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第14章 横浜城包囲戦

第一次横浜城の戦い


 時は永禄二年九月十六日、ここ武蔵国横浜城は、大石氏照率いる一万の軍勢に包囲されていた。横浜城城主長野右京進氏業は、鉄砲隊・大筒隊・騎馬隊の準備が整ったのを確認すると、城外で挑発行為を続ける氏照に対し、銃撃を浴びせるのであった。

 こうして、第一次横浜城の戦いが開始した。

 氏照は、周囲の兵に対し梯子と破城槌を持ってくるよう命じるが、そもそも兵たちは城主不在の城を拾いに行く程度にしか思っていなかったため、攻城戦の準備も心構えも不十分であった。

 長野軍の銃撃を受け、次々と倒れる北条軍の兵士たち。

 氏照の家臣たちは、これ以上北条軍の被害を増やさないため、一度兵を引いて仕切り直しすることを提案した。

「速やかなご判断を」

 決断を促す家臣たちの剣幕に押された氏照は、兵に後退するよう指示を出すと、自らも後方へと退くのであった。

 北条軍の兵士たちは、氏照の撤退命令に安堵し、我先に逃げ始めるのであった。


 横浜城の城壁の上で北条軍の戦いぶりを見ていた俺は、北条軍の戦意がにわかに落ちたことを確認すると、すぐさま砲撃を始めるよう大筒隊に指示を出すのであった。ちなみに、攻撃目標は北条軍の中軍付近ね。

 そういえば、大砲を実践に投入するのは初めてだったな・・・。これから、俺の造った大砲で大勢の人間が死ぬのだろうな。だが、誰かが最終的な勝利者となってこの国を一つにまとめ上げねば、いつまでも戦乱の世は終わらず、犠牲者も増え続けるのであろう。であれば、俺のやるべきことは一つ。圧倒的な力を示して、敵から戦う意欲を無くすまでだ。

「砲撃準備・・・、放てー」


 ズドーン!!


 大砲から次々と弾丸が放たれ、被弾した中軍の兵士たちは肉塊と化した。

 北条軍の兵士たちは、未知の兵器に攻撃されて恐慌状態に陥り、雪崩を打って逃げ始めた。

 こうなってしまうと、氏照率いる前軍も軍としての体裁を保てず、潰走を始めるのであった。

(では、今のうちに氏照の首を取るとするかな)

 俺は、騎馬隊二百を率いて混乱する北条軍前軍に突撃するのであった。


 俺は、騎馬隊とともに北条軍の中を突き進む。

 すると、必死になって軍を立て直そうとしている氏照が、俺の目の前に現れた。

「氏照殿、お命頂戴いたす」

 俺の持つ槍が氏照を貫こうとしたその瞬間、

『待て!!』

 その声とともに、俺の体は後ろに引っ張られた。

 俺の面前を、雷撃が通過した。

 俺を引き止めて雷撃から守ったのは、怨霊神業盛であった。

『注意せい。怨霊の力の使い手が、我らに接近しておるぞ』

 周囲を見ると、騎兵十数騎を従えた騎馬武者が俺に近づいて来るのが見えた。

「ちっ、外したか。やはり、悪天候でないと調子が出ないな」

 こう言いながら現れたのは、昨晩生石灰でやっつけたはずの小幡信貞であった。

「信貞殿、先ほどの雷撃は貴殿の力か。もしや、駿府城から瀬名姫と竹千代を攫ったのも、今川義元公が落雷で死んだのも、貴殿の仕業ではあるまいな。信貞殿、答えよ」

 こう問い詰める俺に対し、信貞は

「今、オレは忙しいんだ。お前の相手をしている暇などない」

 こう言い残すと、氏照を連れて戦場から離脱するのであった。

 当初は無秩序であった北条軍の撤退は、徐々に秩序立ったものとなっていった。

『追撃せぬのか』と問いかける怨霊神に対し、俺は『兵を引きます。今回の出撃の目的は、北条軍が混乱している隙を突いて氏照の首を取ることでしたからね』と答えるのであった。

『それにしても、大砲の威力は見事であったぞ。これからの戦は、鉄砲や大砲による遠距離攻撃が主流となるのじゃな』そう怨霊神は言い残すと、消滅するのであった。

 一方、俺は小幡信貞のことを考えていた。あいつが、武田信玄の意を酌んで今川家や北条家を弱体化させるために動いているのは間違いないであろう。つまり、信玄は同盟国に弱体化工作を仕掛ける一方、自身は同盟国に援助を持ちかけて利権を奪い取っていたわけだ。本当に信玄は『たちが悪い』が、信玄からすればこの戦国の世で隙を見せる方が悪いと言うのだろうな。改めて、俺は武田信玄打倒と戦国の世に終止符を打つことを心に誓うのであった。

