22話 プロポーズするよ
嬉しいことに、レイチェルは俺との出会いを思い出してくれた。
俺が8年前と同じ場所で同じ言葉をかけた瞬間、彼女の中で「あの時の少年」と「ダミアン」の存在がつながったらしく、彼女はとても驚いた顔をしていた。
大きく目を見開いた表情がまた最高に可愛かったんだよな…。
ただ、だからといってレイチェルの気持ちが変わるわけではないことを俺はよく理解していた。
何度も彼女に振られているから、なんとなく分かるんだ…「たぶん今告白してもまた断られる」ということが。
だから俺はしつこくレイチェルに交際を迫ることを一旦やめて、少しずつ外堀を埋めていくと同時に彼女をとことん甘やかすことにした。
そうすることでレイチェルが逃げられない/逃げたくない状況を作って彼女を俺のところに縛り付けておきたいなと思って…。
…はい、こわいとか気持ち悪いといった指摘や批判は甘んじて受け入れましょう。でも仕方がないんだ。こっちだって必死なんだから。
俺は目的のためには手段を選ばない人間で、俺の唯一の生きる目的はレイチェルと一緒になることだからね。
そういえばアーロンとクリスの結婚が決まった。思ったよりも展開が速くてビックリ。おめでとう。末永くお幸せに…!
正直、毎日のように幸せそうにいちゃついていて、早々に婚約にまでたどり着いた相思相愛の彼らのことが羨ましくないと言ったら嘘になる。
俺も早くレイチェルとお付き合いしたい。毎日レイチェルとイチャイチャしたい。レイチェルと結婚したいさっさと彼女にウェディングドレス着せたい何なら今すぐにでも結婚指輪を渡したい…!
…落ち着こう。冷静になろう。
俺が今やるべきことは妄想に精を出すことではなく、アーロンとクリスの婚約を祝福し彼らの友人として二人をサポートしつつ、二人の婚約という事実をレイチェルとの関係を進展させるためにどううまく活用するか考えることである。
たとえば、アーロンとクリスが結婚してから王都に定住するのであれば、その事実を材料にレイチェルに次のような提案をしてみても良いかもしれないね。
「今までそうしてきたように、これからも4人で仲良く暮らそう。アーロンとクリスが結婚したことだし、ここはパーティーに入れてくれた時と同じように「お試し」でもいいから一度俺たちも結婚してみない?今度の「お試し期間」は100年だけどね」と。
…さすがに超展開すぎるか。しょうもないことを考える暇があったら引き続き外堀を埋める作業に集中すべきだな。うん、そうしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近、少し困っていることがある。魔道学園が夏休みに入ってから、幼馴染で親友のシャロンがやたらと俺に絡んできているのである。
夏休みなのに地元のローズデール・ラインハルト大都市圏に帰省しようともせず、王都に残って毎日のように俺のところに来ている。
ちなみに彼女のフルネームはシャロン・ローズデール。三大公爵家の一つであるローズデール家のご令嬢で、年齢は俺と同じ16歳。上品なシャンパンゴールドの髪と美しいサファイアブルーの瞳を持つ正統派の美少女である。
そんな彼女は、魔道王国の名門貴族であるローズデール家に生まれながら微弱な魔力しか持っていなかったことから、俺と同じようにあまり楽しいとはいえない幼少期を過ごしていたらしい。
だから初めて会った時はまるでレイチェルに出会う前の俺を見ているようなネガティブでひねくれたお嬢様だったけど…。
どうやら自分よりも恵まれない条件(魔力ゼロ)で生まれたのに、それでも前向きに頑張っている俺の姿に勇気づけられたようで、俺を見習って自分も剣術を磨いていくことにしたらしい。
俺にとって彼女は同じような境遇で育ったからお互いを理解し合える大切な友人という位置づけなんだけど…。
彼女の俺に対する気持ちがおそらく、俺の彼女に対するものとは違う性質のものだろうなってことは一応理解している。
そしてそんな彼女が夏休みに入ってからやたら俺に付きまとってくるようになったのは、たぶんレイチェルが王城に現れたことによる焦りが原因なんだろうなということも。
