41ー新じゃが?
「ルル様! またそんな格好で! 今度は何をされていたんですか!?」
リアンカがルビを連れて走りながら叫んでいます。リアンカは私付きの侍女です。家族で我が家に仕えてくれています。
こんにちはー! ルルーシュアです。ティシュトリア公爵令嬢です。前世、日本人だった記憶があります。10代で孤独死でした! テヘッ!
私の住むティシュトリア領は、オーベロン王国の南西の端にあります。南に王国唯一の港であるブリスト港、西に魔物の出る辺境の森、東側は隣国の帝国があり、オーベロン王国の辺境の地です。私のお父様、アーデス・ティシュトリア公爵が領主です。
第2王子の誕生日パーティーに出席する為、王都に向かう道中でカーバンクルのルビを保護し、男爵令嬢の魅了を解呪し、やっと領地に戻ってきました。
さてさて、領地に戻ってきて早速、リアンカに叱られていますが、モモとニコラと一緒にジャガイモを収穫してました! やっぱ、領地はいいわー!
「ルル! ポテトが揚がるぞ! 新じゃがだぞ! 絶対美味いよ!」
「レオン様、待って! 私も行きます! ニコラ、モモ、行くわよ!」
「嬢様!」
「わふんッ!」
「ルビも食べるー」
レオン様はお隣の大国、帝国第3王子で1歳上の婚約者です。約1ヶ月前に単身で来られて滞在されてます。前世、私と同じ日本人だった記憶をお持ちです。
アッシュブロンドの髪にロイヤルブルーの瞳の爽やかイケメンさんです。
ニコラはうちの庭師の息子です。私が子供の頃に我儘を言って作ってもらった畑やら果樹園の世話をしてくれています。
モモはシルバーフェンリルです。元シルバーの小さなトイプードルでした。モモは前世から一緒で、なんと創造神の眷属です。モモの背中にカーバンクルのルビもいます。
ルビは、まだ小さいので魔法は結界しか使えなくてフワフワとしか飛べません。だから、いつもモモの背中に乗っています。
「ルル様!」
「リアンカ! 行くわよ! 新じゃがよ! 食べましょう!」
「ルルさまー! 待って下さい! ルル様もモモちゃんも泥だらけですよー!」
「クリーンするから平気よー!」
さて、やって来ました厨房です。ちゃんと皆クリーンしましたよ。新じゃがのポテトフライを食べてます。細いのじゃなくて、厚みのある弓形の方ね。
「はふっはふっ…! イワカム、美味しいわ!」
「ああ、めっちゃ美味いな!」
「わふっ!」
「ルビ初めて食べたの!」
「うん。嬢さま、美味い!」
「へへ、嬢様に若、ニコラもまだまだあるっスよ。リアンカさんも早く揚げたて食べな、モモもルビも沢山食いな!」
イワカムはうちの副料理長です。私が小さい頃から、記憶があやふやなレシピを一緒に試行錯誤しながら作ってくれています。レオン様ったら、もう馴染んじゃってイワカムに『若』て呼ばれてるわ。
「ルル、良い匂いがすると思ったら何食べてんだ?」
「ジュード兄様、新じゃがのポテトフライですよ。美味しいですよ」
「おっ! 新じゃがか! イワカム、俺も!」
「へい、ジュード坊ちゃん」
ジュード兄様は2番目のお兄様です。紫色したストレートの髪に翡翠色の瞳で、ちょっとヤンチャそうな見た目のイケメンさんです。長剣と弓を駆使して戦います。
「なぁ、ルル、レオン。辺境の森の中に小さな洞窟が見つかったんだ」
「ジュード兄様、森に洞窟ですか?」
「ほぉ、どんな洞窟だ? ダンジョン化してるのか?」
「いや、それ程のもんでもないらしい」
「わふっ?」
「モモも気になるか?」
「わふんっ!」
「父上に言って調査に出ようと思ってるんだが、なんせ森の中だ。洞窟に辿り着くまでにも魔物が出る」
はふっ、ポテトフライ止まらない。あー、炭酸が欲しいわ。グレープの。
「ジュード兄様、そりゃぁ森ですから。普通に出ますよ、魔物」
「ハムハム……ウマッ! そうだよな。でも行くんだろ?」
「ああ、レオン。それにな、どうやらかなりの鉱石が取れるらしいぞ」
