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サイドストーリー1 あなたのことだけを見ている人がいます

ドミニク視点です。

 僕には非常に個性的な双子の兄がいる。名前はダミアン。


 魔道王国の第一王子として生まれながら、不幸なことに彼は魔力を認識できなかった。そして持って生まれた魔力自体も極めて弱かった。


 魔道王国の王族としては致命的なその欠点が原因で、幼い頃のダミアンはものすごくネガティブでひねくれた性格の少年だった。常に全身から負のオーラがにじみ出ている感じ…。


 正直、僕はそんなダミアンのことが苦手だった。


 彼の卑屈な言動も、すべてを諦めているかのような態度も好きになれなかったし、何よりも彼のそんな姿を見ていると自分がなんとなく罪悪感に苛まれてしまうのが嫌だった。


 僕はダミアンとは対照的に非常に強い魔力に恵まれ、魔力の認識も早かった。


 いつだったかな?そんな僕のことを称賛する言葉として「二人分の魔力を持って生まれた」というとんでもない表現を選んだ人間がいた。


 …幼い僕にはその言葉がすごくショックだったのを覚えている。


 それじゃまるで僕が母のお腹の中でダミアンの分の魔力を奪い取っているようではないか。ダミアンが魔力を持たないのも、それによってあんなに苦しんでいるのも、すべて僕のせいだとでも言いたいのか。


 そしてその日から僕は、もしかしたらダミアン本人も僕が自分の魔力を奪い取ったと思っていて、僕のことを内心恨んでいるかもしれないと考えるようになってしまった。


 だから僕は、いつの間にかダミアンと関わることを避けるようになってしまった。元々ダミアンは僕と積極的に関わろうとしていなかったから、僕たちは自然と疎遠になっていった。


 彼が突然変わったのは、8歳の時だった。今でも覚えている。2週間ぶりに会った彼は、前とは全く違う人間になっていた。


 激変とか豹変という表現がぴったりだと思う。まるで魂が入れ替わったようだった。目の前の少年はダミアンではない誰かではないかと本気で疑ってしまった。


 生まれ変わったダミアンはとにかく明るくて前向きだった。今までの卑屈な少年はどこ行ったんだって思うくらい堂々としていて、常に自信満々。


 魔力を認識できないのがどうした?とでも言いたいかのような、良い意味でふてぶてしい態度に、魔力の欠如を剣術で補うと宣言してその日から狂ったように練習に取り組む行動力。


 たった2週間で彼に何があったのかを当時は知らなかったけど…生まれ変わった彼ははっきり言って、カッコよかった。尊敬できる存在だと思った。見習いたいと思った。


 でも、その頃からダミアンは並々ならぬ個性を発揮するようにもなってしまった。


 彼は、自分が魔力を持たないことを逆手にとり、王子の身分でありながらも自由気ままな人生を楽しむことにしたようだった。


 自分の人生の唯一の目標は特定の女性と結ばれることで他のことはどうでも良いと宣言し、実際に自分の言葉通りにその女性と結ばれるためだけに行動するようになった。


 「いやお前、仮にも世界屈指の大国の次期国王という身分だろうが…」とずっと心の中でツッコんでいたのたけど、13歳になった彼はその「次期国王」の身分をいとも簡単に手放してしまう。


 魔力を持たない自分は次期国王になるべきではないと主張し、自ら王位継承権を放棄してしまったのである。


 そして王位継承権放棄の条件として、裏では自分が選んだ女性と結婚する権利を保障してもらったらしい。…ブレないなと思った。さすがだよ。


 そのせいで、僕は特になりたいとも思っていなかった次期国王の座を押し付けられることになってしまった。


 まあ、正直、魔力の関係でいつかはそうなるかもしれないと思っていたから別にダミアンを恨んではいないし、逆に誰も傷つかない方法を選んでくれたという点では彼に感謝しているくらいだけど…。


