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第8章 弘治三年みかじりの戦い

主な登場人物

長野新五郎氏業→長野右京進氏業(14歳):本作品の主人公。

怨霊神業盛:主人公を長野氏業に転生させた張本人。

藤(12歳):長野氏業の婚約者。大石定久の娘。

菖蒲(24歳):藤の侍女でくのいち。

長野信濃守業政(67歳):上野国箕輪城主。長野氏業の父。

藤井孫蔵忠安(20代前半):長野氏業の側近その1。石鹸担当。

青柳弥左衛門忠勝(20代前半):長野氏業の側近その2。ガラス担当。

牛尾平八郎忠教(20代前半):長野氏業の側近その3。硝石担当。

白川五郎光一(40代):普請奉行。

安藤九郎左衛門忠義:勘定奉行。

下田右馬允善春:勘定奉行補佐。

長野業勝:治安維持担当。

正木左近大夫時忠(37歳):軍事訓練担当。

倉賀野左衛門五郎忠信:箕輪城と横浜城間の物流担当。

堀口新兵衛:長野家の御用商人。

宇野家治:小田原商人。当主の指示で、箕輪城と横浜城に支店を出している。

成重:箕輪城下の鍛冶職人。

守重・守次・守行(全員10代):横浜城下の鍛冶職人。成重の甥。


北条氏康(43歳):後北条家第三代当主。

北条氏政(20歳):北条氏康の嫡男。優柔不断。

大石氏照(16歳):北条氏康の三男。武闘派。

北条氏規(13歳):北条氏康の四男。現在は今川家にいる。

北条乙千代丸(氏邦)(10歳):北条氏康の五男。外交派。


武田晴信(37歳):甲斐武田家第十九代当主。

小幡信貞(18歳):長野氏業の甥。

 春日山で景虎と別れた俺たちは、三国街道を通って上越国境を越え、小田原城へと帰還した。

 なお、今回は氏政が一緒だったので、待たされることもなく、すぐ氏康に面会できたよ。

 氏康は、俺達にねぎらいの言葉をかけると、足利将軍家から届いた書状を俺と氏政に渡した。書状には、『在原氏業を従六位下・右京進に任ずる』と書かれていた。ちなみに、氏政は従五位下・相模守ね。一応、源頼朝公以来、武家の官位は将軍を通じて授与されるきまりなので、こういう形になったのだそうだ。

 それじゃあ、朝廷だけでなく、将軍家にも礼をしなければならないが、何を贈れば良いかな・・・。そうだ、ちょうど良いものがあるではないか。ということで、景虎から貰った越後布を朝廷と将軍家に献上するのはどうかと提案すると、その案はすぐさま氏康・氏政両名に却下された。

「おぬしは既に臭水の精製方法を公開したのだから、これ以上何も出す必要はない」

 というのが氏康の意見で、

「私は越後で何もできなかった。だから、越後布は全ておぬしの物にするがよい」

 というのが氏政の意見であった。

 まあ、全部くれるというなら、ありがたく貰っておくことにするよ。


 官位のことはひとまず終わりにして、氏康には越後で起きた出来事を報告することにした。まず、景虎との会談の内容について話をしたが、南蛮諸国の話に差し掛かると、氏康は顔色を変えた。後日、世界地図の提出と、知っていることを洗いざらい白状するよう氏康に念を押されてから、俺は報告を再開する。尼瀬でランビキを用いた臭水の精製方法を教え、景虎に汚染の除去を押し付けられたことや、景虎に別れの挨拶をするときに北条家と長尾家の和睦の条件について尋ねたことを伝えると、氏康は氏政に『氏業の話した内容に間違いはないか』と問いかけた。

 氏政が、『間違いございません』と答えると、氏康は俺に向かって『愚息の至らぬところを補うだけでなく、景虎の本音も聞き出してくれたことに感謝する』と言って頭を下げた。

 当主自ら家臣に頭を下げるとは・・・。俺は慌てて、『こちらこそ、差し出がましいことをしてしまい申し訳ございません』と氏康に謝るが、

「なんの、『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』と言うではないか。景虎が、話の通じる相手だとわかったことが重要なのだ。それにしても、和睦の条件が関東管領就任を認めることと、上野国の割譲か。どいつもこいつも上野、上野と言いおって。まったくもって忌々しい」

 と、氏康は答えた。

 どいつもこいつもと言うからには、景虎以外にも上野国をよこせと言ってきた奴がいるということか。そして、それに当てはまるのは地理的に見て一人しかいないね。

 氏康は、晴信が信濃の山賊・盗賊・野武士集団をわざと上信国境に追いやり、上州に被害が集中するよう誘導しているのではないか。そして、上州の山賊掃討に武田軍が協力することを口実に、西上州を奪い取ろうとしているのではないか、ということを俺たちに話した。

