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8話 諦めないよ

 …楽しい。毎日が楽しすぎる。ダートフォード・シティに来て約2か月。俺は今まで経験したことがないような充実した毎日を過ごしていた。


 毎朝レイチェルと一緒に朝食をとる。日中はレイチェルと一緒に仕事に出かけるか、ホテルでまったり過ごす。夕飯もほぼ毎日レイチェルと一緒で、その後はしばらくレイチェルとお話をしてからお互いの部屋で眠りにつく。


 …そう、俺は今、毎日「おはよう」から「おやすみ」までレイチェルと一緒に過ごしている。1日で終わらないクエストを受注した時なんかはもっとすごくて、それこそ24時間レイチェルと一緒に行動している。


 俺の人生、もうすべて成し遂げた感があるね。そしてこの幸せな毎日がやってきたのはきっと俺の普段の行いがよかったからだ。真面目に生きてきた今までの俺、えらい!


 ちなみに俺とアーロンがレイチェルやクリスと同じホテルに長期宿泊の予約をとっていると伝えた時、二人は少し驚いた顔をしていた。


 「やべぇ、ストーカーなのがバレたか」と一瞬焦ったが、二人はそれについて特に何も質問をしてきたりはしなかった。


 むしろ自分たちが貸し切りにしている最上階に前のメンバーが使っていた部屋が空いているから、その部屋に移ってはどうかと提案してくれた。


 …慈愛の女神たちかな?もちろん食い気味で承諾してやった。


 冒険者としてもこの2か月でかなり成長できたことを実感できている。もちろんそれもレイチェルのおかげである。


 どうやら俺たちが合流してから彼女たちは案件の収益性を度外視して、俺たちが様々な経験をすることができてかつ命の危険が迫る可能性は低いクエストだけを受注するようにしているらしい。ちなみにこれはクリスからの情報ね。


 クリスは「過保護すぎない?二人とも十分強いんだから、前と同レベルの案件で良いじゃん。どうせ冒険者なんて毎日が命がけなんだし」という意見だけど、レイチェルの強い意向でこの2か月は「俺とアーロンの安全な成長」のための案件だけを受注していると。


 やっぱり慈愛の女神なんだよなぁ。でもなんか申し訳ないわ。もっと早く成長して、レイチェルが安心して高難易度のクエストを受注できるようにしないと。


 …もっと頑張ろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 レイチェルが尊い。


 幼少期に好きだった相手と大人になってから再会すると相手に幻滅することもあるって前に誰かから聞いたけど、全然そんなことはなかった。


 …いやまあ、俺はまだ「大人」にはなってないけどさ。


 もうね、すべてが可愛い。彼女に惚れ直すのが毎日のルーティンになってしまっている。存在自体が奇跡。生きててくれてありがとう…!


 俺って自分の気持ちを隠すことをあまりしない&できないタイプで、基本的に思っていることをストレートに口にする人間なんだよね。


 だからレイチェルにも自分が彼女に対して思っていることを割とそのまま伝えているわけですよ。


 そしたら彼女、まるで初心な少女のような反応をするんだよね。顔を赤らめて視線を逸らしたり、少し困ったような笑顔で無言になっちゃったり、消え入りそうな声で「ありがとう」って返事してくれたり。


 いや何それ。反則だろ。見た目は「少し冷たそうな印象の、大人の色気漂うお姉さん」なんだよ。しかもどこか威圧感のあるオーラが全身からにじみ出ていることもあって、相当近寄りがたい雰囲気の人なんだ。


 そんな彼女が俺だけに見せてくれる一面がある。しかもその一面が超可愛いときた。いやもう必殺技だよね。抗えないよね。即落ちするよね。限界化するよね…!


 とまあ、こんな感じの幸せな毎日を過ごしているうちに、いよいよ俺は行動を起こさずにはいられないほど追い込まれてしまった。良い意味でね。


 だからアーロンと二人で作戦会議を行った俺は、ある日のクエスト帰りに自然な形で彼女をとっておきの場所にエスコートした。


 こういうこともあろうかと思って、彼女たちと合流する前にダートフォード周辺の雰囲気の良さそうな場所は徹底的に調べて把握しておいたんだよね。やっぱ事前準備大事!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺とレイチェルは無言で夕焼けに染まるダートフォード・シティを見下ろしていた。風が気持ち良い、景色も素晴らしい。うん、ここをチョイスしてよかった。


 アーロンはクリスと二人ですでにホテルに戻っているか、それとも二人で俺たちと同じようなことをしているはずである。


 最近のアーロンとクリスって相思相愛感がすごいんだよね。正式な交際に発展するのはもはや時間の問題と思われる。


 全体的にモノトーンな感じのクール系の腹黒執事と燃えるような赤髪が印象的な華やかな冒険者さん。確かに大変お似合いだと思う。だいぶ気が早いけど、どうぞ末永くお幸せに。


 …俺も頑張らないとな。


「そろそろ本題に入ろうと思うんだけどさ」

「…うん」

「もう知ってるとは思うけどさ…」

「……」


 ふぅ…さすがに緊張するな。一度深呼吸をして…!


「…あなたのことが好きです。僕と付き合っていただけませんか」


 どうか…どうかYesと言ってくれ!


「……冗談、とかじゃないよね。たぶん」

「もちろん。冗談なんかじゃないことはレイチェルも分かってくれてるはず」

「…うん、わかってる」


 二人の間に少し気まずい空気の沈黙の時間が訪れた。そして…


「ごめんなさい」


 …

 ……

 ……そっか。ダメか。


 彼女は言葉を選びながら自分の気持ちを説明してくれた。好きになってくれたことはとても嬉しく思っているけど、やはり12歳も年下の俺を恋愛対象としては見ていないし、おそらくこれからも見られないと。


 なるほど。年齢差ねぇ…。


「うん、レイチェルの今の気持ちはよくわかった。俺の気持ちを真剣に受け止めてくれてありがとう」

「…こちらこそありがとう。ごめんね」


 まあ、確かに年齢差が理由ならどうしようもない。できることなら30年前にさかのぼって強引に生まれ変わりたいものだけど、そんなことはできるはずもないしな。でもね…


「でも俺、諦めないから」


 少し驚いた顔をするレイチェル。


「絶対振り向いてもらえるように頑張る。いつか必ず俺のことを好きになってもらうから。だから明日からもよろしく」

「…えーっとさ、さっきの私の話、ちゃんと聞いてた?私の気持ちはたぶん、今後も変わらないよ…?」


 もちろん聞いてたよ。でも未来のことなんて誰にも分からないだろ?


「大丈夫、もちろんちゃんと聞いてたよ。でもその「今後の変わらない」というところ含めて、レイチェルの「今の気持ち」でしょう?…そこは、ほら。変わってもらうから。てか変えてみせるし」

「……」

「ということで、そろそろ帰ろうか」

「…あ、うん。そうだね…」


 歩き出したレイチェルは、少し困ったような引きつった表情をしていた。そんな顔も最高に綺麗なんだよなぁ…。何をしても綺麗すぎてこっちが困るわ。

…そう、私は今、毎日「おはよう」から「おやすみ」まで読者様にブックマークと☆評価をおねだりしている。

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