6話 なんとか説得できた
「あたしはもちろんOKだよ。こっちからお願いしたいくらい」
「よっしゃ!!」
「ありがとうございます」
そうだろう、そうだろう!さすが超一流のスナイパー、クリスティーン・ニコルズ様。素晴らしい状況判断能力でございます。
感動の再会から1週間後、俺とアーロンの「試験」の結果について話し合うために、俺たちはまた4人でホテルのラウンジに集まっていた。
ちなみにこの「試験」というのは俺とアーロンが彼女たちのパーティーメンバーに相応しいかどうかを判断するために実施した、ちょっとしたデモンストレーションである。
世界トップレベルの冒険者である二人に対して、先日冒険者登録をしたばかりのド新人冒険者の俺たちが「一緒に仕事がしたい」と申し出ているわけだからね。そりゃ自分の力を証明しないと相手にしてもらえないわけですよ。
門前払いせずに自分たちの実力を証明するチャンスをくれているという事実からも、レイチェルさんとクリスさんがいかに合理的で偏見のない人たちなのかがよく分かる。やっぱ女神だな、うん。
ちなみに試験の内容は、俺とアーロンが彼女たちの前で手合わせをしてみせることが一次試験で、その後、彼女たちと一緒にクエストを受けてみることが二次試験だった。
で、昨日無事に二次試験まで終了して、今クリスさんから無事合格判定をいただいた訳です。
いや、順調!すべてが計画通りに進んでいてニヤニヤしてしまうわ。これはたぶん、そう遠くない将来に結婚だな。
ちょっと気が早すぎるか…?
……うん、そうだね。とりあえず今はレイチェルさんの採点結果を聞かなければ。何事も焦らず一歩ずつ進んでいくことが大事だからな。
「レイチェルさんはどうですか?」
もちろんYesだよね?OKだよね?自分で言うのもあれだけど、俺とアーロンってレイチェルさんたちのパーティーに欠けている部分を完璧に補える人材だと思うんだ。
さあ、Yesと言ってくれ。「よろしくお願いします」と言ってくれ。俺はもう準備ができている。「こちらこそ(これから一生)よろしくお願いします」という返事をする準備がね…!
「ごめんなさい。私はやっぱりYesとはいえないかな…」
「……」
「…えっ、なんで?」
えっ、なんで?どうして!?というかそれはいけない。よくないよ!今すぐ再検討して。即刻考え直して!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レイチェルさんは不合格判定の理由について丁寧に説明してくれた。
俺たちが相当な実力を持っていることはよく分かったけど、一緒にクエストを受けてみて、彼女は俺たちの動きから実戦経験不足による少しの危うさを感じたらしい。
そしてどんなに実力があったとしても実戦経験に乏しい以上、いきなり俺たちを高難易度のクエストに参加させるわけにはいかないと考えていると。
俺たちのためにしばらくは今より難易度低めのクエストを受注して仕事をしていくことも考えられなくはないが、それは彼女がしたくないということも正直に言ってくれた。
あと、俺たちの冒険者としてのキャリアを考えても、いきなり自分たちのような有名冒険者と組むよりも、まずは同じような経歴の冒険者同士で仕事をして一歩ずつ成長していった方が良いと思っているとのことだった。
その方が間違いなくより完成度の高い冒険者への成長につながるから。
確かにおっしゃっていることはごもっともです。ぐうの音も出ない正論です。でもさ…
「…それじゃ困る」
それじゃ困るんだよ。そもそも俺は「完成度の高い冒険者」になることが目標じゃないし。
「レイチェルさんの意見はちゃんと理解しました。確かにその通りだと思います」
そう、あなたが言いたいことはよくわかったし、ぶっちゃけ全部正しいと思ってる。でもね…
「でもそれだと俺は困る。俺、ずっとレイチェルさんに憧れて、レイチェルさんのようになりたくて冒険者になったんですよ」
というかそもそも俺は冒険者じゃなくて、あなたのパートナーになることが目的だからね。あなたと一緒じゃないと意味がないわけですよ。
「あと、正直俺たちがダートフォードにやってきたのも、レイチェルさんがダートフォードを拠点に活動しているって話を聞いたからだったんです」
俺はあなたに会うためだけに、この遠い遠いロザラム王国までやってきたんだよ。
「せっかく憧れの人と組めるチャンスがやってきたのに、そう簡単には諦められないんです。…それにほら、クリスさんは良いよって言ってくれたし!」
そう、クリスさんは合格判定だったんだ。ここはなんとかクリスさんの力を借りたい!援護射撃頼む…!
「…うーん、そうね…。でも正直、レイチェルが言ってたことはもっともなんだよね…」
「……」
ってえええ!?クリスさん、アンタ…裏切るのか…。
「でもさ、あたしと二人で仕事を続けるとしても結局は受けるクエストのレベルは落とさないといけないしさ…いいんじゃないの?ほら、あたしたちももう結構なベテランになったわけだしさ、良い機会だしここは可愛い後輩を育ててやるかって感じで」
「…!そうだよ!育ててよ!可愛い後輩だぞ!」
話を最後まで聞かずに裏切るなんて失礼なこと言って大変申し訳ない!クリス先輩最高です。もうレイチェル先輩の次に愛してるぞ!
「……」
「…期間限定という形でいかがでしょうか」
レイチェルさんが難しい顔をして考え込んでいると、それまで黙って話を聞いていたアーロンが何か解決策を思いついたらしく、レイチェルさんと会話を始めた。
「期間限定、ですか?」
「はい、確かにオーモンドロイドさんのおっしゃる通りです。僕たちの経験不足によってお二人にご迷惑をおかけすることもあるでしょう。そして、僕がお二人の立場でも初心者の僕たちと一緒に高難易度のクエストを受けることは避けたいと考えるはずです」
「…はい」
「だから、僕たちに3か月だけお時間をいただけませんか。具体的には3か月間、受注するクエストの難易度を少しだけ低めに調整していただいて、僕たちと一緒に行動していただきたいんです」
「……」
「その間に僕たちはお二人の正式なパーティーメンバーに相応しい相手に成長することを約束します。もし3か月後、僕たちにほんの少しでも頼りないところがありましたら、その時は遠慮なく切っていただいてかまいません」
「…なるほど」
いいぞいいぞ!やっぱこういう時のアーロンって信じられないくらい頼りになる。さあ、改めてお願いしますよ、Yesと言ってくれ。「よろしくお願いします」と言ってくれ…!
「…わかりました。では、それでお願いします」
「…!よっしゃ!!やったぁ!!今日からよろしくお願いします!!」
「…ちょ、声が大きいよ!ダミアンくん」
声大きくてごめん、クリスさん!でも今ちょっと俺は自分の感情をコントロールできない状態なんだ…!明日からは気をつけるから!
そしてレイチェルさん、よくぞ決断してくれました。一生大切にするからね。これから末永くよろしくな!
「…いいんじゃないの?良い機会だしここはブックマークや☆評価で可愛い作者を育ててやるかって感じで」
「…!そうだよ!育ててよ!可愛い作者だぞ!」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もうしません…!




