表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/62

決戦、第二次横浜城の戦い

永禄二年(1559年)9月26日 武蔵国横浜城

 

 北条軍との戦いは膠着状態が続いていた。

 氏政は、土壁で兵を守りつつ城門を打ち破ろうとしていたが、土壁自体は砲撃で十分粉砕可能であった。やはり、怨霊魔法自身が古代のものなので、近代科学に基づく攻撃には耐えられないようだ。それにしても、大砲で土壁を破壊してから背後にいる敵兵を銃撃か。ずっと同じ作業を繰り返していると、いい加減嫌になるな。おっと、思考が後ろ向きになっていたか。いかんいかん。


◇藤の視点◇

 氏業様の具合についてですが、一時期よりは良くなりましたが、今日もお辛そうにしています。やはり、心の病は原因が除かれない限り完治しないものなのですね。あの日から、氏業様はわたくしに弱音を吐いてくれるようになりました。その時は元気になられるのですが、いざ戦場を目にすると、気が滅入ってしまうようです。最近は、独り言も多くなりました。

 このままでは、氏業様は自滅し、わたくしたちも全滅することでしょう。

 誰でも良いです。どうか、わたくしたちをお助け下さい。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


永禄二年(1559年)9月27日 武蔵国横浜城


 うー、気は進まぬが、今日も戦場が俺を待っている・・・。

 頑張ろうとか思ってはいけないのだろうが、頑張るしかないな(心の病の人は、既に頑張っているので、頑張れと言ってはいけません)。

 横浜城は、相変わらず三万を超える北条軍に包囲されているな。いくら攻撃しても、少しも減りやしない。

 さてと、今日も砲撃・銃撃の準備をしないといかんな、などと思いつつ敵の軍勢を眺めていると、いきなり敵が二つに割れて横浜城に向かう道が出現した。

 何事かと思い、目を凝らしてその様子を見ていると、その道を通って騎馬武者十数騎が城に近づいてくるのを確認できた。

 北条家の使者か?いや違う、『龍の旗』が見える。

 長尾景虎だ!良く見ると、孫蔵や山口吉薫もいるではないか。

 景虎一行は、敵軍を真正面から堂々と突破すると、そのまま横浜城へ入城した。

 俺の顔を見た景虎は、

「よう氏業よ、久しいな。二年半ぶりか。救援が遅くなって悪かったな」

 と俺に声をかけるのだった。

「これからは、わしのために働いてもらうぞ。弱き者、虐げられし者を救い、不義を働く者には、義の鉄槌を下そうではないか。共に戦おうぞ」

「ははっ、承知いたしました」

 こうして、長尾景虎家臣、長野右京進氏業が誕生したのであった。


◇長尾景虎視点◇

 わしが長野氏業から援軍要請を受けたのは、那波城(群馬県伊勢崎市)を攻略している最中のことであった。

 すぐにでも救援に向かおうとするわしの行動は、家臣全員に反対され、阻止された。

 理由は、那波城攻めの最中であることと、書状に何カ月でも籠城可能と書かれていたからだ。氏業の言う通り、味方が十分に集まってから救援に向かえばよいと主張する家臣たちであったが、わしはある懸念を抱かずにはいられなかった。あれほど争いを嫌う氏業が、何カ月も籠城していられるのだろうか、と。それに、父親を追放した氏政の不義も許せんしな。

 そこで、速やかに那波城を落とすと、わしは周囲の制止を振り切って横浜城へ向かうのだった。

 わしは、少数の供を連れて横浜城へと進む。

 ついに横浜城の近くまで辿り着くが、目にしたのは北条の大軍勢に包囲された横浜城の姿であった。『これでは近付けぬ』『ひとまず戻り、大軍を集結させてから攻めるより他はなし』と慌てだす供の者たち。

 わしは周囲の者を一喝すると、そのまま横浜城に向かって馬を進めるのであった。

「毘沙門天よ、我に力を与えたまえ。『軍神』」

 わしがこう唱えるのと同時に、北条軍が真っ二つに割れた。

 北条軍の兵たちは、わしの威に打たれて身動きもとれぬ様子であった。

 ふん、なにやら『景虎を討ち取れ』などと喚いている奴がおるな。あれは氏政か?やかましいわ。

 視線で威圧すると、氏政はへたり込んで静かになった。

 そのまま横浜城に入城したわしは、大歓声で迎えられた。

 氏業の具合はというと、かなり悪そうだな。どうせ、敵が死ぬのを見て自責の念に駆られていたのであろう。

「よう氏業よ、久しいな。二年半ぶりか。救援が遅くなって悪かったな」

 わしが声をかけると、氏業は心底ほっとしたような表情を見せるのだった。 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


