早く戻ってルル様と私の解毒治療を受けて下さい。この毒は最強の毒です。ですので、解毒薬だけでなく、ルル様のアンチドーテも施して頂きます」
「そんなに強い毒なのか。ディアナ、解毒薬が入手困難だと言ったが、では今回の解毒薬はどうやって早急に手に入れられた?」
「そこです!」
そこ? 皆、頭の上に?が浮かんでますよ。
「解毒薬が入手困難な理由は、材料の薬草のうちの一つが入手困難だからなのです。マソイバナと言います。トリカイド毒の解毒に必要な希少な植物で、魔素が濃い場所にしか生息しないとされている植物です。花は鎮痛剤、葉は傷口の解毒、茎は神経毒の解毒、根をトリカイド毒の解毒に使用できます。そのマソイバナを根毎ルル様が沢山採取してきて下さったのです! 流石ルル様!」
いや、最後はいらないから。




