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横浜港の戦い

横浜港の戦い


 戦いは、まず横浜村の入り口付近で始まった。里見軍は矢を放ちつつ、数名で丸太を運んで門を破ろうとする。白川五郎率いる守備隊も、敵に向けてクロスボウを放つ。

 クロスボウの威力は想像以上で、水兵の甲冑を簡単に射抜いていた。それを見た里見軍は恐れをなしたようで、クロスボウの射程外まで兵を引いた。もともと、正面から攻める軍はただの陽動なのであろう。ここでは戦線が膠着し、にらみ合いが続くこととなった。

 一方、主戦場の船着場では、もともとの面積が狭く大軍が展開できないため、相手は攻めにくそうにしている。

 俺は土塁の上に登り、敵を引き付けてから火縄銃とクロスボウを撃つよう周囲の兵に指示を出すが、全然思い通りに動いてくれない。

 味方は、敵兵を見るいなや、手当たり次第に銃弾と矢を放っている。これでは、敵に打撃を与えられないではないか。弾込めや矢の装填も、かなりもたついているな。

 視線を下に向けると、船着場を守るはずの兵たちまで、敵の勢いに呑まれて浮き足立っている。軍事調練をせずに土木工事ばかりやっていたのが悪かったのか。これはやばい。死ぬ。

 俺は、身体強化を発動し、シャベルを片手に敵の前へ飛び降りた。そして、シャベルを振り回して敵兵数名を吹き飛ばすと、里見軍に向かって名乗りを上げた。

「我こそは、長野新五郎氏業なり。旗印から里見軍とお見受けいたすが、奇襲作戦は既に失敗しておるぞ。このまま退けばよし。なおも攻め続けるというのであれば、容赦はせぬぞ」

 敵兵からは『氏業本人か』『まさか』『まだ子供ではないか』といった当惑の声が上がる。

 俺は、敵の事情など知ったことではないので、そのまま敵兵を蹴散らし続ける。

 敵将は『さっさと生け捕りにせんか』と怒鳴っている。敵の目的が俺というのは、本当だったようだね。

 もちろん、いきなり空から降ってきた俺に驚いたのは敵だけでなく、味方も同様であった。

孫蔵・弥左衛門・平八郎の三人は、泡を食って飛び出して、俺の護衛につく。それにつられて、工兵隊三十も攻撃を開始した。

 俺は、三人に安全な場所へ連れていかれ、あまり無茶はしないようにと念を押された。

 確かに、単騎駈けは大将のすべきことではないが、大将が率先して戦わないと誰も戦わないよね。『隗より始めよ』なんて言葉もあるしね、などと思ったりもしたが、今はいくさの最中である。俺は、シャベルで戦うのではなく、兵を指揮しないといけないのであった。

 戦場に目を向けると、火縄銃とクロスボウで撃たれて混乱した敵を、工兵隊が水際まで追いつめ、シャベルで殴って海に落とそうとしている。なんか、良い感じに推移しているね。

 敵将は、このままでは攻め手に欠けると見たのであろう。船の半数が、入り江の内側に向けて移動を開始した。ちょうど、村民も五十人程度集まったので、ここの隊を2つに分け、孫蔵を隊長にして船を追わせることにした。

「火炎瓶をいくつか渡すから、船を燃やして相手を戦闘不能にするがよい」

 と指示を出すと、孫蔵は『ははっ。万事お任せください』と言い、早速隊を引きつれて船を追った。

 さてと、俺たちも火炎瓶の攻撃を始めるとするかな。工兵隊に追い立てられた里見軍は、船で沖に逃げようとしている。

「工兵隊に撤退の合図を出せ。その後、火炎瓶攻撃を開始」

 工兵隊が退くと同時に、火をつけた火炎瓶を、敵の船に向けて放り投げた。俺も、身体強化をした状態で火炎瓶を投げてみたのだが、結構遠くの船にも当てることができたよ。

 割れた火炎瓶は爆発し、船上にあるもの全てを焼き尽くす。よしよし、敵軍は火災とけが人で大混乱だな。

「さっさと降伏しろ。さもなくば、皆殺しにするぞ」

 と敵兵を脅すと、『命ばかりはお助けを』と船着場の兵は全員降伏した。とりあえず、ひどい火傷を負っている者は、すぐに患部を真水で冷やし、ドクダミの葉を揉んだものを貼り付けて様子を見ることにした。

 降伏した連中は、油でひどく汚れていたので、石鹸で汚れを落とすよう指示した。一応、最初に石鹸を作ったのは、後々石油製品を扱うことを考えてのことだからね。嘘じゃないよ。それに、不衛生な状態を放置して死人を出すのも嫌だからね。

 間もなく、入り江の内側に向かった敵兵と、横浜村の正面から攻め寄せている敵兵も撤退したとの報告を受けた。孫蔵も、火炎瓶で船一隻を破壊することに成功したそうだ。早くけが人を収容しないといかんな。

 東へ逃げていく里見水軍を見ていると、その後ろに新たな船団が現れた。敵の新手か、と思い目を凝らすと、幟旗には三つ鱗の紋が見えた。北条水軍だ。三浦湾から援軍に来てくれたのか。

 結局、敵将の正木時忠は北条水軍に生け捕りにされ、横浜港の戦いは北条軍の勝利に終わったのであった。我が軍は、怪我人が少々出ただけで死者はゼロであった。やったね。


 それにしても、随分と都合よく北条水軍が現れたものだと思っていたが、菖蒲から氏康に情報が流れていたようだ。菖蒲って、俺が思っている以上の実力者だったりするのだろうか。

 菖蒲にも何か褒美をやろうと思い、本人に希望を聞いてみると、鶏や卵、調味料などの食材が欲しいとのこと。何やら、俺の書いた転生物に影響された藤殿が料理に興味を持ったそうで、一緒に料理を作って俺に食べさせてくれるそうだ。まあ、鶏小屋を作るぐらいなら問題ないよね。後は、藤殿がメシマズでないことを願う。


◇小幡信貞の見解◇

 叔父の長野氏業が、里見水軍との戦いで武勲を挙げたと聞いた。珍しきものを発明するだけでなく、戦も上手だというのか。

 俺も小幡領を豊かにすべく新商品を開発し、産業を育成しようとしたが、早々に断念した。

 俺には出来なかったのだ。

 であれば、戦場で活躍できるよう日々鍛練に明け暮れていたが、あの叔父は北条氏康の養女を婚約者にしたと思ったら、武州横浜村に要害を築き、そこで里見水軍を相手に勝利を収めてしまった。

 今や、長野氏業の名は関東中に鳴り響いている。あの叔父と俺とで何が違うというのか。奴のことを考えるだけで、焦りと共に憎しみが湧き上がってくるぞ。

 父には、真田幸綱殿のように武田晴信様の下で働きたいと常々申し上げているが、反対され続けている。それもこれも、長野家から融通される様々な商品のせいだ。小幡家は、石鹸やガラス製品、干し椎茸などを甲信に売ることで、莫大な富を得ている。家中の者は、武田家と手を結ぶことで、長野家の機嫌を損ねることをひどく恐れている。実に嘆かわしいことだ。

 この状況下で武田家に仕えるには、小幡家を出奔するしかないな。そして、俺も武田家の姫を妻に迎えてやるのだ。

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