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反逆の氏政

 永禄二年八月下旬、長尾景虎は八千の兵を率いて春日山城を出陣した。

 九月上旬、三国峠を越え上野国相俣(群馬県みなかみ町相俣)の日枝神社を参拝した際、景虎は春日山より持参した桜の鞭を逆さに挿し、もしこの桜が芽吹けば関東平定が成功すること間違いなしとして、希望を込めて占いをするのであった。果たして数年後、この桜は芽吹き、相俣のさかさザクラとして後世に言い伝えられるのであった。

 話を元に戻す。

 こうして上野国に侵攻した長尾景虎は、鎧袖一触で沼田城を落とすと、そのまま厩橋城を目指して南下した。

 すると、それを見た長野業政は厩橋城内で景虎に寝返ったため、城内に立てこもっていた福島孫一郎頼季・師岡山城守は支えきれず、城を明け渡して南方へ逃れるのであった。ちなみに、業政とともに厩橋城に籠城していた西上州の国人衆は、業政が寝返るや否や領地に逃げ帰ったのだが、氏康に箕輪城攻めを命じられると、箕輪城を遠巻きに包囲するだけで、自ら積極的に戦おうとはしないのだった。

 一方、景虎は厩橋城を関東侵攻の拠点に定めると、厩橋城を本格的に改修し、関東諸将が景虎の下へ結集するのを待つのであった。


 長尾景虎が瞬く間に沼田・厩橋城を落とし、長野業政が景虎に寝返ったことは、北条家にとってまさに衝撃であった。

 すぐさま善後策について話し合いの席が設けられたのだが、そこで一番の問題となったのが長野氏業の扱いについてであった。

『裏切り者の人質は即刻処刑すべし』と主張する氏政たちに対し、氏康は『処刑はいつでもできる。それより、手元に置いて業政の動きを牽制すべきではないか。なにより、この国の宝ともいえる氏業を、このようなことで失うわけにはいかん』と反論するのであった。

 いつまで議論をしても結論は出ないので、ひとまず休憩をはさんで多数決で決めることになった。氏政は大広間を出ると、密かに弟の氏照と小幡信貞に向けて合図を送るのであった。


◇北条氏康視点◇

 休憩の後に、評定が再開された。

 議題は長野氏業の扱いについてであるが、奴の功績については誰もが認めるところであるし、奴を生かしておくことで得られる利益についても皆は承知しているはず。わしは、氏業が処刑されるはずはないと確信していたのだが、評定衆全員が氏業の処刑に賛成という結果になった。これはおかしい。松田憲秀はともかくとして、評定衆の中には氏業のことを高く評価する大道寺政繫もいるのである。

 もしや・・・。氏政を見ると、背後に黒い炎が燃え上がっていた。

 これは、悪しき怨霊の力で評定衆を操ったということか。

「では、結論も出たことですし、父上の目の前で氏業の首を刎ねるとしましょう。あと、父上は御病気で判断力が鈍ってしまわれたようだ。そこで、父上には今を以って北条家当主から引退してもらおうと思うが、皆の意見はどうか」

「「「異議なし」」」

 評定衆全員が、氏政の意見に賛成した。

「それでは、父上には伊豆大島にてゆっくりと静養して頂くとしましょう。ああ、乙千代丸(北条氏邦)と孫次郎(松田康郷)も同行させるので、安心してください。では皆の者、氏業を血祭りに上げたら、横浜城攻めを開始するぞ」

 そう号令をかける氏政に対し、氏康は

「おぬしは、出来は良くないが、人の道だけは踏み外さないと思っておったのだがな。まさか、ここまで愚かだとは思わなかったぞ」

 そう言って、氏政を睨みつけるのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


永禄二年(1559年)9月15日 相模国小田原城人質の間


 俺が小田原城内に軟禁されてひと月が経過した。

 外部との連絡手段を俺から奪ったことで氏政たちは安心しているのであろうが、俺には念話の怨霊魔法があるからな。そういう訳で、俺は密かに孫蔵たちと連絡を取り、脱出の機会をうかがっていたのであった。

 そんなある日のこと、俺は評定の間へと呼び出された。

「もたもたするな。さっさと歩け」

 うーん、使い走りのくせに態度が悪いな。

 そんなことを思いつつ評定の間へ向かっていると、怨霊神業盛が現れ、俺にこう囁いた。

「氏業よ、城内の様子がおかしいぞ」

 たしかに、城内の至る所から邪悪な気配を感じるなあ。目の前の使い走りも、誰かに操られている感じがするし・・・。そこで、探知の怨霊魔法を発動してみると、本丸が例の黒炎で覆われている様子を感じ取ることができた。

 これは・・・、この小田原城は、既に悪しき怨霊の力の持ち主に支配されているということか。だとすると氏康が危ないし、それ以上に俺の命は風前の灯火ではないか。

 そこで、俺は念話を使って孫蔵たちに小田原城脱出の準備をさせる一方、目の前にいる使い走りに注意しながら評定の間へと入るのであった。

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