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32話 失言でした

 騎士団に復帰し、ダミアン専属の近衛騎士になって数か月。気がつけば私は29歳になっていた。あと少しで私も30代か……。


 そう言えばダミアンが言っていた通り、騎士団復帰後しばらくして本当に四天王就任の打診があった。


 さすがに私には荷が重いと言って断ったんだけど、今の四天王のどなたかが引退したらその時はぜひよろしくお願いしますって複数の関係者に言われちゃった…。


 …本当に魔力さえ強ければどんな経歴の人間でも重用しちゃうんだね、この国は。


 相変わらずダミアンによるストレートな愛情表現は続いている。…飽きないのかな。いや、もちろんすごく嬉しいし、めちゃくちゃ幸せだけどさ…。


 手紙で伝えた私の体のことに関しては、完治の方法を探すために全力を尽くすけど、仮にダメだったとしても私に対する気持ちは変わらないと言ってくれた。


 自分は今までもこれからも「レイチェル・オーモンドロイド」を愛しているわけであって、私がどんな存在で、どのような問題を抱えているとしてもそのすべてを受け入れて愛し続けると言ってくれた。


 …泣きそうになった。というかその夜は自分の部屋で一晩中号泣した。ダミアンのためになら死んでもいいって本気で思った。


 それなのに私は、未だに彼の気持ちを受け入れることができていなかった。私も彼と一緒になりたいと強く願っているのに、最後の一歩を踏み出すことができない。


 勇気を出して一歩踏み出そうとするとその瞬間、必ず私の中の誰かが私に問いかけてくるんだよね…。


『本当にそれで良いと思ってるの?あなたと一緒になることによって、彼は悩まなくても良いことで悩んで、最終的には何かを諦めた人生になっちゃうんだよ。あなたのせいで』


『相手は王族だよ?そして王族にとって子孫を残すことは重要な使命なの。あなたも知ってるよね?』


『彼、最高に素敵な父親になると思わない?』


『イアンと別れた時の気持ち、忘れたのかな?あなたは他の誰よりもダミアンのことを幸せにできるの?そうでないとしたら、彼の幸せを奪った自分を許せる?』


 私は自分の中から聞こえてくるこの「最後の問いかけ」を乗り越えることができていなかった。


 自分の優柔不断な性格とメンタルの弱さを何度嘆いて、何度呪ったか分からない。でも、自分でも本当に情けないんだけど…できないものはできないんだ…。


 そうしているうちにもう外堀は完璧に埋まり、いつの間にか王城の人たちの間では「ダミアン殿下はいつになったらレイチェル・オーモンドロイドを落とせるのか」というテーマが万人受けする鉄板の話題として好まれるようになっていた。


 最近分かったことなんだけど、ダミアンは王位継承権を放棄する条件として「自分の好きな相手と結婚できる権利」を保障してもらったらしいんだよね。


 そしてそのダミアンが結婚したい相手が誰なのかは一目瞭然だし、ダミアンが私を逃さないように手を尽くしているのも公然の秘密だから、もう私がいつかダミアンに落とされるのはほぼ確定事項で、時間の問題だと思われているみたい。


 そうなのかな。それなら私も嬉しいんだけどね。というか早く最後まで堕として欲しいくらいだよ。


 …っていくらなんでも受け身すぎるでしょ、私。12歳も年上なんだぞ。


 そういえば最近はますます「年上感」がなくなっているというか、もう日常的にダミアンに翻弄されたり論破されたりするようになった。


 たとえば、私が「騎士団に戻ったわけだから、二人きりの時も今まで通りあなたを呼び捨てにして、敬語も使わないのはさすがにまずいと思う」という趣旨のことを伝えたところ、即座に次の回答が返ってきた。


「第一王子ダミアン・シェルブレットが近衛騎士レイチェル・オーモンドロイドに命ずる。今まで通り接するように」


 …なんかね、最近彼に「一蹴されてしまう」ことが非常に多いんだよね。たぶん私が頻繁に訳の分からないことを言っているのが悪いんだろうけどさ。ちょっと悲しい。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 クリスの体に新しい命が宿った。クリスはもちろん、普段はポーカーフェイスのアーロンくんまで別人のように緩んだ表情で毎日幸せそうにしている。


 クリスは私の体のことを知っているので、なんとなく私に気を使っている様子だったけど、もちろん私はクリスの幸せを心から喜んでいた。


 クリスは私にとって家族と同じか、それ以上に大切な存在だからね。クリスが幸せなら私も幸せだよ。


 ただ、もしこのままダミアンが私と一緒になったら、彼は今アーロンくんが感じている幸せを永遠に味わうことができないかもしれないということを改めて痛感し、例の「最後の問いかけ」がさらに勢いを増したのも事実だった。


 そんなある日、私はまたしてもダミアンのお気に入りのバルコニーに連れていかれることになった。


 もうダミアンにエスコートされたら何も考えずについていくのが当たり前になった私は、例のバルコニーに到着してから「あっ、これまずいのでは?」と思ったんだけど、時すでに遅し。


 予想通り、待っていたのはダミアンによる二度目のプロポーズだった。


 もちろん死ぬほど嬉しかったし、悩みに悩んだ。もう全力で自分の中から聞こえてくる「最後の問いかけ」と戦った。


 私で良ければ喜んでと答えたかった。私も愛してるって叫びたかった。でも、結局私は今回も「最後の問いかけ」を乗り越えることができなかった。


 そして問題はその後に発生した。無意識に私は、ダミアンがとても悲しむような、ずっと前から彼がもっとも嫌っている内容の発言をしてしまったのである。


「王子様と合成獣の結婚はさすがに無理があるって…」


 小さい声の独り言のつもりだった。でも二人きりの夜のバルコニーという環境で、その独り言がダミアンに拾われたのは言うまでもなかった。


 前から私が自分を卑下することを嫌っていたダミアンは、私の「合成獣」という言葉を聞いてとても悲しそうにしていた。


 私は慌てて自分の発言を謝罪したんだけど、見たこともないような感じで落ち込んでしまったダミアンはその後ほぼ無言になってしまい、その日は結局気まずい状態で別れることになった。


 その段階ですでに大好きな人を傷つけてしまったことを激しく後悔し、深く反省した私だったが、数日後、自分の不用意な発言の代償が予想よりも遥かに大きかったことを思い知らされる。


 数日間気まずい状態が続いた後のある日の朝、そろそろ土下座でも何でもして許してもらおうと思ってダミアンの執務室に向かった私だったが、そこにダミアンの姿はなかった。


 代わりに私が彼の机の上から見つけたのは、私宛の一枚の手紙だった。

「相変わらず作者によるストレートなブックマークや☆評価のおねだりは続いている。…飽きないのかな」


…飽きません。どうかよろしくお願い致します。

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