決戦、第二次横浜城の戦い


 長尾景虎を迎え入れた横浜城の士気は、かつてないほど高まっていた。

 これなら何カ月でも籠城可能だが、肝心要の長尾景虎がここにいて大丈夫なのだろうか。

 不安に思った俺は、そのことについて景虎に指摘したのだが、

「別に、考えなしで救援に来たわけではない。今まで上州の城を一つずつ落としておったのだが、なかなか味方が増えぬのでな、ここで一つ賭けに出ることにしたのだ。おぬしの救援要請に速やかに応えれば、関東の国人衆もこの景虎を信用に値する者として、こぞってわしの旗下に集まるのではないかと思ったのでな。おそらく、この数日で答えは出るであろう。ちなみに、わしは相当な強運の持ち主だぞ」

 こう、景虎は答えるのだった。

 

 翌日も、横浜城は相も変わらず北条軍に包囲されていた。

 景虎はというと、興味深そうに大砲を見ていたので、試しに発砲してみたら目をキラキラさせて喜んでいたよ。やはり、メンタルを安定させるには、どれほど嫌な仕事であっても、その中に楽しみを見出すことが重要なのかな・・・。

 不意に、景虎は北の方角を睨みつけた。そして、俺に『出撃の準備をせよ』と命じるのであった。

「おぬしには分らぬか?武蔵の国に大軍勢が集結していることを。その大軍勢は、兵を増やしながらこちらへ向かっておるぞ」

 うーん、遠すぎて俺には探知できんな。それにしても、これって氏政の援軍ではないよな。

 俺の不安げな表情に気付いた景虎は、

「ふん、何も心配することはないぞ。なにしろ、わしは強運の持ち主だからな」

 こう、俺に告げるのであった。


 そして、数刻の時が流れた。

 ここまで来れば、俺にもわかるね。北条軍を超える大軍勢が、この地に迫っていることを。

 果たして、俺と氏政とどちらの味方だ。

 北の方角から、馬蹄や鉦、太鼓、陣貝の音が響いてきた。

 北条軍は混乱して慌てふためいている。中には、敵前逃亡している隊もあるね。

 そうこうしているうちに、関東の国人衆率いる五万の大軍勢が、北条軍に突撃した。

 それと同時に、横浜城からも二千の軍勢が出撃して北条軍を挟撃したため、北条軍は一挙に崩壊して、命からがら小田原城へと逃げ帰るのであった。

 こうして、第二次横浜城の戦いは我が軍の大勝利に終わったのだった。


 そのまま、勢いに乗じて小田原城に向かおうとする国人衆であったが、俺は敢えて進軍を止めることを提案した。

 それは納得できぬと怒り出す諸将に対し、俺は『難攻不落の小田原城に勢いだけで攻めかかるのは危険』であり、『人的被害を抑えるためにも小田原城は兵糧攻めで落とすのが最善』だと主張した。さらに、周囲の村々の農民を小田原城に追いやれば、城内の食糧消費量も増加して、氏政は戦わずに敗北するであろうと説明すると、諸将は『なんという恐ろしい策を思いつくものだ』と言って俺の意見に賛同するのであった。

 この案については、景虎の同意も得られたため、早速実行されることとなった。

 関東の国人衆率いる五万の大軍勢は、数万の農民を小田原城へ追いやるのと同時に、小田原城の包囲を開始した。

 これを見た関東の土豪・国人衆は、次から次へと景虎の下に馳せ参じ、ついに景虎の軍勢は十一万以上に膨れ上がるのであった。

 これで、氏政との因縁に終止符を打てると思う一方、氏康の『氏政を救ってほしい』という願いにはどうこたえれば良いのか。俺はひとり、思い悩むのだった。


第14章 完

戦争:第二次横浜城の戦い

年月日:永禄二年(1559年)九月十九日~二八日

場所:武蔵国横浜城

結果:長尾軍・関東国人衆連合の勝利


長尾軍・関東国人衆連合指導者・指揮官

長尾景虎、太田資正、佐竹義重、那須資胤、小山秀綱、成田長泰、小田氏治、長野氏業など

戦力:約50000

戦死:若干名


北条軍指導者・指揮官

北条氏政、北条幻庵、大石氏照など

戦力:約35000

戦死:約5000

逃亡:約5000

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