最終話 アラサーの女騎士ですが、12歳年下のヤンデレ王子に求婚されています…
「…私、ダミアンのことが好き。大好き。心からあなたを愛しています。だからどうか…私と付き合ってください」
その日、いつもの「問いかけ」は一切聞こえてこなかった。もう私の心に迷いがなかったからだろうね。
私の言葉に驚いてしまったのか、何とも言えない表情で固まってしまうダミアン。そして無言で彼の返事を待つ私。
…できればダメとは言わないでね。私があなたに愛想を尽かされても仕方がない行動をしてきたのは認めるけど……。
いや、もしダメならダメって言ってくれても良いよ。もしそうなったら今度は私があなたに付きまとうことになるけどね。
「…!?あっ、はい!もちろん喜んで!ぜひ!!」
「…ありがとう。嬉しい。これからもよろしくね」
「あっ、いえ、こっちこそ!」
「今までダミアンを苦しめた分、必ず償うからね。あなたのこと、絶対幸せにするから」
そう、私が彼を幸せにするんだ。私がどんな存在で、何ができて何ができないかは問題じゃない。
彼のために私にできることはすべてして、彼のために尽くして尽くして尽くしまくって、一生かけて彼に恩返しをしていけば良い。
彼が私を求めてくれる限りは、いつまでも彼のそばにいよう。これからは彼のためだけの存在になって、彼のために生きていこう。精一杯、彼を愛していこう。
「一緒に、幸せになろうね」
そう言って私は、まだ少しボーッとしているダミアンの唇に軽く触れる程度の口づけをした。…もしかしたら私、初めて彼に対して年上のお姉さんっぽいことができたのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダミアンと付き合い始めてから、私は変わった。毎日吸っていたタバコも、たまに一人で深酒をする癖も、私の健康を心配してくれるダミアンのために全部やめた。
自分を卑下したり、すぐにネガティブな方向に物事を考えてしまう面倒な性格も頑張って直そうとしている。
たとえばよく言っていた「ダミアンが飽きるまで、私と一緒にいてね」というセリフ。
実際にダミアンが私に飽きる日が来るなんて思ってもいないわけだから、あんなこと言う必要ないよね。こういうところ、ちゃんと直さなきゃ。
…もう私のせいで彼が寂しい思いをすることは絶対にないようにしたいからね。今まで散々辛い思いをさせてきたわけだから。
とまあ、こんな感じですべてを彼に合わせて、彼のためにダメな自分をどんどん変えていってるわけだけど…これが不思議なことに全くストレスにならないんだよね。
彼のために頑張れることがとても嬉しい。彼の色に染まっていく自分が好き。もっと彼のために変わりたいし、彼の望み通りの私でいたい。
というかもうレイチェル・オーモンドロイドとしての自我もアイデンティティーも要らないから、ただダミアンのためだけに存在する女でありたい。
…我ながら極端だね。ダミアンのことをヤンデレ呼ばわりする資格は私にはなかったかもしれない。
「そういえばさ」
「…うん?」
「王都に来るきっかけになった「実家の用事」ってなんだったの?もう解決したの?」
「……」
ある休日の午後、まったり彼との時間を楽しんでいた私は、私たちが王都に来たきっかけがダミアンの「実家の用事」だったのをふと思い出した。
もう王都に来た理由なんかどうでも良いけど、無事問題が解決されたかどうかは気になるじゃん?だから聞いてみた。
「あー、えっとね…それは…」
「…?」
「…本当は実家の用事なんて何もなかったり…するんだよね。あはは」
「えっ?」
ダミアンはとても気まずそうな顔で真実を話してくれた。
最初からダミアンの実家の用事など存在しなかったらしい。ダミアンが私を王都に連れてきたのは、専ら私がどこにも逃げられないように王城に閉じ込めて外堀を埋めることが目的だったと。
…ふふ。やっぱりヤンデレさんだね。
「…幻滅した?」
こちらの様子を窺うような顔をするダミアン。
「ううん、幻滅なんかするわけないじゃん、ふふ。というか、もし今も私をどこかに閉じ込めておきたいなら、いくらでも監禁してくれていいよ。ダミアンが望むなら私、監禁でも拘束でも喜んで受け入れるから」
そう言いながら私は、ダミアンを優しく抱きしめた。…彼の体温が心地よい。いつまでもこうしていたいな…。
…ってあれ?もしかしたら私も今、割とヤンデレっぽいこと言っちゃった?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都ハート・オブ・ベルティーン。500年の歴史を誇る魔道王国シェルブレットの首都で、ベルティーン湾のラグーンの上に築かれた、運河が縦横に走る美しい「水の都」。
私は今、そのハート・オブ・ベルティーンの中央部に位置する壮大で煌びやかな城…つまり魔道王国シェルブレットの王城にいた。
しかも私がいる場所は、巨大な王城の最上階に作られたバルコニー。そこから見える「水の都」の夜景は控えめに言って最高だった。
でも、今の私の目にはその「水の都」の絶景は少しも映らなかった。それよりも遥かに美しい青年が真っすぐ私を見つめてくれているから。
彼は優雅な動作で片膝をつき、私に向かって指輪を差し出してきた。そして…
「レイチェル・オーモンドロイドさん」
「…はい」
「一生大切にしますので、僕と結婚してください!」
…こんな私を選んでくれて、愛してくれてありがとう、ダミアン。
私も心からあなたのことを愛しています。
だから私の返事はもちろん…
「はい、私でよければ喜んで!」
END
本編完結しました。
ブックマークや☆評価をくださった皆様、感想を送っていただいた皆様、誤字報告をしていただいた皆様、そして最後まで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。
あとはサイドストーリーを少しだけ投稿して、本作は完結させる予定です。
ぜひサイドストーリーも最後まで読んでいただけると嬉しいです。
引き続きブックマークや☆での評価もお待ちしております。
本当にありがとうございました!




