107ー森の異変
「ああ、レオン殿下の武装だけ明日になるそうですよ」
「はえーな。バロールて凄いな」
「明日の夕方にはお渡しできると思いますよ」
「じゃあ、明日纏めてもらうわ」
「はい、分かりました」
下に降りてお邸に戻ります。
「モモちゃん小腹空かない?」
「わふっ!」
「リアンカにおやつ貰いましょう」
「わふん!」
「ピア、おとなしくしてたかなぁ?」
「無理じゃない? ほら……」
お邸を指差します。
「ん?」
「ピー! ピピ! ピー!」
ピアが真っしぐらに飛んできます。
「あー、出てきたか」
パフン! と、ピアがレオン様に抱きつきました。
「ルル様、お帰りなさいませ」
「ルル、おかえりー」
「リアンカ、ルビただいま。ピアはおとなしくしてた?」
「出来るわけないのー」
「ピ!」
「ハハハ、そうか。出来る訳ないか!」
平和だわ……
暇だわ……とっても暇だわ。
どうして暇か聞きたいですか? そうよね、主人公が暇なんて聞いた事ないわよね。聞きたくない? じゃあいいわ。
……て、そんな事言わないで! 話が終わっちゃうじゃない!?
今日はね、朝からラウ兄様とジュード兄様は森へ調査に行かれたのよ。私のモモちゃんを連れて。
私の暇友……いえ違ったわ。私の婚約者のレオン様はマーリソン様と一緒にドワーフの親方と打ち合わせ。だからね、暇なの。
ルビちゃんとピアはお昼食べてから寝てるし。一緒にお昼寝しようかしら。リアンカにお茶もらおうかしら。
「ルル! いるかしら?」
あ、お母様だわ。
「お母様、どうされました?」
「ドレスの採寸するわよ! いらっしゃい!」
えぇー……。
「お母様、私これからユリウスの研究室へ……」
「そんな訳ないじゃない! 暇してるのは知ってるのよ! さあいらっしゃい!」
えぇぇー……。
お母様に連れられて……いえ、引っ張られてサロンへやってきました。
「ルルお嬢様、お久しぶりです」
「お久しぶりです。宜しくお願いします」
ずっとお母様が利用している仕立て屋さんの奥様です。仕立て屋さん? て、言うのかしら? ドレス屋さん? わかんないわ。
「この度はご婚約おめでとうございます。ルルお嬢様も、もうそんなお年頃なんですね。小さくて可愛くて、いつも転がる様に走ってらしたのに。アッと言う間ですわね」
ホロホロ……。
何故泣く??
「娘がお嫁に行く様で、寂しいですわ」
私は行かないからね。婿に来てもらうからね。ついでに貴方の娘じゃないからね。
「ルル、お顔」
やだわ、お母様。小声で突っ込まないで下さい。
「さ、では採寸してしまって下さいな」
「はい、畏まりました。ルルお嬢様、此方へ」
衝立の向こうへ誘導されます。
「お願いね」
奥様の子分達に着ていたワンピースを脱がされ、下着にされて採寸されます。
「最近だと、どんな形のドレスが流行りかしら?」
「公爵夫人、此方など如何でしょう?」
「まあ、素敵ね。でも、生地があまり好きではないわ」
「左様ですか? 婚約発表のパーティーですからね。もっと豪華でも良いかも知れません。ルルお嬢様はお綺麗ですから、何でもお似合いですわ」
オホホ……ウフフ……
採寸済んだし、私もういいかしら?
――コンコンコン
「失礼致します。ルル様、ラウ様とジュード様がお戻りで、旦那様がお呼びです」
リアンカ、良く呼びに来てくれたわ!
「分かったわ。直ぐ参ります。お母様、私は失礼致します」
「もう、ルルのドレスなのよ。仕方ないわね。分かったわ」
ささ、リアンカ早く行くわよ。
「お兄様達はどちらに?」
「執務室でお待ちです」
「リアンカ、お茶ちょうだい」
「はい、お茶菓子はどうしますか?」
「んー、軽く摘める程度のものがいいわ」
「畏まりました」
「あー、リアンカ。ルビとピアお願いね」
「はい、承知しています」
さて、お父様の執務室です。
「ラウ兄様、ジュード兄様お帰りなさい」
「わふ」
「モモもご苦労様」
「わふん!」
モモの首に抱きついてワシワシ撫でます。モモの匂いもモフモフ感も大好きよ。安心するわ。
「ルル、モモは凄いよ。俺たちだけだとパニクッていたかも知れない」
「ラウ兄様、何があったんですか?」
――コンコンコン
「お呼びですか?」
レオン様、ユリウス、マーリソン様が入ってきました。リアンカがお茶とお茶菓子を用意してくれました。
今日のお茶菓子は、ポテチじゃなくてさつまいもチップスです。ほんのり甘くてポリポリ食べられるから手が止まらない。
「美味いな。止まんないわ」
レオン様、同感だわ。
「わふっ」
モモちゃんバリバリ食べてるわね。美味しい?
「わふん!」
近くのメイドを呼びます。
「モモにお水をお願い」
「はい、直ぐに」
落ち着いたところで、お父様が話されます。
「集まってもらったのは他でもない。ラウとジュードの調査報告だ。とんでもない事が分かった」
え? とんでもない事?
「ラウ、説明してくれ」
「はい、父上。今日モモを連れてジュードとリル、ノトスそれにセイバー10人で森の調査に出ました。昨日と同じく、森のそう深くないところに上位種と呼ばれる魔物が出ました。奥に進むにつれ、森の空気が張り詰めているのが肌で感じられる様になりました。ジュードの発見した洞窟を過ぎて、森の最深部近くにある切り立った崖の手前に差し掛かった頃です。モモから全員撤退の指示がでたので、即反転し撤退に移ったところ耳を劈く様な咆哮が響き渡ったのです。初めて耳にする鳴き声でした。モモがいなければパニックに、いえ全滅になっていたかも知れません。その鳴き声は私達の頭上から聞こえ、撤退しながら見上げると巨体が羽根を広げて旋回していました。全身黄色の鱗に覆われた体、背には蝙蝠の様な羽を持った黄色のドラゴンでした」
ドラゴンですって! 皆、息を呑みます。