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反射炉を作ろう

 こんな感じで蒸気機関の模型を再現できたので、順番が逆かもしれないが、ついでに反射炉も作ることにしたよ。幕末に韮山反射炉を造った時は、総工費・諸経費合わせて七千三百十一両(約9億円)掛かったらしいが、こいつが完成すれば鋼鉄製の大砲や鉄砲を大量生産できるようになるね。

 えーと、反射炉を建造するには、まず氏康に話を通さないといけないかな。そこで、早速小田原に行って、氏康に反射炉の築造許可申請書を提出すると、呆気ないくらいすんなり許可が下りた。一応、鋳造法で製造した鉄砲を北条家にも提供するという条件は付けられたけどね。

 まあ、ともかく『反射炉建設の御用を仰せ付ける』との辞令を受け取ったので、早速俺は耐火煉瓦の製造を始めることにした。

 韮山反射炉では、梨本村(静岡県賀茂郡河津町梨本)の白色粘土で耐火煉瓦を作っていたと本に書かれていたので、まずはその白色粘土運搬の手はずを整えてから、俺は横浜に帰って反射炉建設に着手するのであった。

 帰って早々、俺は怨霊魔法リコールで耐火煉瓦の製造方法を思い出すことにした。

 えー、耐火煉瓦は、梨本村の白色粘土を焼いて粉末にしたものを、再度生粘土と練り合わせて、四角に成型して焼き上げるものらしい。なかなか面倒くさいが、こうしないと1700度の熱に耐えられないというのだからしょうがない。流民どもを集めて、大量の耐火煉瓦を作らせることにしたのだが、反射炉の建設に9億円掛かるのか。・・・無理じゃね、ということで三分の一サイズのミニチュア版反射炉を作ることにしたよ。これなら3300万円くらいでできるんじゃないかな(縦×横×高さを1/3にしたので、予算は1/3×1/3×1/3=1/27となる)。江川太郎左衛門(韮山代官で韮山反射炉を作った人)も、三分の一サイズの実験炉を造って鉄鉱石や銑鉄の溶解実験を行ったらしいからね。尤も、この時は思ったように温度が上がらず、鉄鉱石や銑鉄は溶けなかったそうだが、我に秘策ありってね。とりあえず、三分の一サイズの実験炉で鋳造製の鉄砲を作ってみて、上手くいくようなら氏康から金を貰って原寸大の反射炉を造ることにしよう。

 そして、大工に設計図を渡して待つこと3か月、ようやく三分の一サイズのミニチュア版反射炉が完成した。いくらミニチュア版といっても、高さ5m20㎝、面積10㎡だから、かなりの大きさだね。

 早速、炉の内部に銑鉄と燃料の石炭・木炭を配置して燃料を燃焼させてみたのだが、やはり思うように炉内の温度は上がらないようだ。江川太郎左衛門はここで諦め、『オランダの書物が示す通り、原寸大で造らねばならぬ』ということになったが、俺には怨霊魔法があるからね。そこで、風の怨霊魔法を用いて下焚口シタタキグチから炉内に大量の酸素を送り込んでやると、瞬く間に炉内の温度は上昇し、無事銑鉄は溶解したのであった。

 後は、鋳物職人の出番かな。溶解した鉄を鋳型に流し込んで成形すれば、あっという間に銃身の完成なのだが、弾道を繰り抜く方法については、専門家に任せることにするよ。俺としては、中子ナカゴを使ってあらかじめ弾道を空けておいて、あとで鋼の錐を用いて仕上げるのが良いと思うんだけど、どうだろうか。

 そんな感じで、鋳物職人に鋳造製の鉄砲を造らせていたのだが、ここで一つ問題が発生した。銃身に穴を空ける際に使用する細長い中子がすぐ折れて、使い物にならないとのこと。

 青銅砲でも中子を使っていたんじゃないかと思い、その点について確認すると、大砲の穴は鉄砲より太いので問題にならなかったのだそうだ。であれば、中子の材料に問題があるのかと思い、鋳物職人に確認すると、川砂にコークスと粘土を混ぜて焼き固めたものを使っているとのこと。そこで、浜砂に桐油を混ぜたもので油中子を作り、それを陶器用の焼成炉で焼くのはどうかとアドバイスした。まあ、配合割合は職人に任せたけれど、試行錯誤の末、実用に耐えられる中子の製造に成功したのは重畳であった。

 こうして、散々苦労して造った鋳造製の鉄砲を小田原城に持っていくと、氏康は大層喜んだよ。何しろ、今までより性能の良い鉄砲が、より早く、より安く造れるようになったのだからね。

 こうして、俺は氏康から予算をふんだくると、横浜の地に原寸大の反射炉を建造するのであった。


 そうそう、俺は職人や家臣たちに仕事を任せる際は、必ず目的を説明するようにしているよ。石鹸の製造は感染症対策のためとか、様々な商品を開発・販売するのは民を豊かにするためとか、武器や蒸気機関を造るのは民の安全を守るため、といった感じにね。

 この時代では、黙って上司の言うことを聞けというのが一般的なのだろうが、それはパワハラだし、なにより部下のやる気が一向に高まらないからね。孔子も、『君子は配下の人々の信頼を得てから、その人々を使役する。信頼を得ないうちに人々を働かせると、人々は自分たちを苦しめ、悩ませる上司と考えてしまう』と言っているしね(論語:子張第十九の十)。

 多分、人が仕事をする場合、金より『やりがい』というか、自分の仕事が世の中の役に立っていると思えることの方が重要なんじゃないかな。ここ重要なので繰り返すが、どれほど労働条件を良くしようと、自分のやっていることは正しい、世のため人のために役立っていると確信できない限り、人々は意欲的に誇りをもって働くことができないんじゃないかなと思っている。

 ということで、俺はこれからも部下には説明を尽くしたうえで、納得して仕事をしてもらうことにするよ。

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