 こうして、第一次横浜城の戦いは長野軍の勝利に終わったのであった。


 こんな感じで、氏照率いる北条軍一万を追い返した俺であったが、氏政は俺を放ってはおくまい。きっと、次は横浜城を一気に落とすために、氏政は圧倒的多数の大軍を派遣して我攻ガゼめをするのであろうな。それで、俺は横浜城に籠り、北条軍を相手に孤軍奮闘することで、打倒氏政の機運を盛り上げるわけだよ。俺は、さながら千早城に籠る楠木正成といったところか。これ、時代の前後(鎌倉時代末と室町時代末)はあれど、同じ北条家相手というのが面白いね。

 ともかく、北条軍の包囲網が崩れた今がチャンスということで、横浜城に戻った俺は、長尾景虎に援軍を要請するため孫蔵を厩橋城へ送るのであった。なお、山口吉薫がやたらと『某にも仕事を下さい』と自己PRしてくるので、孫蔵の護衛につけることにしたよ。

 同時に、近隣の農村から兵を募ったり、食糧を購入するなどして、俺は次の戦に備えるのだった。


幕間 武士の仕事とは


 先の、第一次横浜城の戦いで大砲を実践に投入した際、主人公は『戦争の犠牲者を少しでも減らすために、大砲で圧倒的な力を示して(敵兵をたくさん殺して)敵から戦意を奪う』ことを考えたが、この『世のため人のために、世間の不平・不満は自らが進んで受ける』という行為こそ、マツリゴトツカサドる武士の仕事であり、人道に従うということになるものだと思っている。

 ちなみに、主人公が進んでこのような行動をとるのは、前世が公務員で税金を徴収する仕事をしていたことが理由として挙げられる。ある本に、税金の徴収は武士の仕事であると書かれていたが、これは、どれほど国民から怒鳴られようが、脅されようが、社会や国家を維持するために、進んで憎まれ役となり、時には命も懸ける、すなわち世のため人のために働くということなのだろう。

 実際、税金滞納者の財産を差押して公売するのって、精神的にすごくきついのですよ。財産を差し押さえられて『ありがとう』なんて言う人はいるわけないし、大抵は『鬼、悪魔、人でなし』と言われる訳ですね。滞納者に罵声を浴びせられるのは物凄いストレスだし、そもそも他人の財産など差押したくないのだが、滞納者を放っておくことで税金など払わなくて良いという風潮になれば、即国家の崩壊である。国家が崩壊して戦国の世になれば、一番困るのは自分のこともまともにできない滞納者本人だと思うのだが、滞納者自身はそのことに思いも及ばぬようだね。

 そう、自分のやっていることは正しい、世の中の役に立っていると思えるから、世の徴収職員は歯を食いしばって仕事を頑張れるのだ。本当に、徴収の仕事が世のため人のためになると思わないと、この仕事はやってられんよ。実際、精神的に参る人も多いし、殉職者だって出るからね。

 差押は、預金が一番簡単だね。給与差押も多いが、勤務先の協力を得られないことも多いね。次はバイクかな。自動車と比べて駐車スペースが少なく済むから。自動車は、公売ではなく、生活の足を奪うという目的で差押タイヤロックをするのが良いかな。それで、税金を完納すればタイヤロックを解除すると説明すると、意外とまとめて税金を払う人も多いんだよね。だったら、差押される前に払えと言いたい。不動産は、余程条件の良い土地・建物でないと売れないだろうな・・・。

 こんな感じで、滞納者の財産を全て差押・換価して滞納に充ててしまえば、当人は財産なしということになり、残った税金の滞納は執行停止で落として滞納整理は終了するわけである。もちろん、このようにすんなり滞納整理できるのは稀で、ほとんどは『財産を差押えられたら生活できない』とか『死んでしまう』とか『お前ら血も涙もないのか』などと抵抗されて、滞納整理はなかなか進まないんだけどね。

 そういう訳で、今日も徴収職員は命がけで滞納者の財産を差し押さえるのであった。


 ところで、徴収の仕事がそんなに嫌なら、公務員を辞めて別な仕事をすれば良いと言われるかもしれんが、ある本によると仕事(職)とは自ら選択しているようで、実は天が与えているものなのだそうだ。自分自身、『天』などという良く分からないものは信じていないが、ある職に就いたところで能力がなければ辞めることになるし、その職にふさわしい能力があれば働き続けられるのだから、ある人が就職活動をすれば、似たような職に落ち付くというのは事実なのであろう。つまり、俺が公務員にならなかったとしても、公益を重視する職に就くのは間違いないし、仮に別の時間線があったとしても、俺は公務員的な職に就いて、同じように精神的に参っているのだろうということである。

 だから、俺はこの戦国の世においても世のため人のため後世のため、心と身体の両面で骨を折って、職務に勉励するのだった。

戦争:第一次横浜城の戦い

年月日:永禄二年(1559年)九月十六日

場所:武蔵国横浜城

結果:長野軍の勝利


長野軍指導者・指揮官

長野右京進氏業、藤井孫蔵忠安、青柳弥左衛門忠勝、牛尾平八郎忠教、正木左近大夫時忠など

戦力:約2000

戦死:なし(怪我人:若干名)


北条軍指導者・指揮官

大石源三氏照、小幡上総介信貞など

戦力:約10000

戦死:約500

逃亡:約2000

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