決戦、桶狭間の戦い
俺たちは東海道を東に進み、氏真の後を追う。
氏真にはすぐ追いついたが、その行く手には柴田勝家率いる五百の兵が立ちはだかっていた。柴田隊は、我々が義元本隊の救援に向かうのを妨げることに、全力を注いでいるようであった。こいつは間違いない。義元本陣は、確実に信長の奇襲を受けている。
そこで、俺は俺の騎兵二百だけで義元の救援に向かうこととし、氏真には井伊直親の兵と合流してから柴田隊を蹴散らして桶狭間に向かうよう伝えるが、氏真は『私も連れて行け』と言い張り、俺の言うことを聞かない。仕方がないので、この場は蒲原氏徳に任せるとして、俺は軍団強化の怨霊魔法で二百の騎兵を強化すると、今川氏真・井伊直盛とともに柴田隊を突破して桶狭間へと向かうのであった。
雨と雷はますます激しくなっている。
怨霊魔法で強化された我が軍は、矢のようなスピードで今川義元の下へと向かう。
桶狭間にたどり着いた時、既に義元本隊と信長軍との戦闘は始まっていた。
やべえ、義元本隊は切り崩されて、敗走しかかっているよ。
ええい、義元はどこだ。雨がひどくて良く見えんな。
すると、氏真が『父上!』と叫んで織田軍へ突撃した。井伊直盛たちもその後を追う。
氏真の目指す方向を見ると、今まさに義元が討ち取られようとしている所であった。
「ウインドカッター、ウインドストーム」
俺は、駆けながら怨霊魔法を連発し、義元に群がる織田軍の兵を蹴散らした。
『やはり戦場は良いな。どれ、我も手助けしてやろう。吹き荒べ、暴風』
頼んでもいないのに、怨霊神業盛も怨霊魔法を繰り出して、周囲の織田軍を吹き飛ばしまくっている。
「「さすが氏業様!!」」
なんて声が周囲から上がるが、気にしている余裕はない。
俺と怨霊神が周囲の織田軍を追い払っていると、間もなく氏真・直盛らは義元の下へ到着した。
「戦闘は、私と氏業に任せ、父上は後方にて戦の推移を見守っていてください」
氏真は、直盛に義元の護衛を任せると、今川軍の先頭に立って織田軍へと突撃するのであった。
「まさか、あれほどまでに息子が頼もしく見えるとはな。子は、親の知らぬうちに成長しているということか」
「まことに、その通りですな」
義元と直盛は、氏真の成長に安堵するのであった。
一方、義元を討ち取るという絶好のチャンスを奪われた信長は、忌々しげに俺にこう言うのであった。
「氏業よ、何故わしの邪魔をする。北条家にとっても、今川家は邪魔な存在ではないのか?」
その信長の言葉に対し、
「私は、今川家の援軍としてこの場にいるのです。義元様をお助けするのは当然ではありませんか」
俺はそう言うと、信長に怨霊魔法をお見舞いするのであった。
「敵は少ないぞ。戦はまだこれからだ」
味方を鼓舞する信長に対して、俺はひたすら怨霊魔法による遠距離攻撃で対応した。
今回の戦は、蒲原氏徳・井伊直親らの援軍が到着するまで持ちこたえられるかにかかっている。援軍さえ到着すれば、我らは信長を包囲して討ち取ることも可能となるのである。ここは、とにかく兵の損失を避けることを最優先とし、怨霊魔法で時間稼ぎをするとしよう。
ということで、織田軍が義元に近づけないよう、ウインドストームでひたすら織田の兵を吹き飛ばし続けた。信長は、非常に厳しい顔をしているね。まあ、義元を討てると思ったところで横槍が入って、今まさに戦況は悪化している最中だからね。
そうこうしているうちに、蒲原氏徳・井伊直親らの援軍が桶狭間に到着した。信長にとっては、悪夢というより他は無いな。
蒲原氏徳は、援軍の指揮を直親に任せると、自らは少数の兵とともに義元の護衛に就くのであった。
やった。ついに歴史が変わるぞ。
ピカッ、バリバリバリッ。
雷が近くに落ちたな。
「義元様、大木から離れて身を低くしてください。雷に打たれるかもしれませぬ・・・!?」
バリバリバリッ、ズドーン。
義元たちが雨宿りをしている大木に雷が落ちた。
今川義元・井伊直盛・蒲原氏徳は雷に打たれて死亡した。
「「父(義父)上―!」」
今川氏真・井伊直親の声が戦場に響く。
「そんな馬鹿な。今、まさに信長を討ち取ろうとしていたところなのに。父上が死んでしまったら、いったい私はどうすれば良いのですか。うおー」
氏真の悲痛な叫びが、桶狭間山に木霊した。
◇小幡信貞視点◇
信長本隊二千を桶狭間まで道案内した俺は、少数の家臣らとともに戦の様子が見やすいよう木の上へと移動する。
おう、早速信長の攻撃が始まったか。激しい雷雨の中での奇襲に加え、今川軍の一部は眠り薬入りの酒や食べ物を食べているからな。今川軍の混乱している様子が、良く見えるぞ。
よし、今川義元を守る旗本たちも順調に数を減らし、今は五十人程度といったところか。
信長親衛隊が義元に迫る。ついに、義元をやったか。その時、信長親衛隊が何らかの力によって吹き飛ばされた。
いったい何事かと思い、戦場に目を凝らすと、そこに現れたのは長野氏業とその騎馬隊二百ほどであった。
また氏業か。せっかく上手くいっていたところを邪魔しやがって。まったくもって忌々しい。氏業に対する憎しみの心が増していくぞ。
信長は包囲して義元を討とうとするが、氏業は怨霊の力で織田軍の兵を吹き飛ばしている。そうこうしているうちに、今川軍の援軍二千弱が到着し、織田軍は逆包囲されてしまった。この戦いは信長の負けだ。ちくしょう、あまり気は進まないがやるしかないか。それもこれも全部氏業のせいだ。氏業に対する憎しみの心を景清の太刀に乗せる。怨霊の力が太刀に充填されたのを見計らい、その力を解放した。
「唸れ、怨霊の力。轟け、いかづち!!」
バリバリバリッ、ズドーン。
義元たちが雨宿りをしている大木に雷が落ち、今川義元・井伊直盛・蒲原氏徳は雷に打たれて死亡した。
くーっ、かなりの生命力を持っていかれたな。力が抜けて眩暈がするわ。だが、今川家を弱めるために、もうひと仕事せねばならんのだ。
「お前ら、かねてからの打ち合わせ通り、すぐさま駿府へ向かうぞ」
「ははっ、承知致しております」
こうして、今川義元の息の根を止めたオレは、家臣たちとともに駿府へと急ぐのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇




