第一部エピローグ
「はっ」
目を覚ました俺が見たのは、鬱蒼とした森の広がる箕輪城の風景であった。
本当に未来へ帰ってきたのか。
ズボンのポケットから取り出したスマホのカレンダーを見ると、令和2年(2020年)5月26日と書かれていた。
そういえば、派手に歴史を変えてしまったけど、大丈夫なのか?
心配になった俺は、箕輪城の歴史について書かれた案内板を見るため、二の丸に移動した。
案内板は・・・、あったあった。
えー何々、箕輪城主長野業盛(氏業)は、横浜開港の祖として名を残した、か。普通、群馬と横浜の交流といえば中居屋重兵衛(嬬恋村出身で、黎明期の生糸貿易を担った貿易商)なんだけど、歴史が変わって長野業盛になっちゃったか。
長野業盛は幼少の頃より多くの物を発明しており、その代表として挙げられるのが大砲と洋式帆船である。長野業政死後、業盛は箕輪城主となるが・・・、えーと業政の死因は落雷か。それで、永禄六年九月に武田信玄率いる三万の軍勢が上州に攻め込んできたため、業盛は箕輪城の南方二里ほどのところにある若田ヶ原で武田軍を迎え撃つが、戦いの最中に戦死する、享年二十歳。業盛の死後は、小幡信貞が箕輪城主となる。業盛の大砲と洋式帆船を接収した信貞は、信玄の天下統一戦で大活躍をする。その後、信貞は二代将軍武田勝頼によって征南将軍に任じられ、東南アジア・ニューギニア島・オーストラリアを征服する。その際、信貞は逆らう敵を皆殺しにしたため、後世、征服将軍・虐殺将軍と呼ばれるようになった・・・。
なんじゃこりゃー。
業盛の寿命が逆に減っているではないか。
しかも、信貞が俺の発明した大砲と洋式帆船を使って、他国を征服してしまうとは。
あまりの状況に声も出せない俺であったが、そんな俺の頭の中に、この時間線の知識が流れ込んできた。
世界人口は百億にせまり、温室効果ガスの増加率も地球温暖化も気候変動も、以前俺のいた世界より酷くなっているだと。先進国は、自国の豊かさを維持することしか頭にないし、後進国は先進国に支援を求めることしか考えていない。後進国の自力近代化など、夢のまた夢である。しかも、世界各地で紛争が勃発しているではないか。
そして、こんな世界になってしまった原因の一つとして、武田幕府による海外遠征と植民地支配が挙げられるのだそうだ。要するに、武田幕府が『自分とその仲間さえ良ければ、他人などどうなっても良い』社会を創り上げ、それを世界の常識にしてしまったわけだ。
つまり、人道は天道(自然の道)に敗れ去ったということか。
がっくりとうなだれる俺の脳内に、怨霊神業盛の声が響いてきた。
「成氏よ。我は、また武田信玄に滅ぼされて怨霊と化してしまった。おぬしは、再び長野業盛に転生し、我が望みであるお家復興と子孫繁栄を叶えるのじゃ」
「うわー、もう勘弁してくれ」
第16章 完