俺、幼い頃から自分を前向きに変えてくれたのは一度しか会ったことがない年上の魔導士で、大人になったら彼女を探し出して王都に連れ帰るんだって何度かシャロンにも言ってたからね。
…我ながらシャロンには残酷なことをしちゃってたね。
でもごめん、シャロン。一途に俺のことを想ってくれているのは嬉しいけど、俺が愛する女性は生涯レイチェルだけなんだ…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今の俺は自分に魔力がないことに心から感謝している。
魔力がなかったからこそ、俺はレイチェルと出会えて彼女のことが好きになれたわけだし、魔力がなかったからこそ、第一王子という身分なのにこんなにも好き放題生きることができている。
魔力がなかったからこそ、俺は魔道学園に行かずにレイチェルを探すための旅に出ることができた。
一国の王子が王城を離れて冒険者として活動するというのは、普通は考えられないことだと思うけど…幸いにもまわりの大人はほとんど俺の行動に口出ししないというか、正直俺のことをあまり気にしていない感じなんだよね。
ポジティブに考えると「13歳で空気を読んで自ら王位継承権を放棄せざるを得なかった第一王子」に同情し、「可哀想な王子にはせめて好きなように生きて幸せになってほしい」と温かい気持ちで見守ってくれているんだと思う。
ひねくれた考え方をすると「ぶっちゃけ国にとって彼はどうでも良い存在だから好きにしてもらって構わない」という無関心なんだろうね。
まあ、実際にはほとんどの人が両方の気持ちを持っていると思うけどね。
我ながら完璧なタイミングで正しい選択をしたと評価している過去の自分の行動は、13歳で王位継承権を放棄し、名ばかりの第一王子になり下がることを自ら申し出たことである。
俺が王位継承順位一位で、ドミニクが二位だという事実はいろんな人にとって頭痛の種だったと思うんだ。
魔力を持たない王子を「魔道王国」の次期国王にするわけにはいかないだろうとか。だからといって何の罪のない第一王子を廃嫡するのか?とか。
そこで俺が自ら「魔力を持たない自分は、次期国王になるべきではない」と言って王位継承権の放棄を申し出たわけだからね。もうみんなすっきり!問題解決!って感じだったんだろうね。
そして俺は俺で、王位継承権の放棄する代わりに自分自身にとってもっとも必要な権利を保障してもらったから、あの時の決断は俺自身にも最高にハッピーな結論をもたらしたわけだ。
そう。俺は自ら王位継承を放棄する条件として、結婚だけは自分が選んだ人とさせてくれと交渉し、無事認めてもらっていた。
我ながら強かで抜かりのない13歳だったなと思う。3年前の自分を褒めてあげたい。
…いやまあ、もちろんアーロンと相談していろいろアドバイスをもらいながら決めたことだったけどね。
いずれにしてもそういうわけで、今の俺は自分が決めた人と結婚する権利を持っている。だから後は、最愛の人に振り向いてもらうだけなんだ。
アーロンとクリスも先日結婚したわけだし、外堀を埋める作業も順調に進んでいるから、そろそろもう一度レイチェルに交際を迫ってみても良いかもしれない。
…いや違うな。もうここは「交際の申し込み」じゃなくて、ステップを一つ飛ばして「プロポーズ」にしてみようか。
さすがに唐突すぎるかもしれないけど、もう俺が8年も彼女のことを一途に想っていることは彼女にも十分伝わっているはずだし、結婚式でクリスの姿を見るレイチェルはなんとなく花嫁姿に憧れているように見えたんだよね。
…うん、そうだね。やっぱり今回は「プロポーズ」にしてみよう。ダメならまた一から頑張れば良い、何度断わられても俺はくじけない!
そうと決まれば即行動あるのみ。早速準備に取り掛かるぞ…!
そうすることで読者様がブックマーク/☆評価をつけたくなる状況を作っておきたいなと思って…。
…はい、こわいとか気持ち悪いといった指摘や批判は甘んじて受け入れましょう。でも仕方がないんだ。こっちだって必死なんだから。




