28話 ヒロイン体質のお姉さん
オリヴィア視点です。
あたしとシャロンちゃんで考えた作戦はシンプルだった。
その作戦とは、シャロンちゃんが「あなたを相手にもしてくれないレイチェルさんのことは諦めて、ずっと前からあなたのことが大好きだったわたしと付き合って」とダミアン殿下に迫るというもの。
…あえてその場面を先輩が目撃するように仕組んだ上でね。そうすることによってどちらに転ぶとしても状況は動くとあたしは考えていた。
年齢差や身分差などを理由に自分の気持ちを我慢しているだけで、実は先輩もダミアン殿下に好意を抱いているのであれば、二人の仲が進展するきっかけになるはず。
もしそうでなく、先輩が本当にダミアン殿下に全く興味がないということが判明すれば、あたしがより積極的に先輩を落としにいくきっかけになる。
誰にも遠慮する必要がなくなるわけだからね。…まあ、最初から誰にも遠慮してない説はあるけど。
そしてシャロンちゃんとダミアン殿下の仲に深い興味をお持ちであろうもう一人の王子様にも事前に連絡して来てもらっているから、場合によってはドミニク殿下とシャロンちゃんの仲が進展するきっかけにもなるかもしれない。
ちなみにドミニク殿下はあたしが声をかけた時は「今度は何を企んでいるんです?」と可愛くないことを言ってきたくせに、あたしが「ダミアン殿下とシャロンちゃんに関すること」と言った瞬間から非常に協力的な態度であたしの言葉に耳を傾けてくれた。
…男の子って単純だね。
それにしても、ふふ、楽しい。これ楽しすぎる。こんな面白いことある?二人の王子と二人の公爵令嬢を巻き込んだ愛憎劇。カギを握るのはなんと正体不明の旅の魔導士だった!
…いや別に先輩は正体不明でもなんでもないんだけど。
というかよく考えたらすごいね、先輩。自覚がないまま王子二人と公爵令嬢二人の気持ちを振り回している。先輩のような人を天性のヒロイン体質というんだろうね。…別にうらやましくはないけど。
あっ、ちなみに二人目の公爵令嬢はあたしのことだよ。あたしこんなんだからよく忘れられるけど、一応ラインハルト家の娘だからね。
家族からは「仕事の時以外はなるべく名字を名乗るな」と言われてるけど。……ひどい。
そんなことはどうでも良いね、うん。そんなことよりあたしとシャロンちゃんの作戦の結果がどうなったかというと、先輩はほぼ間違いなくダミアン殿下に好意を抱いていて、それを我慢しているだけだということが判明した。
取り乱した様子でダミアン殿下とシャロンちゃんの話に乱入して短い会話を交わしてから走り去って行ったからね。
…そうか、そうだったのか。よかったね、ダミアン殿下。
そのダミアン殿下はシャロンちゃんのことをほったらかしにして先輩を追いかけて走って行ったんだけど…結局捕まえられなかったらしく、王室近衛隊でも動員して捜索を行う勢いで慌てふためいていた。
そこであたしは「自分なら彼女の居場所を特定できる。遅くても明日には連れ戻すから今日は待っていてほしい」とダミアン殿下に伝え、先輩に行方を追った。
あたしが先輩にプレゼントした特殊な魔力付きのブレスレットを追跡すれば先輩のところに簡単にたどり着けるからね。
あっ、誤解がないように言っておくと、あたしは別にストーカーではないよ。彼女の魔力がもっとも乱れている部分、つまり左腕の魔力が少しでもコントロールしやすくなるように自分で作ったブレスレットをプレゼントしたんだよね。
で、そのブレスレットには自分の魔力を込めているから、たまたま追跡できる状況なだけ。決して最初から彼女の行動を監視する目的でブレスレットを渡したわけではない。
…本当だよ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