 氏政は、『盗人猛々しいとは正にこのことだ』と憤っているが、証拠がないんだよね。

 頭領と思われる鉄仮面を被った山賊を捕まえれば何かわかるかもしれんが、やたらと逃げ足が速くて、捕らえることができないそうだ。

 であれば、一時的に大軍を動員して、鉄仮面もろとも山賊を討ち果たせばよいと思うのだが、そうもいかないらしい。なぜなら、下野国では壬生綱雄が、常陸国では佐竹義昭が蜂起し、さらに安房の里見家も両者に呼応する動きを見せていたため、それらにも対処する必要があったからだ。ちなみに、正月にも多少話に上った一向門徒は、壬生と佐竹を誘って北条家に対抗するつもりであったが、武田晴信の介入で一揆を取り止めたため、梯子を外された壬生と佐竹が怒って一向門徒から武器と兵糧を奪い、そのまま領土拡大に打って出たようだ。何だか、ややこしいね。

 とにかく、今は非常時である。氏康・氏政は、大至急下野国に出陣せねばならぬというので、俺も速やかに横浜城へ戻り、出陣の準備を始めるのであった。


◇北条氏康と氏政◇

「のう氏政よ。おぬしが此度の越後行きで何を見聞してきたのか、わしに話してみるがよい」

「父上、私は長尾景虎が恐ろしくてなりません。あの気迫に頭の回転の速さ。景虎こそ、まさに大天才というべき人物ではないでしょうか」

「そうか。景虎は大天才か。では、おぬしはその大天才にどう対処するのか」

「私が景虎とまともに戦えば、必ず負けるでしょう。ですので、景虎とは面と向かって戦わないようにしたいと思います。それでも戦わねばならなくなったら、景虎を長期に渡って小田原城に釘付けにした上で、別動隊を用いて補給を断ち、敵を自滅に導きます。であれば、例え戦いで負けたとしても、最後の勝利者は私となるでしょう。伊豆の鉱山から採掘した金銀を用いて、小田原城を城下町ごと城壁で囲んだ総構えの城にしたいと思います。城壁の上には投石機と鉄砲隊を配置し、城に近づく敵は一人残らず討ち果たして御覧に入れましょう」

「まあ、おぬしが熟考して出した結論がそうであれば、わしは何も言わん。他に、何か気になったことはあるか?」

「はい、氏業のことにございます。景虎のことは大天才だと分かるのですが、氏業は意味不明です。我々とは別の生き物のように思えます。天才に良く見られる、論理の飛躍という訳でもないようです。正直、景虎以上に恐ろしく感じます」

「確かに、氏業は我々とは全く思考回路が異なるようじゃな。実際、理解できぬものは恐ろしく感じるが、奴は今のところは北条家のために働いてくれている味方だ。しかも、奴のことは周辺大名だけでなく朝廷も注目し始めておるからな、下手に手出しもできん。とりあえず、今は少しでも多くの情報を、奴から引き出すのが良いのではないか?」

「父上がそうおっしゃるのであれば、私も従いましょう」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


◇小幡信貞視点◇

 オレは、昨年末から山賊を率いて西上州の村々を略奪して回っているが、これほど自分に合った仕事を今までにしたことがない。やはり、欲しいものは他人から奪うのが一番だな。

 上州の国人衆も、兵を動員して守りを固めているが、怨霊の力を使いこなすオレにとって、守りの薄い所を攻めることなど造作もないこと。今回も、各地に飛ばしているカラスの眼を通じて、上州の兵が攻めてくる様子を確認できた。

 それでは、怨霊の力で移動速度を強化して、さっさと安全な場所に退散することにしよう。

 ここにいる山賊全員を強化すると、結構生命力を吸い取られるからな。怨霊の種を植え付けている山賊の頭領たちに各々の部下を強化させる方が、オレの負担が少なくなるのだろうか?まあ、あとで色々と実験してみることにしよう。

 略奪で得た金銀・食糧・女は、山賊連中に惜しみなく与えているので、皆喜んでオレのために働いてくれている。

 つい先日、御屋形様から壬生と佐竹が蜂起したとの報告を受けた。

 報告の使者である内藤昌豊と真田信綱は、騎兵十騎とともにここに残るらしい。要するに軍監ということだな。武田家の名だたる名臣たちよりもオレの方が怨霊の力を使いこなしているのだから、御屋形様も全てオレに任せれば良いものを。うーん、もっと御屋形様に信用してもらえるよう努力せねばいかんということなのか。

 いずれにせよ、西上州に攻め込むにはちょうど良い頃合いである。

 御屋形様の下で武勲を積み、いずれは日ノ本一の大将になって見せよう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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