第17章 長野業盛に転生してしまった、再び/地球温暖化と気候変動に対する一考察
主な登場人物
長野上野介氏業(17歳):本作品の主人公。本名は長野成氏。怨霊魔法の属性は風。
怨霊神業盛:主人公を長野氏業に転生させた張本人。
藤(15歳):長野氏業の婚約者その1。大石定久の娘。
菖蒲(27歳):長野氏業の婚約者その2。藤の侍女でくのいち。
藤井孫蔵忠安(20代半ば):長野氏業の側近その1。石鹸担当。
青柳弥左衛門忠勝(20代半ば):長野氏業の側近その2。ガラス担当。
牛尾平八郎忠教(20代半ば):長野氏業の側近その3。硝石担当。
上杉政虎(31歳):山内上杉家第十六代当主。別名、越後の龍。
武田信玄(40歳):甲斐武田家第十九代当主。別名、甲斐の虎。
小幡信貞(21歳):長野氏業の甥。怨霊魔法の属性は雷。
織田信長(27歳):織田弾正忠家当主。戦国三英傑の一人。
松平家康(18歳):安祥松平家第九代当主。戦国三英傑の一人。
近衛前久(25歳):従一位、関白、左大臣、藤氏長者。
近衛妙(12歳):近衛前久の妹。長野氏業に興味を持つ。
永禄三年(1560年)3月21日 山城国京都御所
「はっ」
俺が気付いたのは、除目で上野介に任じられた正にその時であった。
近くに、怨霊神業盛の気配を感じた。
『怨霊神様、俺は過去に戻ってきたのですね』
『ああ、そうだ。我はまた武田信玄に滅ぼされ、怨霊と化してしまったからな。おぬしは、今再び長野業盛に転生し、我が望みであるお家復興と子孫繁栄を叶えるがよい』
とりあえず、この場はやり過ごすことにして、俺は宿にしている近衛邸に戻り、今までのことを整理することにした。
えーと、上杉政虎への報告は後でも良いよな。今のままでは、俺も何を言って良いのか分からんし、政虎も理解できぬだろうからな。
まず、俺は長野業盛に転生したと思っていたのだが、実は転移だったようだ。つまり、俺は未来の長野成氏から中身だけ引っこ抜かれて、業盛の中に入った状態ということになるが、転生とか転移とかはこの際どうでも良い。一番重要なのは、過去の出来事を改変することで、未来も変わってしまうということだ。
実際、未来の地球温暖化や気候変動は、以前俺のいた時間線より酷いものとなっていた。
そして、それは武田幕府が『自分さえ良ければ、他人はどうなっても良い社会』を創り上げてしまったため、それに続く人々も、汚染物質や温室効果ガスを地球に垂れ流すことで自身の利益のみを追求し、『公益』とか『世のため人のため』といった考え方は軽視されることになった訳だ。まあ、武田幕府ばかりに罪を着せるのは不公平かもしれんが、16世紀後半にスペイン・ポルトガルと一緒になって海外侵略したのは悪手だったね。
俺が、大砲や南蛮船を造って中途半端に軍事技術を向上させたにもかかわらず、武田信玄と同盟を結ぶなど妥協して、悪用される余地を作ったのもまずかったな。
ともかく、未来の地球温暖化・気候変動・紛争の激化は避けねばならない。
そのためには、武田幕府成立と海外侵略を何としても阻止しないと。
俺は、改めて武田信玄打倒を心に誓うのだった。
地球温暖化と気候変動に対する一考察
地球の温暖化や寒冷化は全て太陽活動の変動で説明できるとか言っている人もいるらしいが、基本的に気候とは非可逆的なものであって、徐々に温暖化したり寒冷化したりする訳ではない。ある閾値を超えると、一気に別の気候に変化するのである。例を挙げるとすれば、ヤンガードライアスイベント(12,900年前~11,500年前の気候寒冷期、わずか数年で気温が7℃低下した:ウィキペディアから引用)であろうか。
以前、真鍋淑郎先生の講義を受けた時に聞いた話なのだが、同じ初期値でGCM(大気大循環モデル)を走らせた場合でも、まったく別の結果が導き出されることがあるのだそうだ。
言い換えると、同じ気象条件でも、取り得る定常状態(気候)は二つ以上あるということだ。そして、その原因の一つとして考えられるのが、北大西洋における熱塩循環なのだそうだ。
熱塩循環:主に中深層で起こる地球規模の海洋循環を差す。メキシコ湾流のような表層海流が、赤道大西洋から極域に向かうにつれて冷却されると、海水が高密度になって高緯度で沈み込むことになる。この高密度の海水は深海底に沈み、約1000年後に北東太平洋に達して、再び表層に戻る。この過程で、水塊はエネルギーと物質を運んで地球上を移動することとなる。熱塩循環は、地球の気候に大きな影響を与えている(ウィキペディアから引用)。
