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第15章 小田原城包囲戦

永禄二年(1559年)9月30日 相模国小田原城


 氏政に殺されそうになり、小田原城を逃げ出したのが9月15日だったかな。

 それから約半月、ようやく俺は帰ってきたぜ。

 現在、小田原城は蟻の這い出る隙もないほど包囲されている。

 まあ、包囲したのは良いのだけれど、目の前に見える小田原城は竹筋コンクリートで防御力を向上させた天正期の小田原城だからな。ついでに、城の主要部分は氏政の土魔法で強化されているしね。

 試しにうちの南蛮船から砲撃してみたのだが、たいした打撃は与えられなかった。

 土壁は大砲で崩せるけれど、その都度修復されるしね。

 どうせ砲撃するなら連射しないと意味がないのだろうが、今の大砲の性能では難しいしな。それに、民の被害もできるだけ抑えたいので、やはり秀吉みたいに氏政の心を折りに行くしかないか。

 ということで、景虎に例の案を提案することにしたのであった。まあ、コンクリートもあるし、秀吉の時よりも簡単に作れるんじゃないかな。

 俺が景虎の本陣を訪ねると、そこにいたのは、いかにも身分の高そうな若い貴族であった。

 景虎とその貴族がなにやら密談しているようなので、俺は邪魔かなと思って自陣に戻ろうとしたのだが、俺を目にした景虎は『ちょうど良い』と言って、俺にその貴族を紹介するのだった。

「こちらは、近衛前久卿だ。今後の方針について前久卿と話し合っていたところだが、おぬしの意見も参考にしたいと思ってな。呼ぼうと思っていたら、そなたの方から来てくれたので、手間が省けたぞ」

(うわー、現役関白かよ。偉い人と話をするのは嫌なんだよな)

 と思いつつ、俺は前久に平伏した。

「そちが長野氏業か。山科言継から聞いておるが、多くの珍しき物、新しき物を発明しているだけでなく、戦にも強いそうじゃのう・・・。これ、何を固まっておる。そちも地下(五位より下)とはいえ官位持ちであろう。無礼は一切許すゆえ、天下静謐のため、今後麿たちがどう行動すべきか、そちの意見を申すがよい」

 ということで、俺は景虎と前久に対し、なし崩し的に自身の思うことを話す羽目になるのであった。


「えー小田原城ですが、このまま包囲を続ければ、間違いなく兵糧が尽きて氏政は降伏することでしょう。問題は我が軍の兵糧ですが、略奪だけはいけません。戦後の統治に支障をきたすのは間違いないので、金で兵糧を購入して欲しいのですが・・・、大丈夫でしょうか」

「うむ、問題ない。この時のために、金を大量に用意しておいたからな」

(えーと、秘密裏に佐渡金山を開発していたとか、そういうことなのかな?まあ、この辺りを深く追及すると殺されそうだから、話題を変えることにしよう)

「では、兵糧は良いとして、肝心の城攻めについてですが、小田原城に籠る氏政の心を折るため、あそこの笠懸山に城を築きましょう。そうすれば、北条軍は戦意を喪失し、氏政も投降せざるを得なくなるでしょう」

「ふむ、小田原城を見下ろせる笠懸山に、城を築くというのか。築城することで城を落とすなど、見たことも聞いたこともないわ。それも神から授かった知識なのか?」

「はい、そうです。命令を頂ければ、三カ月で築いてみせましょう。その間、景虎様は鎌倉に赴いて関東管領就任式を行って下さい。笠懸山の城が完成する頃には、小田原城の兵糧も尽きるでしょう。そして、小田原城落城後にそのまま東海道を西上して上洛すれば、天下人長尾景虎の誕生です。あとは、氏政降伏後の関東を治めるために、前久様は関東に滞在して欲しいとか、氏康様の子を養子にして関東に置くのはどうかとか、武田信玄と和議を結んだほうが良いとか、一向一揆を抑えるため朝廷の力をお借りしたいとか色々と考えているのですが、如何でしょうか・・・」

 すると、景虎は

「うむ、諸将と検討する必要はあるが、良くできた案だと思うぞ」

 と言って、俺を褒めるのだった。

 前久も、『さすが麒麟児の名にふさわしい、優秀な頭脳の持ち主じゃな』なんてことを言っている。

「追って命を下す。それまで口外するな」

 景虎はそう言うと、俺をこの場から退出させるのだった。

 数日後、景虎から『笠懸山に城を築くように』との正式な命令が届いた。

(よっしゃー、氏政の度肝を抜くような立派な城を作ってやるぜ。そう、一人でも多くの人を救うためにね)

 犠牲者を減らすための仕事を受け持つことは、俺にとって大きな喜びであった。

 

 さて、こうして横浜城包囲戦に勝利し、好きな仕事も担当することになった俺であったが、ここで大事なことに気付くのだった。

 やべえ、散々藤殿や家臣たちに心配をかけてきたのに、お礼をしていないではないか。

 そうそう、心を病んでいる時って、本当に視野が狭くなって、思考停止するんだよね。

 今回でいえば、北条氏政との戦争のことしか頭に入らなくなって、他のことに考えが及ばなくなるわけだ。

 そんな訳で、家臣たちには臨時ボーナスを支給し、藤殿には沢山の本をプレゼントすることにしたのだった。藤殿にプレゼントするなら、やはり転生物とか悪役令嬢物とかが良いかな。未来人が異世界またはゲーム世界に転生して、未来の知識で無双する例のやつね。

 みんな喜んでくれると良いなあ。


◇近衛前久視点◇

 藤原氏は、日ノ本・天皇家にとりついた寄生虫である。

 藤原氏の象徴である藤の木を見よ。藤は、絡みつくための他物がなければ生きられぬのだ。

 藤原氏は、日ノ本の王にはならぬが、天皇家の守護者として、寄生虫として君臨する。

 藤原不比等以来、藤原氏はこの行動原理を貫いてきた。

 この行動原理から外れて日本皇帝になろうとした藤原仲麻呂(太政大臣、不比等の孫)は殺害したし、道鏡に皇位を禅譲しようとして皇統を危うくした称徳女帝も、宇佐八幡の神託でとどめを刺した。

 こうして、時に戦い、時に策をめぐらせることで、藤原氏はこの国と天皇家から甘い汁を吸い続けてきたのだ。

 しかし、その生活は、日ノ本と天皇家が安泰であってこそ成り立つのである。もし、長きに渡る戦乱によってこの国と天皇家が倒れれば、藤原氏も死んでしまうのである。

 だから、麿は行動する。日ノ本を滅亡から救うために。

 なにしろ、寄生虫は宿主が死んでしまえば生きられぬのだから。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

参考:『逆説の日本史3古代言霊編』(井沢元彦、小学館文庫)

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