4話 説得されてしまいました
「ごめんなさい。私はやっぱりYesとはいえないかな…」
「……」
「…えっ、なんで?」
私の返事は二人にとっては予想外だったらしい。ジョンストンさんは無言で不可解な表情をしてみせ、メイソンさんは面喰ったような様子で理由を聞いてきた。
クリスは「あ、やっぱり?」って感じの顔はしているけど、なんとなく不服そう。
…みんな落ち着いて。ちゃんと理由を説明するから。
「お二人が相当な実力をお持ちなのはよく分かりました。でもね…」
黙って私の話に耳を傾けてくれる若き美男美女たち。なんか私、場違いじゃない?…いや、今はそんなことはどうでもいいか。
「お二人が実戦経験をほとんどお持ちでないという事実に変わりはありません」
それから、私は言葉を選びながらみんなに自分が考えを丁寧に伝えた。
二人が相当な実力を持っていることはよく分かったけど、一緒にクエストを受けてみて、二人の動きから実戦経験不足による少しの危うさを感じたこと。
どんなに実力があったとしても実戦経験に乏しい以上、いきなり高難易度のクエストに参加してもらうのはやはり二人の命の危険にさらす行為だと考えていること。
二人のためにしばらくは今より難易度低めのクエストを受注して仕事をしていくことも考えられなくはないが、正直、それは私がしたくないということ。
二人の冒険者としてのキャリアを考えても、いきなり私たちのような有名冒険者と組むよりも、まずは同じような経歴の冒険者同士で仕事をして一歩ずつ成長していった方が良いと思っていて、その方が間違いなくより完成度の高い冒険者への成長につながること。
「…まあ、それは確かにそうね」
「……」
クリスは私の説明に納得してくれた様子。ジョンストンさんは面白くなさそうではあったけど、私の言い分にも一理あると思ってくれたのか特に何も言ってこなかった。
問題は…
「…それじゃ困る」
やっぱこの人なんだよなぁ…。この1週間、ずっとテンション高めでやたらと私に絡んできた金髪の美少年くん。
ジョンストンさんとの手合わせの時も、昨日一緒に受けたクエストの時も、彼は常に私の視線を意識している様子だった。
ジョンストンさんとの華麗な手合わせがややメイソンさん優勢の引き分けで終了した時は、「どう?俺すごいでしょ?褒めて褒めて」とでも言いたいかのように、子犬のようなキラキラした目をして私に近づいてきた。
…実際にすごいと思ったからちょっと褒めてみたら、もう満面の笑みで分かりやすく喜んでくれた。
先日のクエストではモンスター相手に大暴れして自分の強さをアピールすると同時に、モンスターを討ち取る度に私に向かってドヤ顔をしてきて私をリアクションに困らせた。
メイソンさんと一緒に過ごしたのはわずか数日ではあるけど、どういう訳か彼が私のことを相当気に入ってくれていることはものすごく伝わってきた。
自意識過剰な女にはなりたくないけど、あそこまで分かりやすい行動をとられるとさすがに気づかない訳にはいかない…。
あっ、でももちろん、その「気に入ってくれている」ということが異性としての好意だとは全く思っていないよ。
私そこまで痛い女じゃないからね。たぶん冒険者としての憧れかなんかだと思う。一応私、世界中に名が知れている有名冒険者だからね。
いずれにしてもメイソンさんはまだ15歳だということもあって、おそらく彼は私の説明に納得してくれないんじゃないかと心配していたが…
「レイチェルさんの意見はちゃんと理解しました。確かにその通りだと思います」
…あれ?納得してくれるの?
「でもそれだと俺は困る。俺、ずっとレイチェルさんに憧れて、レイチェルさんのようになりたくて冒険者になったんですよ」
やっぱり彼は冒険者としての私に憧れていたんだね。まあ、そうだよね…。
「あと、正直俺たちがダートフォードにやってきたのも、レイチェルさんがダートフォードを拠点に活動しているって話を聞いたからだったんです」
メイソンさんの言葉に少し微妙な顔をするジョンストンさん。確かジョンストンさんは先週「たまたまダートフォードに立ち寄った」って言ってたもんね。
大丈夫だよ、ジョンストンさん。お姉さんそんな細かいことは気にしないから。…たぶん。
「せっかく憧れの人と組めるチャンスがやってきたのに、そう簡単には諦められないんです。…それにほら、クリスさんは良いよって言ってくれたし!」
そう言いながらクリスに助けを求めるメイソンさん。
「…うーん、そうね…。でも正直、レイチェルが言ってたことはもっともなんだよね…」
「……」
あ、今クリスが味方してくれないことに分かりやすくがっかりしたね、メイソンさん。
「でもさ、あたしと二人で仕事を続けるとしても結局は受けるクエストのレベルは落とさないといけないしさ…いいんじゃないの?ほら、あたしたちももう結構なベテランになったわけだしさ、良い機会だしここは可愛い後輩を育ててやるかって感じで」
「…!そうだよ!育ててよ!可愛い後輩だぞ!」
なるほど、そう来たか。確かに一理ある。…というか本当に調子の良い子なんだね、メイソンさんは。
「……」
「…期間限定という形でいかがでしょうか」
私が難しい顔をして考え込んでいると、それまで黙って話を聞いていたジョンストンさんが何か解決策を思いついたらしく、新しい提案をしてきた。
「期間限定、ですか?」
「はい、確かにオーモンドロイドさんのおっしゃる通りです。僕たちの経験不足によってお二人にご迷惑をおかけすることもあるでしょう。そして、僕がお二人の立場でも初心者の僕たちと一緒に高難易度のクエストを受けることは避けたいと考えるはずです」
「…はい」
「だから、僕たちに3か月だけお時間をいただけませんか。具体的には3か月間、受注するクエストの難易度を少しだけ低めに調整していただいて、僕たちと一緒に行動していただきたいんです」
「……」
「その間に僕たちはお二人の正式なパーティーメンバーに相応しいレベルに成長することを約束します。もし3か月後、僕たちにほんの少しでも頼りないところがありましたら、その時は遠慮なく切っていただいてかまいません」
「…なるほど」
うまいね、ジョンストンさん。断りにくい方向に話を持っていくのが。しかもすごい自信。3か月あれば少しも頼りないところがないレベルまで成長してみせるってことだよね?
…仕方ないね。クリスの言う通り、今すぐ引退した3人と同等の経験と実力を持つメンバーでも見つけない限り、いずれにしてもクエストの難易度は落とさざるを得ない。それなら二人で行動するよりは彼らと組む方がメリットあるよね。
経験不足とはいえ実力は確かだし、今お互いに欠けている部分を補い合える理想的な組み合わせだし。…あと、二人ともイケメンだし。
「…わかりました。では、それでお願いします」
「…!よっしゃ!!やったぁ!!今日からよろしくお願いします!!」
「…ちょ、声が大きいよ!ダミアンくん」
私が首を縦に振ったことを見た瞬間、雄叫びに近い歓声をあげながら全身で喜びを表現するメイソンさんと、そんな彼に慌てて声をかけるクリス。
…一応ここ、高級ホテルのラウンジだからね。今の時間帯、他のお客さんはほとんどいないけど。
可愛い後輩を育てるんでしょ?ちゃんと面倒見てね、クリス。
「良い機会だしここは可愛い作者を育ててやるかって感じで」ブックマークや☆評価をいただけないでしょうか…!?
…ごめんなさい。調子に乗りました。許してください。