つまり、熱塩循環が強まると『北極・南極と赤道間の熱輸送量が増大→高緯度(特に北半球)の氷床が縮小→地球温暖化』という流れになり、熱塩循環が弱まると『メキシコ湾流の北上と熱の放出が妨げられる→ヨーロッパ・北アメリカの寒冷化→高緯度の氷床が拡大→地球寒冷化』となる訳だ。
ヤンガードライアス期の直前は温暖化が進み、大陸氷床は縮小しつつあったのだが、融解した氷床から発生した大量の淡水がセントローレンス川を通じて北大西洋に放出されたため、北大西洋の塩分濃度が低下して熱塩循環が弱まり、結果として地球全体が寒冷化したのだそうだ。もう少し詳しく言うと、北米大陸上の氷床が融解して発生した淡水は、当初ミシシッピ川を通ってメキシコ湾に注いでいたのだが、大陸氷床が北に後退すると、その下からセントローレンス川の水路が現れたため、今度はメキシコ湾でなく北大西洋に淡水が流出するようになったとのこと。
ただ、これだと氷期から間氷期になるタイミングで必ず熱塩循環が弱まるはずだから、今の大陸配置が続く限り、常に氷期であり続けるはずである。しかし、ヤンガードライアス期が終わって温暖化が始まっても、寒の戻りは起こらなかった。仮に、令和の時代にグリーンランドの氷床が一気に融解して、北大西洋の塩分濃度が低下したとしたら、地球は寒冷化するのだろうか?俺には良く分からない。これの意味するところは、気候変動の要因は多すぎるので、人如きに予測するなど不可能ということだと、俺は思う。
そんな訳で、人類は急激な気候変動に対してもっと危機感を持つべきだと、俺は声を大にして言いたい。ちょっとした海水の塩分濃度の変化で気候が急激に変化することもあるのだから、温室効果ガスが急激に増加している現状がいかに危険なものであるかが良く分かるであろう。ヤンガードライアス期には、わずか数年で気温が7℃低下しているが、これは動物も大変だったと思うけど、特に動けない植物は潰滅的な打撃を受けただろうね。
人類は、常に薄氷の上に立っていることを自覚し、人間社会を維持するためにも、天道(自然界の法則)に従って地球環境を一定に保つべきだと、俺は思う。
ただ、地球環境を一定に保つために経済活動を制限し続けると、今の人口を維持できないわけだから、どこかで折り合いをつけねばならない。それが『人道』ということになるが、本当にこの問題の解決は難しいと思う。俺は、少しずつ人口を減らすより道はないと思うのだが、皆はどう考えるのだろうか。何か良い解決策があれば教えていただきたい。
せっかくの機会なので、地球温暖化に対する俺の考えについても述べさせてもらおう。
俺は、地球温暖化が進むと、平均気温の上昇率以上に風水害が酷くなると考えている。具体的にいうと、風水害の激化は気温上昇率の二乗に比例するんじゃないかな、と思っている。
この根拠として考えられるのが、次の公式である。
ステファン・ボルツマンの法則:I=α×Tの4乗(I:エネルギー、α:定数、T:温度)
運動エネルギーの公式:K=1/2×m×Vの2乗(K:運動エネルギー、m:質量、V:速度)
そして、物凄く乱暴なやり方だとは思うが、こうも言えるのではないだろうか。
α×Tの4乗≒1/2×m×Vの2乗
そして、この公式こそ、俺が『風水害の激化は気温上昇率の二乗に比例する』と断じる根拠な訳だ。ちなみに、この考え方であっているのか大学教授に質問したこともあるのだが、教授連中は『君の方が専門家ではないか』と言って答えてくれなかったよ。『ただの公務員が専門家だったら、お前ら大学教授は何なんだよ』と言ってやりたかったが、そう答えたくなるのも俺には分かる。なぜなら、これを証明するにはGCM(大気大循環モデル)が必要になるからだ。言い換えると、国家プロジェクトでもない限り、俺の言っていることが真実かどうか証明できないということだ。
いずれにせよ、『人類は人間社会を維持するため、地球環境を一定に保たねばならない』というのは間違いないであろう。二宮金次郎風に言うなら、『分度を守って生活しろ』ということだね。
参考:平均気温が300K(ケルビン:絶対温度)から301Kに上昇する時は、273Kから274Kに上昇する時よりも、V(物体の持つ速度)が1.15倍大きくなります。これは、平均気温が高い時の方が、同じ気温上昇率であっても、より気象現象が激化することを意味すると、私は考えます。
((301の4乗―300の4乗))の0.5乗÷((274の4乗―273の4乗))の0.5乗=1.15




