7話 告白されました
ダミアンやアーロンくんと一緒に仕事をするようになって2か月、二人はものすごいスピードで成長していた。もう二人から「経験不足から来る危うさ」を感じることはほとんどない。
そして私は彼らのことを「ダミアン」、「アーロンくん」と呼ぶようになった。私は少なくとも期間限定のお試し期間である3か月の間は名字+さん付けで呼ぼうとしていたのだけど…
全員から「堅い」「他人行儀で寂しい」「命を預け合う仲になったのにそれはない」とクレームが届き、調整の結果「ダミアン」と「アーロンくん」で落ち着いた。
最近の若者のコミュニケーション能力ってすごいよ…。
なぜダミアンは呼び捨てでアーロンくんはそうじゃないのかというと、理由は簡単。アーロンくんも私のことを呼び捨てではなく「レイチェルさん」と呼ぶから。
そして一つ分かったのが、アーロンくんはクールで知的な見た目と雰囲気からは想像できないほどお茶目でノリの良い人だということだった。たぶん表現の仕方が違うだけで、本質的にはダミアンとよく似た感じの陽気な性格なんだと思う。
たとえば彼が私たちを呼び捨てにしない理由は「僕はキャラを作っていますので。敬語とさん付けの方が僕の外見や雰囲気には合うでしょ?」とのことだった。
ついでに「そしてこのキャラの僕が、ある日突然名前を呼び捨てにしながらキスでも迫ったらドキっとすると思いません?俺が名前を呼び捨てにするのは、お前だけだよ…とか言いながらね」とも言っていた。
そしてその話題の最後には「あ、今のはクリスさんには言わないでくださいね。然るべき時にクリスさんに使わせていただこうと思っているので」と言いながら悪戯っぽく笑っていた。
…ぜひ使ってあげてください。とても喜ぶと思います。
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そしてダミアンの方は…うん、なんというかね。正直少し困っている。初対面の時から彼はやたらと私に好意的だったので、たぶん慕ってくれているんだろうなということは分かっていたけど…。
最初は冒険者としての私の実績や能力に憧れているのかと思っていた。本人もそんなことを言ってたしね。
でも2か月間、彼と一緒に過ごした感想は…たぶん違う。彼が私にぶつけてくる感情はほぼ間違いなく恋愛対象に対する好意である。
しかもその伝え方があまりにもストレートだから対応に困るというか、どうすれば良いか分からなくなるんだよね。流すこともかわすこともできないような感じでむき出しの好意をぶつけてくるから。
どんなことをされているのかって?そうだね…言うのも恥ずかしいんだけど、たとえば暇さえあれば褒められるか、感謝されている。
「今日も最高に綺麗」とか「何度見ても飽きない」とか「なんでそんなに可愛いの?」とか「一緒に戦ってくれてありがとう」とか「生きててくれてありがとう」とか…。
それも冗談っぽい感じじゃなくて、真っすぐ私の目を見ながら真剣な顔で言ってくるんだよね…。私、どんなリアクションすれば良いのさ…。
あとは戦闘時の過保護。私たちのパーティーはダミアンとアーロンくんが前衛で、クリスが後衛、私がその間に入って臨機応変に動くというスタイルで戦っているんだけど…。
ダミアンが常に「私を守る」ことを最優先に動いていて、私に近づこうとするモンスターから討ち取るものだから、最近は私が前衛に合流して戦う場面が日に日に少なくなっている。
一応私、世界トップ5に入る実力だって言われている魔導士で、接近戦も割とできる子なんだけどなぁ…。いやまあ、もちろん気持ちは嬉しいけどね。
正直、ダミアンのような人とは今まで出会ったことがない。私、顔立ち自体はそれなりに整っている方だとは思うけど、すごい美人という訳ではないんだよね。しかも相当な悪役顔なんだ。たぶん「悪の教団の女幹部」のようなイメージ。
それに近寄りがたい感じの冷たそうなオーラも出ているみたいだし、魔導士・冒険者としてかなり名が売れているということもあって、今まで積極的に私に近づこうとする男はほとんどいなかった。
で、私自身、男性との交際とか結婚にあまり興味がなくて、その状況を心地よく感じていたし、あえて近づきにくい雰囲気を演出していた部分もあるんだよね…。
だからダミアンのようにグイグイ来る相手に対して、何をどう対処したら良いのかが正直全く分からない。
…12歳年下の少年に翻弄される大人の女(27)。なんかちょっと悲しくなってきた。
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そんなある日のクエスト帰り。私とダミアンは二人で街外れの小高い丘に来ていた。流れが自然すぎていつの間にかアーロンくんやクリスと別行動になっていたことに気づかなかったよ。
…最近はアーロンくんとクリスが二人で行動して、ダミアンと私がペアになることが多くなっていたしね。
私がいつの間にかダミアンにエスコートされて連れてこられたのは、夕焼けに染まるダートフォード・シティが一望できる、とても見晴らしの良い場所だった。風が気持ち良い…。
こんな場所、良く知ってるね。私なんかダートフォードに1年以上住んでるのにこんな場所があるって知らなかったよ。
しばらく他愛もない話をしていた私たちは、気がついたら無言で街を見下ろしていた。本当、素敵な場所…。
「そろそろ本題に入ろうと思うんだけどさ」
「…うん」
そっか…。本題があるわけね。…だと思った。じゃないとわざわざこんな場所に連れてこないよね。そしてこの「本題」というのはおそらく…。
「もう知ってるとは思うけどさ…」
「……」
「…あなたのことが好きです。僕と付き合っていただけませんか」
だよね…。この流れで「本題」といえばそれしかないよね。
「……冗談、とかじゃないよね。たぶん」
「もちろん。冗談なんかじゃないことはレイチェルも分かってくれてるはず」
「…うん、わかってる」
だよね…。冗談なんかじゃないということは、本当は私が一番よくわかっている。本当ありがたい話だし、素直に嬉しいと思う。でもね…
「ごめんなさい」
私はダミアンに頭を下げた。そして自分の素直な気持ちを彼に伝えた。
好きになってくれたことはとても嬉しく思っているけど、やはり12歳も年下の彼を恋愛対象としては見ていないし、これからも見られないと。
私の話を黙って聞いてくれていたダミアンは…
「うん、レイチェルの今の気持ちはよくわかった。俺の気持ちを真剣に受け止めてくれてありがとう」
「…こちらこそありがとう。ごめんね」
納得してもらえてよかった。やっぱダミアンって年齢を考えると精神的に相当成熟しているね。15歳の若さで冒険者として活動しているだけあるわ。
「でも俺、諦めないから」
…えっ?
「絶対振り向いてもらえるように頑張る。いつか必ず俺のことを好きになってもらうから。だから明日からもよろしく」
「…えーっとさ、さっきの私の話、ちゃんと聞いてた?私の気持ちはたぶん、今後も変わらないよ…?」
「大丈夫、もちろんちゃんと聞いてたよ。でもその「今後の変わらない」というところ含めて、レイチェルの「今の気持ち」でしょう?…そこは、ほら。変わってもらうから。てか変えてみせるし」
「……」
「ということで、そろそろ帰ろうか」
「…あ、うん。そうだね…」
いやあの…なんというか…。うん。
私、もしかして結構ヤバい子に好かれちゃった…?
この作品の作者にどんなことをされているのかって?そうだね…言うのも恥ずかしいんだけど、たとえば暇さえあればブックマークか、☆評価をおねだりされている。