繁華街から少し離れた場所にある静かな酒屋の奥の席で、先輩は一人でお酒を飲んでいた。彼女に近づく前に少し離れた席で彼女の行動を観察してみたけど…
いや、先輩、ひどい飲み方をする人だったんだね。
…あれはよくないな。もはや自傷行為だよ。おつまみもなしで、すごいスピードで次々と強い酒を飲み干してる…。しかも絶え間なくタバコを吸いながら。
…あれはダメだ、もうさっさと声をかけよう。
「あたしとの約束をすっぽかすとか、すごい度胸ですね?先輩」
声をかけられた先輩は虚ろな目であたしの方に視線を向けた。…うわ、何その屍のような生気のない顔。普段のオーラはどこいった。
「…申し訳ございません。どんな罰でも甘んじて受けます」
そして投げやりな感じで適当なことを言ってくる先輩。…ちょっと悪戯してやろう。
「へぇ。それって今夜は先輩を好きにしていいってこと?」
あたしは急に顔を近づけて先輩の左耳の近くでそう囁いた。そしたら先輩の体がビクッてなった。うん、素敵な反応。可愛い♡
「…そうですね。それもいいかもしれません」
あっ、またそんな投げやりなことを…今のは可愛くない。
「はぁ…つまんないの。まあいいや、たまには一緒に飲みましょう」
そう言ってあたしはお酒とおつまみを適当に注文し、あえて彼女にしつこく話しかけることで彼女の飲酒のペースを遅らせた。
ちなみにタバコの方は非喫煙者のあたしに気を使ってくれているのか、あたしが隣に座ってからは吸わなくなっていた。
相当酔っ払っているはずなのにちゃんと相手に対する配慮を忘れないところ、すごく素敵だな。
「で、何があったんですか?」
ある程度世間話をしてから、あたしは彼女に本題をぶつけてみた。…何があったのかはもちろん知ってるけどね。ごめんね。
「何がと言いますと…?」
「…あたしとの約束をすっぽかして、しかもこんな早い時間から訳のわかんない飲み方してるじゃん?…何かあったんでしょ?今日」
「……」
意外にも先輩はダミアン殿下とのことを詳細に話してくれた。
お酒の力なのかもしれないし、今日のことがこちらの予想以上に彼女にとってはショックで、相当弱っているのかもしれないね。だとしたら申し訳ないことをしたな…。
いずれにしても…そうだったんだ。やっぱり先輩もダミアン殿下のことが大好きだったんだね。途中からずっと泣きながら話してたし。
ふーん、そう。…なんか面白くないな。
…でもまあ、しょうがないか。最初からその可能性は低くないと思ってたんだ。なんとなく。
今のダミアン殿下、普通にカッコいいしね。男性が恋愛対象の人がダミアン殿下のような人に何度も好意を伝えられたら好きになっちゃうのも分かる気がする。
一通り自分の思いを吐き出した先輩は、いつの間にかスヤスヤ眠ってしまっていた。そしてお店のマスターから彼女がすでに宿泊料金を支払っていて、意識を失ったら上の階の部屋に運んでくれと頼まれていることを聞かされた。
…先輩、もしかしてあたしのこと誘ってる?あたし、今までの理性が欲望に勝ったことは一度もない女なんだけど。
と思ったけど、宿屋の指定された部屋のベッドに寝かせた直後に先輩が「ダミア…ン…好き」と寝言を言ったことで、これ以上なく興醒めしたあたしは大人しく彼女の部屋を後にした。
そして王城に戻ったあたしは、落ち着かない様子で自室をぐるぐる歩き回っていたダミアン殿下に先輩が見つかったことを伝えたうえで、彼女が泊っている宿屋の情報を彼に教えてあげた。
…めちゃくちゃ感謝された。わずかな会話の中で5、6回くらい感謝の言葉をかけられた気がする。しかもこれでもかってくらい心がこもった感じの感謝の言葉をね。
……はぁ、両思いでいいな。
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