 僕が彼に憧れや嫉妬を感じてしまうのは仕方ないよね。


 僕とは比べ物にならないほど自由に生きることができている彼の姿。愛する相手のことだけを考えて、そのためだけに行動することができる彼の環境…。


 正直めちゃくちゃうらやましい。強い魔力を持つのがダミアンで、魔力が持たないのが僕だったらよかったのに。


 …こんなことダミアンには絶対言えないし、仮に僕に魔力がなかったとしても僕がダミアンと同じように前向きに生きることができたかはわからないけどね。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 僕がダミアンに対して複雑な気持ちを抱いている理由は他にもあった。いや、「他にもある」というか、本当はこれが僕のダミアンに対する羨望と嫉妬の理由の9割以上を占めているかもしれない。


 その理由とは、公爵令嬢シャロン・ローズデールの存在だった。


 僕たちと同じ年のシャロンさんは、9歳の頃に初めて僕たちと出会ってから何年も健気にダミアンのことを想い続けている。


 しかし、ダミアンは自分の人生を変えてくれた女性のことしか考えていないから、シャロンさんの想いはいつまで経っても報われることはなかった。


 いつからかな?僕はそんなシャロンさんのことが好きになっていた。


 一目惚れというわけではない。おそらく僕は、何があっても一途にダミアンのことを想い続けるシャロンさんの姿に惚れてしまったんだと思う。


 彼女の一途な想い、彼女の深い愛情が欲しい。僕だったら彼女のことを悲しませたりしない。あんな寂しそうな顔をさせたりしない。


 …気がついたらシャロンさんとダミアンのことを見る度にそんなことを考えている自分がいた。


 他の男、それも自分の双子の兄に恋する姿に惚れるって自分でもどうかしていると思う。


 でも、きっかけや理由がどうであれ、僕は僕でシャロンさんに何年も片思いをしているというのも事実。


 だから僕は今、ここにいるし、またしても傷ついてしまったシャロンさんの心を少しでも癒すためにどう声をかけるべきか必死に考えている。


 …しばらく考えて、なんとか自分なりの結論を出せたので、僕はできる限り優しい声で彼女に声をかけた。


「…泣いても良いですよ」

「…いつからいらっしゃったんですか」


 ダミアンが走り去った方向を呆然と眺めていたシャロンさんは、僕に後ろから声をかけられてもあまり驚かなかった。


「ほぼ最初からです。そしてオーモンドロイドさんが偶然今のタイミングでこちらを通りかかるように裏で調整されていたのも知っています」

「…!?…どうして?」


 今度はさすがに驚いて、僕の方に振り向いてくれるシャロンさん。振り向いた彼女は、今まで何度も見てきた寂しそうな顔をしていた。


 …だから何度も言っているのに。僕ならあなたを悲しませたりしないって。そんな寂しそうな顔をさせたりしないって。


「シャロンさんがずっと彼のことを見ているように、僕はシャロンさんのことをずっと見ていますから」

「……」


 僕は先ほどのシャロンさんのセリフをそのまま拝借することにした。シャロンさんに対する僕の愛情が、彼女のダミアンに対する気持ちに負けないくらい大きくて深いものであることが彼女に伝わることを願って。


「…何度好きと伝えても振り向いてもらえないということはね、きっと脈なしだと思うんです」

「……」

「そしてシャロンさんには、幼い頃からずっとあなたのことだけを見ている人がいます」

「…殿下」

「一度でいいから僕にもチャンスをいただけませんか。絶対に後悔はさせませんし、僕を選んでよかったって思っていただけるように頑張ります。あなたを、必ず、幸せにします」


 僕の言葉を聞いたシャロンさんは、涙を流し始めた。普段自分の弱いところを決して見せようとしない彼女の涙。


 その涙には今までの数年分の彼女の気持ちがすべてこもっているようで、いつまでも止まらなかった。


 そして僕はただ黙って、彼女のことを優しく見守ることにした。


 今までの彼女の寂しさ、悲しさ、もどかしさ、悔しさ…そしてできればダミアンに対する深い愛情も彼女の涙とともにすべて流されることを願いながら。


 すべてを洗い流した彼女の心にできた空白は、必ず自分が埋めると誓いながら。

…しばらく考えて、なんとか自分なりの結論を出せたので、私はできる限り優しい声で読者様に声をかけた。


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