「えっ! それは本当ですか?」
「ああ、俺のセイバーが確認している。どうだ? 興味深いだろ?」
「ジュード兄様、素材好きですね」
「おう。加工は自分で出来ないけどな」
「ジュードは素材集めが好きなのか?」
「ああ、レオン。見た事がない素材が偶に取れるんだよ。堪んないね。ワクワクするぜ」
「鉱石の種類にもよりますが、武器の材料になるかも。採れる量によっては貿易もできますね」
「やだルルったら、がめつい」
「なんですかレオン様。領地の利益になるかも知れないんですよ」
「まぁな」
「どうだ? レオン、ルル。乗るか?」
「「乗った!」」
「わふんッ!」
「洞窟だと!?」
お父様の執務室に来ています。お父様は前王弟殿下の次男で、ティシュトリア領の領主でもあり公爵です。脳筋だけど。
「ジュード、どれ位の規模なんだ?」
「洞窟自体は、そう大した規模ではないらしいです。でも何より鉱石が採れる」
「鉱石か」
「父上、洞窟を発見したのも、俺のセイバーだ。調査に行かせて下さい」
「うむ。放っておく訳にはいかんしな。
よし、ジュードに任せるか。セイバー何人連れて行く?」
「10人です。あまり人数がいても動き辛い」
「わふっ!」
「ん? モモもか?」
「わふん!」
「お父様、私もです!」
「ルルが行くなら俺も行きます」
「……ルル。お前は一応公爵令嬢なんだぞ。また母上にお小言言われるぞ」
「だってお父様! 行きたいです!」
「わふっわふっ!」
「ルビも行くのー!」
「洞窟ですって!? ルルまたあなた!」
お母様です。お隣の国、帝国現宰相のご令嬢で、王国の学園へ留学中にお父様と出会い大恋愛の末に婚姻しました。最近、王国の現王家、特に陛下が大嫌いと言う事が判明しました。
「お母様、危ない事はしません。お約束します」
「森の中なのよ! 充分危ないわ!」
「お母様……! お願いです!」
「わふぅ!」
「もう……モモちゃんお願いね! 本当に無茶させないでね」
「わふっ!」
「ルルーシュアさまー!」
はい、来ました。王都から本当に着いて来ました、この人。
「ルルーシュア様が行かれるのであれば、私もどこまでもぉーー!」
そう、その名もマーリソン・モルドレッド伯爵です。爵位は降格されてしまいましたが、マーリソン様が継がれています。魔道士団を退団してまでも、着いて来ました。相変わらず、テンションが変です。
「マーリソン様も、ルルをお願いしますね。危険な事はさせないで下さいね」
「勿論です! 我が身に変えましてもルルーシュア様の御身はお守り致しますー!」
あー、はいはい。
「さ、ジュード兄様、レオン様、モモ、行きましょう」
「「お、おう」」
「わふぅ?」
「なぁルル。お母上さ、俺には頼まないんだよな」
「何をですか?」
「あれだよ、ルルをお願いー! て、やつさ」
「あぁ……」
「マーリソン殿には言ってらしただろ? モモには毎回さ」
「……」
「俺、婚約者なんだけど……」
「……」
「俺、皇子なんだけど……」
「……」
いや、皇子は関係ある?
「俺、頼まれた事ないんだよな……」
「……」
ジュード兄様、お願い。
「あー、レオン。何故だか知りたいか?」
「ジュード、なんでだよ?」
「それはだな、レオン。君はいつもルルと一緒になって、生き生きとして先頭を走っているからだね」
「……!!」
「いや、今気付きました! て、顔してもな。ルルと一緒に面白がってるレオンには頼まないだろ」
「なんて事ッ……!!」
レオン様、項垂れてます。今気付いたの? 遅いわよ。いつも私よりノリノリじゃない。
「……ッ!」
レオン様、私より弱いしね。
「……ッッ!!」
あー、より一層項垂れちゃったわ。私、声に出してないんだけど。
「わふぅ……」
ね、モモちゃん。行きましょ。
「ルルーシュアさまぁー! お待ちをーー!」
またマーリソン様が叫んでいるわ。




